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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
第一章
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1-2 ケシニの冒険者

初めの視点が続きと異なりますが、多用するのでご理解ください。

◆ 異世界から来た勇者フィロー



「ここがダンジョンか。ほとんど外と変わらねえ、っていうか外にしか見えねえんだけど。ここで間違いねえんだよな、パトルタのおっさん?」

「ああ。だがここまで何もねえダンジョンは俺も初めてだ。魔物共の待ち伏せの可能性もある。気をつけろよフィロー」

「へ、俺はこの世界の主人公だぜ? 魔物だろうが他所の冒険者だろうが華麗に潰して、サックリダンジョンクリアしてやんよ」

「おお、いいッスねえフィローさんのそのなんの根拠もない自信! それでこそ我らが勇者サマッスよ」

「根拠はあるぜマルカ。俺はこの世界の主人公だ。主人公の道に障害はあっても不可能はない」

「やっぱフィローさん意味分かんねえッスね。ね、パトルタさん」

「マルカ、漢《おとこ》ってのはいつだって自分が最強で全能だと思ってんだよ。不治の病といっしょだ。挫折することでしかそいつは治らねえ。そしてそれでも治らねえやつが勇者なんだ」

「パトルタさんも意味分かんねえッスね!」


 オルラーデ近郊の廃鉱山。その内部にダンジョンが発生したらしいという報告を受け、旧エミニア領内の地方都市ケシニ領から派遣された3人組の冒険者パーティ【夜の明星】。彼らは勇者でも勇者パーティでもない。勇者ではないが、ケシニ領に雇われた冒険者である彼らが勇者になるためにこのダンジョンが必要なのだ。


 ケシニの領主は同じ旧エミニア領でありながらギルドへの加盟を果たし、ギルド公認国家へと昇格したオルラーデを快く思っていない。それだけならまだしも公認国家の庇護がないケシニに対し、オルラーデは合併を持ちかけていた。

 旧知の好などと使者は笑っていたがオルラーデの目的はケシニの鉱石資源。当然ケシニは断ったが、それに対しオルラーデはエミニア外への交易路に高い関税をかけた。ケシニの領主は腸の煮え返る思いだったが相手は新参とは言え勇者を抱えるギルド公認国家。武力行使は得策ではない。

 そんな折、領主はダンジョン発生の報告を受けた。場所はオルラーデ側の廃鉱山。オルラーデ近郊ではあったが、オルラーデ領内ではない場所だ。どちらかといえばケシニ領なのだが、ケシニはギルドの公認国家ではないため地図上は旧エミニア領となっている。その事実も領主にとっては許せないのだが、ここでケシニがダンジョンを攻略できればギルドへ加盟の目が出てくる。そうなればオルラーデとも立場は対等になり、今の不条理な現状を打破できると領主は考えた。


 そしてケシニの野望のために派遣されたのが彼ら冒険者パーティ【夜の明星】。

 リーダーは白髪の大男、パトルタ。使い込まれた重鎧を身に纏い、背丈ほどもあるハルバードを肩に担いでいる。酷薄そうな笑みを貼り付けギラギラとした目はまるで飢えた狼のようだが、その目は灰色に濁っておりその肌も張りはなく皺だらけで老人のようにも見える。

 もう1人は若い黒髪の男、自称主人公フィロー。入れ墨だらけの上半身を見せつけるように上着を着用せず、革のズボンと軽鎧のシューズを履いている。見た目だけなら冒険者というよりは盗賊だが、彼こそがケシニの勇者になろうとしている人物であり、首から下げた領章のプレートがそれを示している。大型のボウガンを両手で持ち、腰にも背にも大小様々な形のボウガンを装備している。

 最後の1人は金髪の少女、マルカ。首と両腕、両足首に金属のリングを付けられ、服装も粗末な布のローブを被っているだけの奴隷だ。リングはそれぞれが鎖で繋がれ、あまり自由に動かすことはできない。しかしその紅い目に悲壮感はなく、屈託なく笑っている。


