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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
第一章
6/57

1-6 ギルドマスター・ルナ

◆セリア




「……つまりこちらの不手際で殉職扱いになっているのは不当と、そう仰っしゃりたいのですね?」

「ええ。こうして生きて歩いてあなたの前にいるのに、それでも死んでいると?」


 本部事務所情報管理局、通称4号塔。本部事務所は巨大な複数の塔からなる城であり、中央塔を囲むように全12基の尖塔がある。中央塔が総本部、尖塔はそれぞれの事務局として運用されている。

 勇者付きの事務局ではなく先にこちらに来たのには理由があった。私のギルドカードの元となるインゴットはこちらに保管されているためだ。ギルドカードは各個人ごとに特殊な鋳塊を切り出して作られている。もちろん所属している全員分ではないが、本部のギルド職員と各国の勇者パーティはこれの作成が義務付けられている。自分の持つカードとそのインゴットを照合すればカードに問題がないことが証明でき、自分の殉職も撤回できるはずだと考えたからだ。

 情報管理局はその秘匿性により対応はすべて個室対応。職員は統一された紺のローブで外見を覆い、魔導具により声も変えている。そんな彼だか彼女だかわからない職員はため息をつく。


「普通はなりすましを疑います。カードは確かに本人のものでしたが、……勇者付きセリア。本名は同じくセリア、家名はなし。年齢は当時17歳。出身はポロニア王国内の集落。6歳からはギルドの訓練学校に所属。15で勇者付きに任命され、16で辺境都市国家オルラーデへ。その後現ケシニ国内の未登録ダンジョン内で同所属冒険者パーティと戦闘し死亡。ただし加害者の証言のみでダンジョン消滅の際に遺体は確認されていない、ですか」

「そこです。遺体は見つかっていない。それは生きていたから、違いますか?」

「こちらは現場の判断を信じるのみです。報告書によれば約半年間オルラーデとケシニは合同であなたの捜索をしたとあります。それだけの時間と費用をかけて発見されなかった。ギルド法における死亡基準を満たしていますから、問題はないと思いますが……」

「だから! その本人が生きていると言っているんです! 生きているのに書類上死んでいたら問題でしょう!?」


 職員にあたっても仕方がないのだが、単調な口調と冷徹な声音、そして極めて事務的な態度にどうしても神経を逆なでされる。


「……逆に聞きましょう。どうすれば私の生存は証明されるんですか?」

「そうは言われても……」


 今は職員の手元にあるギルドカードと私の方を見比べられる。


「登録されている魔力反応が全く違います。やはりなりすましの可能性のほうが高いかと」

「そんなはずは!?」


 魔力反応。それは出力や濃度、属性とは異なり魔力の性質、その個人の魔力の色とも言えるものだ。これはその個人ごとに大きく異なり、似ていても同じになることはありえないとされていて、ギルドカードのインゴット及びそこから切り出されたカードを魔導具を通して確認すれば本人かどうかはすぐに特定できる。のだが、それが違う?


「そんな、そんなことありえません。そのカードは私のものですし、私はこうして生きています!」

「そう言われてもですね」

「お前の魔力なら違うぞ? 元の身体では不十分だったからな」


 それまで黙って茶菓子を食べていたキュリアスが口を開き、私も職員もキュリアスに向き直る。


「……どういうことです?」

「そのままの意味だ。ダンジョン? とやらで死にかけていたお前を蘇生するには魔力も身体も足りなかった。だから作り変えたのだ。前にそう言ったであろう? お前は勇者になったと」

「今更ながら失礼ですが、お連れ様はいったい……?」

「私はキュリアス。こいつの付きそいで、強いて言うなら生命の恩人だ」


 まさかのところから応援が来たが、それでも理解は追いつかない。通常どんな回復魔術やデザイアでの治療であっても魔力が変質することはない。出力が増えたり濃度が薄くなったり、そのような変化はあれど、性質が変わるという話は前例がないはずだ。

