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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
幕間
22/57

1.5-4 フィローと神座への道

◆フィロー




「ダンジョンはこの世界に元々ないよ」


 ロットの発言を踏まえて、改めて資料を読み直すフィロー。

 神々は何かと戦っていたが、それはダンジョンではない。時代の順序がわからないので人間同士の争いもあるし、神々の戦いもあるが、少なくとも協力して何かと戦っていた時期がある。


「……少なくとゼニサスは神の中でも偉い立場だったんだろう。始まりの神とあるしな。だがそいつが探せと残した神座とはなんだ? そんな言葉どこにも出てこない」

「こ、言葉だけなら王座や玉座に近い意味だと思う。もしそうなら最後に死んだ神に関係するものかも……?」

「その最後に死んだ神の名前は?」

「誰も知らない。最後の神は、長い間1人だけだった。だからみんな神さまとしか呼んでない」

「それもなにか引っかかるんだよなあ。最期はだれかが看取ったんだろ?」

「……せ、正確にはわかってない。神さまは妖精宮と呼ばれる神殿で暮らしていた。最期の日の朝、神さまの世話をする巫女が真っ白になった神さまを見つけて、神官長が死んだと断定。ギルドを通じて世界にそのことが発信され、それ以来妖精宮は人間との交流を拒んで秘匿された領域になっている。ちょうど同時期にデザイア能力を発現する人が増えて、それでみんなも神が死んだと実感した、らしい」


 神さまが死んでデザイアが使えるようになった。ちょうど同時期にダンジョンが現れるようになった。

 ……ゲーム脳で考えるなら、ダンジョンは侵略者が入ってくる入り口だ。そいつらが神を殺し、神は最期の抵抗に人へデザイアを託した。しっくり来るな。

 となると、神が死んだと断定した神官長が裏切り者か?


「神の死んだ妖精宮に神の死を断定した神官長。怪しすぎるな」

「や、やっぱりそう思うよね。当時の信者たちもそう考えて妖精宮に押しかけたんだけど、元々人間嫌いだった妖精たちがそれに怯えて神殿を空間ごと閉じてしまった。だから今はよほど妖精に縁のあるものしか入れないんだ」

「妖精ねえ……そいつらも怪しいが、妖精なんて見たことがないからわからんな。そういえばその巫女は? と言っても100年前か。もう死んでるよなあ」

「……そ、それが……巫女は生きてる、はずらしい」

「……は?」


 第一発見者が生きてる? 俺の考えたとおりなら、普通神官長やダンジョンから現れた敵に殺されているのではないか?


「そもそもなんで生きてるってわかるんだ?」

「そ、それは、勇者と同じように、巫女も魔力を記録されているから。妖精宮にインゴットがあるらしくて、毎年巫女を探し出せと、神官長からギルドに依頼がある。誰もまともに受けていないけど、これ」


 ロットは歴史研究ギルド宛の依頼書の束から1枚を取り出して広げる。ギルドでは現代と変わらない白い紙が使用されているのに、その依頼書は動物の皮に掘られるように刻んであった。

 しかしその文字は古代文字ではなく、現在のバベル文字だ。


「そういやバベル文字っていつから使われているんだ?」

「き、記録にないけど、今のギルドの体制になる前、ギルド連合の頃にはすでにあったみたい」

「……待て、いくらなんでもそれはおかしいだろ」


 勉強嫌いなフィローでも文字ができた理由はわかる。記録を残すためだ。なのにその記録がないのは不自然過ぎる。

 いや、そもそもこのバベル文字。明らかに現代世界の言語のごちゃまぜだ。古代文字からの派生には見えない。突然降って湧いたような……


「まさか……文字すらダンジョンから取ってきたのか?」


 ダンジョン内で使用されている言語がこの文字だから、ダンジョンが主戦場のギルドが普及させた。それは十分にありえるのではないか。


「だがそれならなぜ旧時代の妖精宮からこの文字の依頼書が届いてくる?」

「わ、わからない。けどこの依頼書は、ギルドが完全に今の体制になったころから送られてきてる。だいたい50年前から」


 謎は深まるばかりだ。いっそ当時の人間に聞ければいいのだが。

 休憩にしたはずなのに頭を使っていると、1人の職員が入ってきた。


「見つけましたよ! この文字と同じもの!」

「ああん? 今は休憩中だと言ってるだろうが。というか、見つけたならなんで手ぶらなんだ?」

「休憩? それは失礼しました。見つけたのは隣の資料館の中にあるからですよ」

「し、資料館? それならここに写しがいくらでも……」

「ほら、あれですよギルマス。少し前にいちゃもんをつけに来た女が暴れたでしょう? その時壁の一部が崩れてしまって、その裏にあったやつです」

「あ、ああ……あの事件の……」

「壁の……裏……?」


 ロットは俯き、フィローは目を細める。資料館は元々神殿だ。まさかとは思うが、


「ロット。もしかして、資料館にするために改造されたりしてるのか?」

「……う、うん。ちょうど歴史研究ギルドがなかった頃に、神殿を資料館にって。壁画とか天井の絵とか、石像とか。見てすぐに貴重だとわかるものは残っているけど、そこの写真のように文字なのかひび割れなのかわからないものは、全部キレイに塗りつぶされてる……」

