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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
第二章
31/57

2-5 リィンノートの決意


◆セリア



 翌日私たちはファルフェルトの大使館ではなく、ギルド本部の勇者管理局に呼び出されていた。


「話は昨日したとおりです。こちらの元勇者爵リィンノートの護衛任務及び自立支援。期間は半年間ですが、彼女の判断で任務終了は前倒しになります」


 ファルフェルトの勇者シルバンが用意した依頼書に目を通す。特に問題はない。契約前にワトラビーが改めて注意を促す。


「ちなみに半年経って自立できていなかったとしても、我々の任務はそこで終了です。セリアさんの勇者のあり方は聞いていますが、それとギルドの任務とは別です。線引は間違えないように」

「わかっています。……ではリィンノートさん、改めてこれから半年間よろしくお願いします」

「……ええ」


 握手を求めて手を伸ばすが、リィンノートの目は虚空を見つめたまま動かない。


「心ここにあらずといった様子だな」

「無理もありませんよ。彼女は何もかも失ったんですから。国に捨てられるというのは、国に尽くしたものへの最悪の仕打ちですからね」


 彼女にはこの追放が彼女を守るためのことだとは話していない。

 話すかどうか、知りたいかどうか、それを決めるのは私たちではないと昨日3人で話し合ったからだ。


「まずはご飯にしましょうか」





 ワトラビーに買い出しを任せ、私たちは宿へと戻る。

 本部の面会室でも良かったのだが、あそこはどうにも職場といった印象が強く落ち着きにくい。それに今私たちが使用している『隠れ宿、黄昏亭』は勇者付きの養成所でもあり、秘匿性に優れ融通が効くのだ。


 人形のようなリィンノートをベッドに座らせ、その対面座る。キュリアスはソファに寝転がっている。


「さてリィンノートさん。私はあなたがなぜこのような現状にあるのか、その真実の一端を知っています」

「……なぜ?」

「昨日あの後に左手持ちの勇者が喋ったからだ」

「シルバンさんが話したことは全てではありません。あくまでも一部。ですが、そこにはあなたの父の死のヒントもあった」


 シルバンは最初から神器がないことを知っていた。彼女の父と行動を共にしていた男が、平然と神器はないと言い切った。盗まれたわけではない。ないのだ。

 恐らく任務中に襲われたというのも嘘なのだろう。シルバンの話を聞く限りでは、リィンノートの父は彼女を神器から遠ざけようとしていた。そしてそれは先代サンハルトの死すらも、計画のうちに入っていたような言い方だった。


「私は話すべきだと思っています。しかし、それがあなたの幸せにならないと考える人もいる」


 それは死んだ彼女の父だ。先代サンハルトの汚名を濯ぐために努力したリィンノートだったが、最初からそんなものはなかったのだ。でなければ国外追放された人間に勇者の護衛など付くわけがない。


「……私は、どうすれば……」

「リィンノート。お前の前には2つの選択肢がある。1つは何も知らないままに小娘として生きる道だ。今までのように与えられるものを与えられるがままに受け取るだけというわけには行かないだろうが、戦いからは離れた平穏な道だ。お前にくれてやった勇者の心臓も元に戻すと約束しよう」