 しかし私にはもはや頼れる選択肢はない。なんとかキュリアスの話に乗っかって押し切ることにした。


「お話を真に受けるなら、キュリアスさんが何らかの治療をセリアさんに施し、その代償として魔力に変化があったと?」

「そういうことになるな。こいつは死の瀬戸際に勇者を望み、私がそれを叶えた。勇者になったのだ。元の人間の肉体で耐えられるはずがあるまい?」

「……は、はあ? 勇者ですか?」

「勇者がどうとかは置いておいて、そういう場合私のギルドの籍はどうなるんですか? たしかに前例のないことかもしれませんが、望む奇跡が起きてしまうデザイアの溢れた世界です。なんらかの対策が必要だと考えますが……」

「仰っしゃりたいことはわかりますが、こちらも規則を前提に処理を進めているに過ぎません。これ以上はこちらでの判断は不可能と考えます」

「ですが、」


 そこまで言いかけたとき、部屋に備え付けられているチャイムが鳴り響く。これは職員を呼び出すためのものだ。


「セリアさん、少し失礼します」

「……はい」


 呼び出された職員は部屋を出る。この部屋、情報管理局の個室は常に監視されていて、プライバシーというものはない。情報管理局に来る人間は大体が国の重鎮や勇者、或いは何かしらのトラブルを抱えた者なので、個室なのはあくまで訪問者同士の情報流出を防ぐのが目的だ。


「あの女、魔力の流れがおかしいな。いや、ここにいる者全員が同じなのだが」

「……何を言ってるんです? それにあの職員は女性と決まっているわけではありませんよ」

「お前、勇者なのだからあの程度の擬態を一目で見破れずどうするつもりだ。ここの職員は全員女、全員同じ魔力を持ち、同じ魔力異常を持っている。人間というよりはアリやハチに近いな」

「…………本当に、何を言っているんです?」

「お待たせしましたセリアさん、そしてキュリアスさん。今回の件、こちらでの判断は対応不可能という結論になり、上の者が直接対応します。こちらまでどうぞ」


 戻ってきた職員はそう言うと扉を開き、外へ出るように促す。部屋の外には同じようにローブで姿を隠した職員が2名。言われてみれば顔も体格も隠れているが身長や立ち姿は殆ど変わらないように見える。


「……付いていけばいいんですね?」

「ええ、はい。こちらでの対応はここまでです。カードもお返しします」


 最初の担当職員からカードを受け取り、キュリアスとともに部屋を出る。すれ違いざま職員がキュリアスの耳元で小さく囁いた言葉が、なぜだかはっきりと聞き取れた。


 先程のお話、他言無用でお願いします、と。







 情報管理局を後にし、案内されたのは本部事務所の中でも最も大きい中央塔総本部。その最上階にほど近いギルドマスターの部屋まで案内されていた。

 ギルドマスターは【ギルド連合及び加盟国家による総合広域運営機関】のうち、【ギルド連合】の最高権力者。実際の運営は加盟国家群との協議で進められているが、逆に言えば1人で複数の国を相手にしている怪物だ。

 はっきり言って雲の上の人間たちの中でも更に上にいる人間。まさかこの程度のトラブルでここまで大事になるとは思っておらず、緊張で汗が止まらない。座って待っていろと言われたが、触るだけでも価値が落ちそうな高級ソファに誰が座れるというのか。部屋に通されてから一歩も動けず、かと言って手持ち無沙汰なので部屋を観察してしまう。

 ギルドマスターの部屋とは言っても当然私室ではないわけだが、1人で使うには広すぎるほどの部屋に見たこともない高価そうな調度品が並び、しかし下品にならないよう比率を考えて配置されている。その中でも一際目を引くのが大きな額に入った地図のような絵。地図だとしたら見覚えがないので、この大陸にはないか、どこかのダンジョンだろうか。

 壁一面を大きく刳り貫いた窓からはギルド連合の都市群が見える。この本部を中心に各職業ギルド本部が都市を形成し、その都市ではそれぞれに国家に囚われず研究や開発を行っている。それらの自由に開発された技術や製品は本部で共有され、各支部を通じて各国に供給されるようになっている。傭兵や冒険者、勇者等の人的資材も同じだが、こちらはどちらかというと支部内で運用され、Aランクなどギルド内での重要度が増すと本部に一度招集される。尤も呼ばれるのは本人ではなくギルドカードインゴットなのだが。

