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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
第二章
42/57

2-16 復活の海竜魔王リヴィヤタン



◆フィロー



「オラオラオラオラ!! 弾なら無限にあるんだぜ!? どっちが先に潰れるか勝負といこうじゃねえか!!」

「調子に乗って撃ちまくってますけど、本当に聞いてるッスかね?」


 フィローの愛用する大型ボウガンに装填されているのは、短槍にしか見えない巨大な矢弾。生成と同時に発射されていくそれは、自動的に海竜魔王を捉えて次々に命中し爆発する。しかしその分厚い海のオーラにどれほどのダメージがあるのか。


 海竜魔王を遺跡から引きずり出すのは簡単だった。最初に放ったミサイルに反応し自ら現れたのだ。だがそこからが長い。

 魔力で構成された亡霊のような魔王は、遺跡へと続く崩れた通路からヒレの付いたドラゴンのような巨大な首を出しこちらを威嚇。魔術により反撃をしてきたがマルカの防御魔術で防げる小規模なものだった。

 攻撃は大したことがないとパトルタが突撃するも、魔力の乗っていない武器や実弾による攻撃を透過して受け付けず、逆に相手の噛み付きは大地を抉るという理不尽を見せた。

 だが熟練の冒険者であるパトルタは武器に魔力を付与するなど造作もなく、カウンターの一撃でその首を半分ほど切り裂いた。

 恐らくそれが逆鱗だったのであろう。血の代わりに青黒い魔力を吐き出しながら海竜魔王は海へと突進。一体どこにそれほどの身体が入っていたのかと目を見開くほど全身は長く、数分をかけて海中へと吸い込まれていった。

 そして次に現れた時、海竜魔王の魔力の肉体はすべて海に置き換わっていた。


『愚かな人間どもめ! 我の目覚めを邪魔した罪、海の底にて償って貰うぞ!』


 海竜魔王リヴィヤタン。復活したその姿は、不完全だった。

 まず目に入るその長すぎる巨体。海から飛び出た水柱を引き伸ばした蛇のような身体は、液体故に中身がはっきりと見えていた。頭部から伸びる背骨が途中で途切れているのだ。

 その頭部もまた砕けた頭骨が透けて見え、右半分は粉砕状態。左の頭部も大きな罅がいくつも見え、完全な状態なのは下顎だけだ。

 しかし一度滅びた身なれども、それは神に歯向かっていた神話の魔王。ただの身震いが高波を起こし、突進は津波のようだった。

 お陰で周囲はとっくの昔に海に飲み込まれている。


「フィロー、そろそろ魔力切れだ! 次を作ってくれ。こいつは発射する!」

「チッ、魔弾生成! 飛び移れ!」


 既に周辺は海に沈み、飛び乗る陸地などどこにもない。そんな彼らが足場にしているのは、フィローが作り出した薄く長い剣のような魔弾だ。現代から来たフィローがイメージしているものは、サーフボードが近いだろう。

 当然ただのサーフボードではなく消滅時には海竜魔王に向かって進むようになっている。


『小賢しいわ!』


 もっとも足場として利用するため持続時間に特化しているので速度はなく、当たったところで爆発するようなこともないのだが。


「40発ばら撒いた! これで暫く戦えるだろ!」

「おうおう、ありがたいぜ!」


 パトルタは海竜魔王から最も近い、海のせり上がった中心部、海竜魔王の根本にいる。当然そこは海竜魔王が動くだけで波が発生する危険な場所だが、その巨体故に海竜魔王からの直接攻撃も少ない。


