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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
第二章
35/57

2-9 フィローと水没遺跡


◆フィロー



「いやー、さすがフィローさんッス。勇者で防衛隊になっていなければ追い出されてたッスよ!」

「そんなわけねえだろ。俺は主人公だぜ?」

「どうだかな。司令官はともかくあの文官どもの目はかなり怪しかったぜ?」


 パトルタはそう言うが、フィローは奇異の目で見られることに慣れすぎている。なのでそんな判断はつかなかった。


「でもオレたちはシビレました! ろくに情報のない連中にビシッと立ち向かうあの姿! アニキはまさに勇者の中の勇者!」

「その上古代文字まで読めるなんて、勇者として腕っぷしだけじゃなくてガクまである! いよっケシニ1の最強勇者!」

「…………ォゥ!」

「……それで、こいつらはいつまで着いてくるッスか?」


 この太鼓持ちたちはBランク冒険者パーティ『コンダラ三兄弟』。三つ子らしく顔の見分けがつかないが、それぞれ赤青黄色のバンダナとベルトをしている。だがそれ以外は全員揃いの革鎧と短剣装備だ。

 彼らは冒険者だが人狩り専門だと言い、主な討伐対象は犯罪者。揃いの格好をしているのは相手を惑わせるためなのだとか。

 なぜフィローたちに付きまとっているのかと言うと、彼らはフィローを別の犯罪者と誤認して強襲。だが実力的に上であるフィローはそれをあっさりと返り討ちにした。

 本来起こしてはいけないギルド加盟者への攻撃であり、コンダラ三兄弟は死罪になってもおかしくないところだったがフィローはそんなことに興味がなくそれを許した。

 それに感激した彼らはフィローを一方的にアニキと慕い、シャポリダまで着いてきたというわけだ。


「もちろんどこまでもお供します!」

「宿も最高級のホテルを用意しやした!」

「…………ォゥ!」


 ちなみに一人だけ喋れていないのは過去の戦いで喉を切られ、死にはしなかったものの声帯を失ったためらしい。それを再生する医療魔術やデザイアも存在するが、冒険者業界は金のないものに優しい世界ではない。そのためいつまでも治せないままでいる。


「それ本当は僕の仕事なんですけど……」

「そいつは楽になっていいじゃねえか。それよりコトート、この周辺に神殿なり歴史研究ギルドの支部なりはねえのか?」

「歴史研究ギルドは、言い方は悪いですが弱小なので冒険者ギルドに間借りしている本部しかありませんよ。隣のポロニアではそれなりに活動しているようですが、あの国は少々特殊ですからね」


 ポロニアは国内のダンジョンから出現した道具を征遺物と称して回収し、役に立つようであれば発見者を勇者として登用している。歴史研究ギルドはその征遺物の研究に駆り出されているのだ。


「歴史研究ギルドはともかく遺跡はあるようです。ただ通路が水没しているため、まともな調査はされていないとか。古代文字があるかは不明ですが、他にフィローさんが望むような情報はありません」

「ならそこに行くか」

「そう言うと思っていましたが、防衛隊の任務は明日からですよ」


 コトートは呆れたように肩をすくめるが、そんなことでフィローが諦めるわけがない。


「そんなすぐに魔王が現れるわけでもないだろ。それに頼れる部下もいる。おいお前ら、アホンダラ兄弟だったか? 暫くの間西部の守りは任せたぞ!」

「おお、アニキがついに俺たちを頼ってくれた!」

「魔物1匹町には入れやせん!」

「…………ォゥ!」

「うーん、頼っていいッスかねえ」


 実際には彼らコンダラ三兄弟の他にも防衛隊に指定されている冒険者パーティは居るため、余程急に魔王が来ない限り問題はない。

 それに加え防衛レベルの設定は敵勢力の規模が不明であったため、冒険者は集めても町の要塞化等にまでは至らなかった。せいぜいが灯台にいる監視員の増強と遠距離攻撃可能な魔導兵器の搬入程度だ。

 海岸沿いに現れる魔物の間引きなども防衛任務に含まれているが、あまりやりすぎると防衛隊に指定されていない冒険者達の食い扶持を奪うことになってしまう。

 なのでフィローたちは待機以外にすることがないのも事実であった。


「だがフィロー、その遺跡は水没しているんだろ? どうするつもりなんだ?」

「それは問題ない。俺にいい考えがある」


 ニヤリと笑うフィロー。その手には歴史研究ギルドのロットから渡された魔導具があった。





 翌日。現地のギルド職員の案内でやってきた遺跡は、フィローの想像以上に水没していた。というか崩落していた。


「おいおいおいおい、入り口が崩れてただの岩山になってるじゃねえか」

「ありゃ水没じゃなくて崩壊っていうんだぜ?」

「だから入れないと何度も説明したじゃないですか。あそこが話にあった遺跡ですよ」


 案内を務めるギルド職員が指を指す先、岸壁に囲まれたそこには確かに遺跡があるのだろう。

 周囲の建築物は明らかに年代が古く、資料館にされている神殿と似た雰囲気を感じる。だが潮風や波により相当に風化し、外に読み取れるものはない。

 そして肝心の遺跡だが、崖の洞窟の奥にあったらしい。しかしその入口は爆破でもされたかのように瓦礫で潰されていて、正攻法での侵入は不可能だった。


「元々干潮のときにしか入れない遺跡だったんですが、1年ほど前に崩れてしまったそうです。原因は不明ですが、元々放置されていた場所だったということもあり工事や修復はされていません」