 私はそんな考え事をしていないと気が飛びそうだというのに、キュリアスは全く気にすることなく寛いでいた。私の全財産でも足りないようなソファに横になり、用意されていた見るからに高級そうな果実を寝そべったまま食べていた。今更だが彼女は神経が図太すぎる。


 部屋に通されてから30分ほど立ったころ、明るい声とともに部屋の主が入ってきた。


「やあやあ、お待たせ。いやーわたしとの会議なんて時間の無駄だって言ってるのに、どうして王様ってのは話し合いをしようとするのが好きなんだろうねー?」


 ギルドマスター・ルナ。名の通り夜空に浮かぶ月のような白銀の髪と黄金の眼を持つ女傑。ギルドの式典用制服を身に纏い、数え切れないほど勲章の付いた傭兵ギルドのコートを羽織っている。

 傭兵ギルドのマスターにして初代ギルド連合のマスター。そして現在の本部マスターでもある。

 本部のマスターは各職業ギルドのマスターが4年毎に交代で兼任しているのだが、マスター・ルナは傭兵ギルドが初めて本部所在地に都市を建てた日から傭兵ギルドのマスターの座を降りていない。連合の歴史は古く、すでに百年近く経っていると言うのにだ。曰く、当時から見た目が変わらない、本物の魔女やら不老不死やら、或いは神の生まれ変わりだと言われているが誰も真実を知らない。

 過去に一度だけ勇者付きになった際の式典で遠くから見たことがあるが、その時から全く変わらない若々しい言動と、同じ女性である自分でも魅了されてしまう程に美しい顔立ち。男どもが女神だと噂しているが、こうして至近距離で出会うと心臓が鷲掴みにされているのかと思うほどに見惚れてしまう。


「おい、セリア。そいつから離れ、わたしを見ろ」


 突然キュリアスに顔を掴まれ、視線をずらされる。いつまでも見続けていたい2つの満月が、玉虫色の深淵に上書きされる。


「な、何をするんですか!?」

「勇者の自覚を持て。お前、魅了されていたぞ」


 珍しく真剣な眼差しでルナを睨むキュリアス。その視線を追ってルナの顔を見ようとすると視界を手で覆われる。


「お前は見るな。ルナと言ったな? お前、何者だ?」

「ただのギルドマスターさ。立てば三日月座れば満月歩く姿は無重力。愛されムーンのルナちゃんと呼んでいいよ?」

「……ただの人間、ではないな?」

「人間の定義から始めようか?」


 クツクツと笑うルナの声だけが部屋に響く。


「ただの挨拶、ただの冗談さ。セリアちゃんは緊張していたみたいだからね。ほら立ち話で済ませる内容でもないし、座って座って」


 キュリアスではなくルナに肩を掴まれ、ソファまで強引にエスコートされる。沈むほど柔らかいソファに座らされ、そこで視界が開放された。


「改めまして、そしてはじめまして。わたしが現在の本部マスター・ルナ。まずはセリア。任務ご苦労。君がダンジョンから戻ってきたことを心から祝福するよ。そしてキュリアスさん。彼女を連れ帰ったことを感謝します」

「そんな、マスター・ルナ。私なんかにはもったいない言葉です!」

「セリア。この程度のことで取り乱すな。お前は勇者なんだぞ? 勇者の存在は人類の最前線にあるのだと自覚を……」

「キュリアスさんは黙っていてください。勇者なんて掃いて捨てるほどいますがマスター・ルナはただ一人なんです。我々ギルド所属の人間の頂点、勇者付きも勇者もギルドの人間である以上マスター・ルナより偉いなんてことはありえないんです」