「こんだけでけえとなにしても当たるってのは、気前が良くていいなあ! 『オールイン』!!」


 パトルタは足場から空に向かって伸びる海めがけて飛び上がり、全身全霊すべての魔力を賭けてデザイアを発動する。

 彼のデザイア『オールイン』は文字通り魔力も体力も命も全てを賭けた全力の一撃であり、しかしその一撃を与えた相手から同量の魔力と生命力を奪う。

 本来であれば使いどころの限られる決死の大技だが、今回の相手はその能力にしてもサイズにしても自分より遥かに格上。最初から何度も使い続け、パトルタの魔力は計算上は既に戦闘開始時の500倍を超えている。実際には肉体が耐えきれず、身体能力も含めてせいぜい5倍程度だ。それでも常人を遥かに超えているのだが。


『むう!? 何度やっても無駄だ!』

「こんだけ強くなっても胴体の半分も斬れやしねえ! あと20年若けりゃなあ!」


 普段よりも肉体にハリが出てきたパトルタは楽しそうに笑う。本当に若返ったわけではないが、肩こりも腰痛も消えて彼の若かった頃よりは動きがいい。

 海竜魔王は無駄だと喚くが斬り口から奪われた魔力は確かに身体の再生を阻害し、破れた水風船のように大量の海水が漏れ出ている。


「こっちも負けてらんねえな! 対潜ミサイル生成!」

「おい! 今撃ったら破片が落ちてきてあぶねえだろ!」


 パトルタの文句は無視してフィローは生成した金属の円柱を肩に担ぐ。もはやミサイルなのか魚雷なのかも彼自身わかっていないが、これは海でできた肉体を貫通して本体であろう骨に直接ダメージを与えられる唯一の方法だ。

 生成に時間がかかるため大きな隙がないと発射までたどり着けないが、今はパトルタに気を取られている。このチャンスを逃す理由はない。


「フォイエ!!」

『そう同じ手を何度も喰らうものか!』

「なに!?」

「尻尾ッス!」


 発射された亜音速の魔弾は、しかし突如として海底から出現した尾によって弾かれる。触れた瞬間に炸裂しその尾の先を半分吹き飛ばすが……


「肉体があるだと!?」

『我の目覚めは邪魔されただけに過ぎん! 時が経てばその身が戻るは通りであろう!?』


 早朝から始まった戦闘は、既に夕暮れ時。期限であった満月は既に空にあり、あとは夜を迎えるだけとなっていた。

 海だった肉体に、徐々に肉が付いていく。半透明だった身体は少しずつ白く青く変化する。


『恐れよ! かつてこの海を支配した海竜魔王リヴィヤタンの復活である!』

「クソ! 時間をかけすぎたか! だがまだ終わったわけじゃねえ!」

「おうよ! 色がついたぶん、返って見やすいぜ!」


 しかしその程度で勇者フィローが、自称この世界の主人公が諦める訳がない。

 フィローは様々な属性を込めた魔弾を次々に放ち、パトルタもデザイアを起動させてその復活途中の肉体に斬りかかる。

 フィローの魔弾は次々に突き刺さり、爆発し、その身を焼き、吹き飛ばす。

 パトルタの全身全霊の一撃はその船よりも巨大な胴体を刳り斬り、青い血を溢れさせる。


「…………もしかして、弱くなってないッスか?」

『ぐおおおおおおおおおおお!! 無駄だ! 大人しく諦めるがいい!!』


 マルカの呟きは、海竜魔王の咆哮にかき消される。

 しかしその身体に与えられるダメージが増えているのは、誰の目にも明らかだった。



◆リンゴ



「海竜魔王が既にその姿を現しているというのに、なぜ動かないんですか!」

「防衛隊の任務は魔王やその配下と戦い、国民を守ることです! せめて周辺地域への避難指示だけでも出さなければ!」


 防衛隊本部はフィローの勇者付きとその監視からの報告で、朝から大きな騒ぎになっていた。

 だがそれは決して魔王が現れたからだけではない。もちろん想定よりもだいぶ早い出現ではあったが、そもそも襲撃は予告されている。

 問題は防衛隊本部に突然現れたギルドマスター・ルナの使いを名乗る若い女、リンゴにあった。


「魔王だけが敵ではありません。防衛隊には引き続き担当地域の警戒に当たらせなさい」

「ですが、あの遺跡付近には国民の住まう集落もあるんですよ!?」

「避難指示は現場にいる勇者付きによって完了しているものとします。そもそも遺跡のある地域は防衛隊のパトロール区域からも離れています。余計な人員を割いて本来の任務を果たせないほうが問題だと考えます。 そもそもこの防衛区域を作ったのはあなた方ですよね? ギルドの人員に余計な仕事をさせないでください」