「フィローさんのいい考えでどうにかなりそうッスか?」

「流石に無理だろ。岩どかして入るまではできるだろうが、ああなってたら中も崩れてるんじゃねえか?」

「……ふっふっふっ。まあ見ておけって」


 フィローは愛用している大型ボウガンを構え、彼のデザイアである『魔弾』により巨大な弾を作り出す。もしそこに兵器に詳しい現代人が居たのなら、優先誘導ミサイルだと気づいたかも知れない。


「俺のデザイアで作り出した弾は、最初に作り出したときの命令に従うが基本的には撃ち放しだ。だが前にスカイフィッシュに銛型の弾を撃ち込んだとき、あのとき地上に引きずり下ろすためのワイヤーから魔力の繋がりを感じられた。そこで俺は考えたわけだ。有線弾なら自在に操れるんじゃないかってな」


 果たしてそれは可能であった。自動追跡の弾丸には速度も威力も劣るが、それ以上に操作の自由度が高い弾丸の作成に成功した。


「有線誘導弾は既に対大型魔物を想定して開発されていますが……」

「マルカはフィローさんの実験を見てたから知ってるッスけど、あんなのおもちゃッス。なんで今その話が出るッスか?」

「おもちゃでいいんだよ。俺の弾丸は壁を貫通するし、その気になれば魔力の限り消滅するのを遅らせることができる。だから通路が水没していようが崩れていようが、俺の弾丸は遺跡にぶち込める」

「それで内側から通路を爆破して通れるようにするってことか?」


 パトルタの言葉にフィローは呆れたようにため息をつく。


「それなら外からやっても同じだろ。それに遺跡が残っていたら一緒に吹き飛ばしちまうだろうが」

「おじいちゃんはそんなに賢くないんだから勿体ぶってないで早く続きを言うッス!」

「てめえマルカ! ふざけたこと抜かすとコトートの昼飯は抜きだぞ?」

「は? なんで突然僕が?」

「ふざけてないで聞け。そこで出てくるのがロットから貰った魔導カメラだ」


 歴史研究ギルドのロットから渡された魔導具は、所謂使い捨てカメラと呼ばれる単純な機構のカメラだった。なぜそんなものがこの世界にあるのかと言えば、もちろんダンジョンから回収されたものだが、重要なのはその機能。


「この誘導弾に、カメラの機能を追加する! これによって俺の弾丸は目視による有線誘導が可能になるんだ!」

「おお!? つまり自分の目で見て弾を動かせるってことッスか!? ずるいッス! マルカも遺跡見たいッス!」

「直接見るのは俺にしか無理だが、こいつはカメラだからな。うまく行けば撮影したフィルムは回収できるだろ。というわけで早速発射! フォイエ!」



 大量の魔力を消費しフォローのボウガンから放たれた有線誘導ミサイル。推進機構をすっかり忘れていたため通常よりも魔力の消耗が激しかったが、そのミサイルは彼の目論見通り地面を突き抜けゆっくりと進んでいく。

 視界が混乱しないようにフィローは目を瞑り、誘導弾の魔導ケーブルを掴む。


「……真っ暗で何も見えねえな」

「まだ土の中なんだろ? ああそうか、仮に遺跡に出たとしてもああ塞がっていたら光なんかねえか」

「フィローさん。この魔導カメラにはフラッシュやライトの魔術が装備されています。まるごと追加したならそれが使用できるのでは?」

「ナイスだコトート。ライトオン」


 暫くは土の中が続くが、突然視界が開ける。そこは神殿によく似た建造物の中であり、神殿で見たものと同じ像が多数あった。

 しかしその像はほとんどが壊れて倒れている。


「とりあえず片っ端から撮影するか」


 ミサイルを緩やかに回頭させ周囲を探る。あくまでも弾丸なので速度は遅くとも急角度には曲がれないのだ。

 壁面をなぞるようにカメラで撮影し、ちょうど180度回ったところでフィローは見てしまった。


「……これやべえな」


 崩れた遺跡の中央にとぐろを巻く巨大ななにか。カメラ越しにもわかるほど周囲に滲む青黒い魔力。

 それは海竜魔王と思われる巨大な影だった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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