 キュリアスは勇者に希望を持ちすぎている。何が彼女をそこまで駆り立てるのか知らないが、せめてルナの前でその話をするのは止めてほしい。


「セリアちゃん、わたしのことを持ち上げ過ぎだよ。わたしからすれば現場で頑張ってる君たちが一番偉い。わたしは確かにギルド内での立場は偉いかもしれないが、みんなの評価で言ったらどうだろうか? 意外と仕事もしないでふんぞり返った、椅子を尻で拭くモップくらいに思ってるんじゃないかな? 市井のみんなだって顔も知らないわたしより現場の勇者のほうが好きだろう?」

「良い事を言う。まさにそのとおりだ。勇者は民から愛される人類の希望だ。であればやはり人類のために戦う勇者のほうが偉く、セリア、お前のほうがこいつよりも偉い」

「……私はまだ勇者ではないですし、何もしていません。であればマスター・ルナのほうが偉いじゃないですか」

「フッ、ハッハハッ。だそうだよキュリアスちゃん。一本取っちゃったかな?」

「…………ふん」


 どうやら言い負かされたと認めたらしく、面白くなさそうに果物へと手を伸ばすキュリアス。そういえば先程から食べ続けているが、皮や種はどうしているのだろう。小皿に取り除かれているわけでもなさそうだが……まさか全部飲み込んでいるのか?


「さて、本題に行こうか。セリアちゃんの話は聞いているよ。ギルドカードと魔力反応が違う、変わっちゃったそうだね」

「っ、はい。それで、カードの復元と殉職の訂正、それに復職を……」

「結論から言うと、それはできない」


 バッサリと。ルナは笑顔のままの私の希望を切り捨てた。


「……な、え……? どうして、ですか……?」

「こればっかりは技術的な問題もあるんだけど。君が死んだのも事実だしね」

「………………ぇ……?」


 私は生きている。そう信じて、そう信じてもらうようにここまで来たのに、さっき戻ってきたことを祝福すると言われたのに。


 死んだのは事実?


 意味がわからなかった。


「絶望しているところ悪いんだけど、そもそもわたしは生きているとか、死んでいるとかの定義ってすごく曖昧だと考えているんだよね。例えば誰かが水に溺れて呼吸も止まって心臓も止まって、この瞬間ってこの人は生きているのかな、死んでいるのかな?」

「……生きています。まだその人は生きています。きちんとした蘇生法を取れば、十分に生還できます」

「君はその瞬間を目撃し生きていると考えた。でもその瞬間を目撃せずにその場に居合わせたら? 溺れたのは1秒前でもその瞬間を見ていなければ、死んでいると考える人間がいてもおかしくない。そうだろう?」


 私は諦めたくない。きっと生きていると信じて行動するはずだ。でも同時に、冷たくなった人間にどこまで蘇生法を試みるのかと問われれば、すぐには答えが出ない。


「“まだ”生きている、ということは“まだ”死んでいない、とも言い換えられる。結局は観測者次第なんだよね。そこで正しい心肺蘇生法を誰も出来なかったら? そのまま沈んでいってしまったら? 残念だけど無理だよね?」

「っ……はい……」

「セリアちゃん。君はさ、残念だけどこの溺れて沈んでいった側の人間なんだよね。それもその瞬間ではなく1年という長い間、生きているか死んでいるかわからなかった。わたしたちギルドの手ではもうどうしようもない。これが死さ。それが死さ。これはもう覆しようがない事実。でもどういう奇跡かその状態から戻ってきた。全く未知の技術を使って、死んでいた側から戻ってきた。だけど、その際に元の肉体は失われていた。ねえ、これって生きていたのかな、死んでいたのかな?」

「そ、れは……」


 生きていたのかと問われれば、その答えは私の中にはない。最後の記憶はパトルタに斬られた瞬間で、目が覚めたらダンジョンのあった廃坑にいた。

 生きている、それは間違いないが。間違いないと信じているがその期間中生きていたのかと問われれば、それは私にはわからない。思わずキュリアスに顔を向けるが、彼女は気にすることなく林檎を頬張っていた。


