1.5-6 フィローの新たな旅立ち
◆フィロー
「神座が欲しければ、顔のない神、そして最後の巫女たる私を探せ。だとよ」
壊された壁の裏に隠された古代文字。そしてそこに書き足された新たな手がかり。
ゲーム脳なフィローは自分が正解の道を辿っているのだと確信している。
「と、ということは……この像を破壊したのは巫女? 100年以上前の人物がなぜ?」
「それが真実だったとして、像を壊す意味がわからない。いや、わざわざ探して壊したんだ。何か意味はあるんだろうが……」
ロットと職員は首を捻るが、フィローにも新たな疑問が湧く。
「となると、この依頼書を書いたのはゼニサスじゃなく、巫女の可能性も出てくるのか」
「そ、それはありえない。この依頼書が来たときの状況は聞いている。書いている途中で去ったのは男だった」
「そうなのか。というかそもそもなんで俺はまずこれを書いたやつの格好を確認しなかったんだ。そっちのほうがはるかにヒントになるじゃねえか」
「……し、知ってると思ってた……」
フィローは自分のミスに自ら頬を叩く。古代文字が読めるからとr調子に乗ってここまで来る前に、まず書いた人物を確認する。普通はそっちからだろうに。
だが順序が前後しただけだと頭を切り替え、ロットにその人物を確認する。
「んで? この依頼書を書いたのはどんな男なんだ?」
「そ、それは、ちょっと怪しい男だったと聞いてる。パストラリアでは一般的な金髪碧眼で背は高い。ただ、なんというか……半裸だったと……」
「はあ? 露出狂がなんでギルドに入れるんだ?」
「……それ勇者さんが言います?」
フィローは上着を羽織っているが上半身は入れ墨を見せつけるためにほとんど裸だ。
「あ、赤い派手な花がらのシャツと、下は青いズボンだったと聞いてる。それから、靴はサンダル。どの依頼書が残されたギルドも、同じ格好の人物の出入りが確認されている」
「……赤いアロハ……」
フィローにはその人物に心当たりがあった。
「まさか……あいつがゼニサス……?」
この世界に初めて来た瞬間、俺を助けた胡散臭い男。見た目の情報は確かに一致する。
「し、知ってるの?」
「いや、一度助けられたことがあるだけだ。だが、ヒントが増えた。こういうときが一番困るんだよな…… そういや、像にもなにかヒントはないか?」
ふとフィローは巫女の伝言を思い出す。破壊された像は顔のない神、だがそれぞれの像には名前が書かれていた。しかし台座を確認するが、白くきれいに石膏で埋められていた。
「……捜査のためって言ったら、この台座を壊してもいいか?」
「あ、あまり良くないけど、埋められた壁に歴史的な秘密が隠れていた。私も、その像が何者なのか気になる。でも、それ以上像を壊さないでね?」
「材質的に、元の像のほうがはるかに強力な石だ。ただの石膏とは強度が違う。問題ないだろ」
フィローは初歩的な肉体強化術で指に力を入れ、石膏を剥がしていく。台座に彫られた名は崩れていたが、石膏のおかげで溝が埋まり返って読み取りやすくなっていた。
「……クレ、イル? 勇者だと……?」
その像は、神ではなかった。いや、神々に連なるものとされているが、しかし神ではなく勇者。
「……探す人物が増えすぎだ。あー、どうするかな」
ひとまずこれ以上の収穫はないだろう。手に入った情報は大まかに4つ。
・まず神座とは神になるためのアイテムだ。
・そしてその神座のための手がかりは最後の巫女と顔のない神。
・顔のない神は神話の時代の勇者、クレイル。
・依頼書に書かれていたゼニサスは、この世界に来たフィローを助けた人物。
さてどうするか。いずれも重要な情報だが、そのままでは活かせない。
「……こういうときは、古い言葉に従うとするか」
「どんな言葉です?」
「犯人は現場に戻る、だ。この破壊された像と壁は勇者の権限でこのまま保存させる。常に誰か見張りを用意しないとな。その間ただ放置するのももったいない。歴史研究ギルドの人間に壁の石膏を削らせて、古代文字がないか確認させろ」
「ほ、本当に言ってるの……?」
ロットはたじろぎ、壊れた壁とフィローとの間で視線を左右させる。
「ああ。実際ヒントはこの壁の中にあった。一般公開されてないならべつにいいだろ。それとも、お前らは隠された歴史の真実を知りたくないのか?」
「へ、へへへ。そこまで言われたら、やらないわけがない! その依頼、引き受けたよ」
「後で俺の勇者付きに正式に依頼書を作らせる。その間、俺も行かないといけない場所があるからな」
「ど、どこに? 今まで聞いた情報に、場所のヒントはなさそうだったけど……」
「犯人は現場に戻る。なら最初の現場はどこかって話だ」
それは依頼書とは関係のない、フィローにとっての始まりの場所。
「港の帝国『シャポリダ』。すべてはそこから始まった」
ロットと職員は首を傾げる。彼らにとってそこは別に始まりではなく、依頼書もその街では発見されていない。
だが、彼らはそのことを口にしなかった。フィローがあまりにも自信に満ちていたし、それ以上に勇者の名において資料館を神殿に直していいと言われたことに、心躍っていたからだ。
◆
「シャポリダに行くってお前、ケシニの勇者だろうが。いくらなんでも他国に行くのは拙いんじゃねえか?」
「いえ、それが……シャポリダは宣戦布告を受けていまして……ギルドを通じて勇者を掻き集めています」
「そんでまあ、チャーレッジのおっさんに聞いたら恩を売るチャンスだとかで派遣を許可した。何も問題はねえ」
「でもその宣戦布告をしてきた連中が問題なんスよ」
マルカが手に持つのはシャポリダからの勇者召集状。そこにある宣戦布告してきた敵はギルド加盟国家ではない。
その敵の名は『海竜魔王リヴィヤタン』の使者だと名乗る人間の男だった。痩せた海賊のような男は、正面から王城に侵入し水流を操るデザイアで衛兵を制圧。城を明け渡すか、さもなくばこの国を海に返してもらうと宣言して、泡となって消え去った。
事態を重く見たシャポリダはギルドに勇者の召集を掛け合い、ギルドもそれを承認した。
「しかしその相手、海竜魔王とやらもリヴィヤタンと言う名も、だれも知らないんです。噂では暗黒大陸の魔族からの離反組ではないかという話もありますが…… 暗黒大陸の勇者たちはそれを知りませんでした」
「だが何かあるのは間違いねえな。使者しか来てねえのにいきなり各国の勇者を召集ってのをギルドがそう簡単に許すはずがねえ」
たしかにいくら魔王を名乗る敵とはいえ、制圧されたのは衛兵だけ。自国の勇者すら出していないのに、これではまるでシャポリダでは対応ができないとわかりきってるかのような反応だ。
「どっちみち俺の目的はシャポリダ。正確にはパトルタのおっさんに会ったあの村にある」
「はあ? あんな何もねえ村になんの用があるってんだよ」
「俺が最初にきた場所。もしかするとそれはダンジョンだったかもしれないんだ。それにそこで俺を助けてくれた男。そいつは名乗らなかったが、この古代文字の依頼書の男と格好が似ている。それに古い言葉にもあるだろ?」
「なんスか?」
フィローは腕を組み、ポーズを決めて不敵に笑う。
「犯人は現場に戻る、だ」
「はあ?」
「相変わらず意味分かんないッスね」
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