「……マジかよ」


 歴史の授業が存在する現代人のフィローは、それがどれだけ冒涜的なことかを知っている。勉強は嫌いだし、歴史を覚えるつもりはない。だが、連綿と紡がれてきた時間の重みの貴重さは理解しているつもりだ。


「その壁を元に戻す、つまり、資料館の前の、神殿の頃に直すことはできないのか?」

「無理でしょうね。そもそもあっちは冒険者ギルドの管轄です。今僕が急いで確認してきたのも、数日中には修理されてしまうからです」


 フィローは舌打ちし、古代文字の依頼書を手にして席を立った。


「再修復される前に確認するぞ」





 閉館時間はすでに過ぎていたが、勇者の任務だと伝えるとすんなり通してもらうことができた。


「意外と明るいな」

「どうやら特殊な鉱石を使用した石像のようで、日中はただの像なんですが夜間は薄く光っているんです。まあ、それ以外に照明があるんですけどね」


 資料館の壊れた壁。それは一般公開されていない、倉庫のような場所にあった。


「なぜこんなところに? 暴れた女とやらは客じゃなかったのか?」

「何者かは知りませんが、石像が足りないと文句を言ったらしいです。それで歴史研究ギルドの関係者かと当時のスタッフが修復中の像を案内し、」

「で、暴れたわけだ。……こりゃひでえな」


 そこには崩れた壁よりも目を引く、破壊された石像があった。どんな力を加えたのかわからないが、石像のはずなのに胴体から上がねじ切られている。


「わ、わたしは悲しい。元々顔のない石像だったんだけど、彼女はこの像は存在させてはいけないとすごく怒っていて……」

「顔がないから、修復のためにこっちに仕舞ってあったわけか……だが、他にも壊れかけている像はいくらでもある。その女はなんでこれだけを狙って壊したんだ? 絶対になにか知っているはずだ。その女は今どこにいる? まさか捕まえたんだろう?」

「ええ、まあ。壊した後は大人しく逮捕されて、近くの自警団の地下牢に拘留してたんですが……」


 職員は気まずそうに頭をかき、ロットは苦虫を潰したような顔で呟く。


「あ、朝には居なかった。誰にも見つからず、魔力反応だけを残して、消えていた。ありえないことだけど、当時同じ牢に別件で掴まった女冒険者も居たのに、気づかれなかった」

「おいおい、凄まじい使い手ってことかよ」


 ヒントは出てくるのに、次々にその足取りが消えていく。これじゃどれが何のことだか忘れちまいそうだ。


「まあその件は今はいい。まずは文字だ。ぱっと見、見当たらないが……」

「おっと、そうでした。これ、本当に偶然見つけたんですけど」


 そう言って職員は壊されて露出した古い壁に手を当てる。すると、彼の魔力によって古代文字が浮かび上がる。


「な……」

「暗くなってきたんで光魔術を使おうとしたら、触れていた壁が薄く光りましてね? まさかと思って壁に魔力を流したら」

「おいおいおいおい、やるじゃねえか! 手がかりどころじゃねえ。これは答えそのものだ!」

「な、なんて書いてあるの?」


 浮かび上がった古代文字。そこに記されていたのは依頼されていたもの。すなわち神座。


「神座。それは始まりの神が受け取りすぎていた、願いの力を保管するための器。神座。それはあらゆる願いに対応した神を作り出す、孵化装置。神座。それはこの世界から奪い取った、この世界の支配権……」

「え、そ、それって……」

「そのまま信じるなら、神座はそのままの意味で、これを手に入れれば神になれちまう。ヤバすぎんだろ……」

「ちょ、ちょっと待て、それ、僕たち聞いてたらまずくないか!?」


 職員は慌てるが、フィローは隠すつもりはなかった。


「気にするな。俺が独り占めにしてどうこうなる情報じゃねえ。しかも、ご丁寧に誰が持ってるかまで書いてあるぜ?」

「……は?」

「顔のない神。そして最後の巫女たる私を探せ。だとよ」






ここまでお読みいただきありがとうございます。


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