 リィンノートの瞳が揺らぎ、顔を伏せる。その唇はきつく噛み締められていた。


「その時は何もかもをも忘れさせてやろう。父の死も、捜索の日々も、勇者の心臓を授かった痛みも、国を追われた記憶も、我々のことすらも、すべてすべて忘れて生きよ」

「もう1つの選択肢は、昨日シルバンが話した内容を聞いてから話します」


 もう1つは、勇者として生きる道だ。

 彼女が真実を知ろうとするなら、その道には必ずファルフェルトが立ちふさがる。それを突き進むには、国を相手にするには、国を相手にできる存在になるしかない。


 暫くの後、顔を上げたリィンノートの目には決意が宿っていた。


「……聞かせてください。そのシルバンの話、そして選択肢とやらを」





「……そう、ですか……父が……父の計画で」

「どこまで関わっていたものなのか、私にはわかりません。しかし今リィンノートさんが私たちとここにいるのは、あなたの父とシルバンのはからいです」

「……」


 リィンノートの両手はきつく握られ、その目には涙が浮かんでいる。


「……そうだとしても! 計画だとしても、なぜ父が死ぬ必要があったのか、なぜ弟の意識が戻らないのか、何も納得できません!」

「一方的な思いに、受け取り手の意思は介在しない。それでどうする? お前の父は無知を望んでいたが」

「……私は真実が知りたい。父の思いはたしかに受け取りました。ですが、それで引き下がれるほどサンハルトの誇りは小さくありません」


 強い意志を持った目だ。リィンノートの目は今までで一番輝いている。


「ならば2つ目の選択肢だ。お前の前には勇者の道が開かれた。その胸には、文字通り勇者の力がある。その手で真実を掴み取れ」

「……いいえ、それには及びません」

「なに……?」


 珍しくキュリアスが首を傾げる。


「私の父は勇者でした。その勇者ですら、私を遠ざけるために死を選ばざるを得なかった。国とは、それだけ強大な力なのです」

「……ほう? それは勇者としての実力が足りなかったからではないのか?」


 リィンノートは頭を振る。


「始まりの勇者の血を引くサンハルトの勇者の実力が足りていないのであれば、もはや誰も国には勝てない。ならば私が勇者になったところでさほど現状に変化はありません」

「サンハルトは偽の勇者だと言っているだろうが。真の勇者であれば国などに負けはしない」

「その理屈、偽の勇者に殺されたのですから、あなたの信じる勇者はそれ以下ということになりません? ともかく私が相手にするのはファルフェルトという大陸を支配する国家そのもの。勇者なんて規模では話になりません」


 サンハルトとクレイルの話は一旦置いておくとして、彼女の話には一理ある。

 今いるパストラリアはギルドの支配力が強いため、どの国に対しても勇者の権限である程度の調査が可能だろう。無理をするならその国の勇者に決闘を申し込み、強引に真実を引き出すことも出来る、かも知れない。

 しかしファルフェルトは少し事情が異なる。ファルフェルトは規模だけで言うならギルドそのものと同程度には巨大だ。なにせ東ファルフェルト大陸を完全に支配し、大陸内のダンジョンも独自に管理している。

 そんな国に対して他国の勇者1人でできることは、それほど多くはない。一応はギルド加盟国なので捜査は可能だ。しかし重要な情報に触れられるかと言えばかなり怪しい。そもそもリィンノートの父が死んだ任務はパストラリアで行われていたもの。明らかに秘密任務だ。ギルドに話を通しているはずがない。


「ではどうするつもりだ?」

「国を作ります」

「……はい?」


 思わず変な声が出る。理屈はわかる。彼女の中では勇者では国に勝てない。だから国に対抗するために国を作る。わかるのだが……


「そんな簡単に言って、どうやって国を作るつもりですか? 確かにパストラリアでは情勢不安定な地域もあり、勇者が乗り込んで住人を納得させ、ギルドの支部を建てれば国として成り立たせることができます。ですがそんな小国、ファルフェルト相手には勇者以上に無力です」


 ちなみに情勢不安定な地域とは旧エミニア周辺のことだが、ファルフェルトに近くもないので本当に何も接点がない。


「……あるんですよ。ファルフェルトが無視できない上に、国として成り立っていない広大な大陸が」

「ふむ? 魔族の領土と呼ばれる暗黒大陸のことか?」

「暗黒大陸はたしかに魔族の領土ですが、それゆえに魔族の国として認められています」


 その他にギルドによって周知されている土地など……


「……まさか」

「西ファルフェルト。亜人種の領域に、私の国を作ります」




ここまでお読みいただきありがとうございます。


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