「……しかし!!」


 食い下がる文官を無視して目をつぶるリンゴ。軍服姿で帽子を目深く被り冷酷な雰囲気を出しているが、彼女としてもこの指示は心苦しかった。

 既に現場の状況は小型ドローンで確認しているのだが、日本から来た彼女にとって海はとても恐ろしいものだ。いくら備えがあるとは言え、できれば海辺から離れてほしかった。

 今彼女がここに居るのはルナの指示だ。この世界の現状、そしてこれから起こるであろう予測。それらを聞いた上で、この安全な最前線で判断しろと言われた。


(安易に願うものじゃなかったなあ。こんな秘密、女子高生が知るべきものじゃない)

「とにかく該当の村は問題ありません。現場にいた監視、いえ調査員も無事です」

「なぜそう言い切れるんですか!」

「私のデザイアです」

「くっ…… わかりました」


 この世界でこれほど便利な言葉はない。とりあえずデザイアだと言っておけばなんとかなってしまう。


「村への避難はあなたの言葉を信じましょう。しかし現場には魔王が現れているんですよね?」

「はい。それも間違いありません」

「ではなぜその討伐に人員を当てないのですか!? 防衛隊以外にも海軍や冒険者パーティが多数います! そのために集めたのですよ!?」

「ああ、そのことですか」


 リンゴはふっと息を吐いて目を瞑る。その脳裏にはフィローと対峙する海が映る。


「はっきり言ってそこいらの冒険者では足手まといです。せめて戦闘に長けた勇者パーティクラスでないと」

「では海軍は!? 我が国にはファルフェルトにも対抗できる船団があります!」

「ではお聞きしますが、その船で嵐の海の中竜巻と戦えますか?」

「……はい?」

「ああ、即答できないなら結構です。海竜魔王の肉体は海でできている。その巨体が少し動くだけで高波が起きる。船で戦うなんて集団自殺もいいとこですね」

「そ、そんなばかな……」


 防衛隊本部の面々は絶句するが、他に表現のしようがない。巨大な水柱がそのまま竜になり動いているのだ。


「待て、そんな化け物どうやって相手にするというのだ! 周辺地域だけではない。この国全体の危機だぞ!? 防衛などと言っている場合ではない! すぐに国民を避難させよ!」


 今更ながらに脅威を理解した誰かが叫ぶが、それでもこ国から誰一人逃がす訳にはいかない。

 なぜなら、ルナの指令は魔王の脅威を正しく人間に思い出させることだ。


「国民を逃がす期間は十分にありました。しかしあなた方や国民はそれを受け入れなかった。敵は2度も挨拶に来て、2回目には冒険者に死人が出ているのにもかかわらずです。今更大移動なんて間に合うはずもないし、むしろ逆に防衛隊への負担が増えます。幸い魔王は移動をしているわけではない。状況が動くまで国民には伝えず、防衛隊にもこのまま警戒を続けさせてください」

「動き始めてからでは遅いのだぞ!?」


 そんなことはリンゴもわかっている。だが、どうにもそんなことにはならない気がするのだ。脳裏に浮かぶのは入れ墨まみれのボウガンの青年。ショートと同じ日本から来た彼の負ける姿が、全く想像できない。

 そういえばルナから教えられた、文句を言われたときのもう1つの便利な言葉を思い出し笑みを浮かべる。


「現場で戦っているのはギルドの勇者ですよ? 勇者が魔王相手に負けるはずがありません」



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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