「……キュリアス、さん。……私は、私はあなたに助けられる直前、どうなっていたのですか……?」

「ん? 前にも言ったが、お前の身体は砕け散っていた。原型を留めていたのは頭と手と、あとは足くらいだったか? 老人がお前を真っ二つにしていなければそれらも残っていたか怪しいな。尤もお前の身体が吹き飛んだのも老人が魔力塊を壊したせいなのだが……」

「……思ったより、ワイルドに溺れていたみたいだね……」


 視界が遠のく。冗談か比喩表現だと思い込んでいたかったが、改めて口にされるともはや何も信じられなくなる。

 それなら、誰だって死んでいると思う。私だってそんな状態の人間に蘇生法を試みたりはしない。


 だが、キュリアスはそれを成したのだろう。


「じゃあ……今の私はいったい……?」

「先程そいつが言っていたが、生きていたか死んでいたかなど些細な問題だ。今生きているのならそれで十分だろう。安心するがいい、魂までは弄っていない」

「些細じゃありません! 私の生命ですよ!? 生きてきたから今があるのに、死んでいたのに生きているって、何を信じればいいんですか!?」

「セリアちゃん落ち着いて。溺れて死んでいると思われていた人だって、生き返ったなら同じ人だろう? そこは主観の問題だよ。君はたまたまその蘇生にかかった時間が長すぎただけさ。で、話は戻るけど」

「戻すんですか!? 生きているって結構重要な問題なんですけど!?」

「うん。そこはどうでもいいからね。で改めてギルド側の話をするけど、やっぱり君は客観的には死んでるんだよね。これはギルドカードの話とも繋がるんだけど、我々の本人確認は結局のところカードの魔力反応頼り。その魔力の問題で君のギルドカードは本人と認められない。技術的にもこればっかりは作り直してもらうしかないかな。資産は遡って確認して早急に返却するよ。そして殉職、復職の件だけど……」


 私の生き死にの問題をどうでもいいと一蹴されたのは少々傷になりそうだが、気さくすぎて忘れているが彼女はギルドマスター、多忙な身だ。ここで直接対応されているだけでも奇跡的なことなのだと思い直す。


「ぶっちゃけるとこっちは可能だ。でもオススメはしない」

「……なぜですか……?」

「単純に実績の問題かな。オルラーデの一件は交戦の上負傷、これはまあいいとして結果の方はダンジョン消滅、攻略貢献度は折半。しかもオルラーデには現役の勇者がいたとなるとその評価は多く見積もっても通常の半分ほど。その後行方不明でその間の実績は皆無だ。落ち着いて考えてほしいんだけど、客観的に聞いてこの勇者付きを君はどう評価する?」

「勇者としては無能、付き人にしても役立たずだな」


 キュリアスの言葉が胸に刺さる。だが、彼女の言うとおりだ。私が上司なら、私が勇者なら、事情を知らなければ、この成績の人物と行動を共にしたいとは思わない。


「キュリアスちゃんは言葉がきついねー。わたしはそこまでとは言わないけど、少なくとも戦闘面は弱そうに聞こえるよね。仮に復帰してもまずは帰還、生還の報告書、その他にも書類諸々。同時に勇者付き研修及び戦闘訓練の再履修。勇者付きとして元に戻るまで、その後勇者になるまで一体どれだけ時間がかかるのやら……」


 ルナの言うことは正論だ。ただの冒険者に負けた勇者付き。1年も休んでいた無責任な勇者付き。そんな私が新人に混ざって研修を行うのは、きっと辛いだろう。


「……でも、でも私は……私は勇者付きを、諦められません」

「んー、それなんだけどさ。君が諦めたくないのって勇者付きじゃなくて、勇者だよね?」

「そうです。私は勇者になりたい、いえ勇者になります。勇者になって、あの日の私のようなまだ見ぬ誰かを救うのだと、心に決めているのです。だから、だから私を……!」

「それならさ。勇者になればいいじゃん。別に勇者付きに戻らなくてもよくない?」


 その時の私は、さぞ間抜けな顔をしていただろう。


「……え……?」


「勇者だよ、勇者。勇者付きなんて経由しないで、直接勇者になったら?」


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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