「で、どっちに行けばいいんッスか?」


 フィローたちの目の前に広がるのは緑の絨毯のような草原。いくつか木々は生えているが、基本的には高低差のない広々とした平原だ。その他目視で確認できるのは遠くに見える神殿のようなものと、その周囲に少しばかり林がある程度か。


「普通こういうフィールド型のダンジョンは制圧が難しい。ただでさえ広いのに目印が少ないからだ。今回は一応それっぽいのが見えるが……普通はすぐには見えねえ」

「なら目印になるあの建物に向かうのか?」

「それも手段の一つだが、俺たちの目標はあくまでダンジョン攻略。制圧ならあそこを拠点に虱潰しにこの中を見て回る。しかし今回その必要はねえ」

「んー? 攻略と制圧って違うんスか?」

「そうだな。簡単に言えば制圧はダンジョンの完全な無力化。そのダンジョンを自由にできるように隅から隅までキレイにしないといけない。攻略はもっと単純で、このダンジョンをぶっ壊せばいい」


 壊す、という言葉にマルカが笑みを深め、フィローも自然と歯茎を見せる。

 実際には攻略にも2種類あり、そのダンジョンを消滅させるか、コアまでの道筋をギルドへ報告すればいい。

 しかし後者の場合その内容に誤りがないかギルドが実際に確認するまで時間がかかり、その間に制圧されるということも珍しくはない。余談だがセリアはギルドの人間なので報告と同時に攻略が完了する。


「へえ、ダンジョンって壊せんのかよ?」

「当然だ。この世に壊せねえもんはねえ。ダンジョンにはコア、簡単に言えば心臓がある。そいつを壊せばダンジョンも機能を失い、その存在を維持できなくなって自動的に消滅する」

「楽しそうッス! で、で、そのコアはどこにあるんスか?」

「落ち着けマルカ。そう簡単にコアは見つからねえようになってんだ。おめえの心臓だってその平たい胸の下に隠してあんだろ?」

「マルカのおっぱいは平たくないッスよ? ねえフィローさん?」

「そうか? まあ頑張れば揉める程度にはあったか」

「ほら! フィローさんもマルカのおっぱいはあるって! パトルタさんには触らせないッスよ!」


 勝ち誇ったように胸を反らすマルカだが、その身に纏ったローブがなかったとしてもパトルタは胸の膨らみを確認できなかっただろう。


「触らねえよ。まな板のほうがまだ凹凸がある。……フィロー、お前もいい趣味してるぜ」

「そのために買ったからな。無知ックスはいいもんだっと、その話はいいだろ。その隠されたコア、どうやって見つけるんだ?」

「そりゃお前の能力の出番だろフィロー。コアってのは基本的に魔力の塊だ。このダンジョン内で最も魔力が多い存在、それがコアだ。なら、もうわかるだろ?」


 ニヤリと笑うパトルタと、一拍遅れて意味を理解するフィロー。


「なるほどな。俺の能力なら確かに見つけられるし、ぶっ壊せる。ダンジョン攻略向きの能力だぜ」

「お、おお? やるんスか? フィローさんのデザイア『魔弾』!」


 デザイアとはこの世界の神の残した最後の奇跡、願望の具現だ。願いが何でも叶ってしまうこの世界において、異世界から現れたフィローが願ったのは己の知る中で最強の武器。すなわち銃やロケットなどの近代兵器であり、簡単に言えば遠距離武器だ。

 フィローは銃を願った。だが彼は銃の構造を知らなかった。結果として彼が得たのは彼にも理解が出来ていた弾丸の生成能力だった。

 彼は落胆したが、それはただの弾丸ではなかった。彼の思い描いていたファンタジーの世界の、ゲームやアニメの世界の、どちらかといえばチートの弾丸だ。

 つまるところ、彼のデザイアによって生成される弾丸は目標を自動で追跡し、目標以外を回避し、命中すれば毒を撒き散らして爆発する。そういった様々な要素を自在に組み合わせた、まさに奇跡の弾丸を魔力の限り無制限に生み出すことができるチート能力。故に『魔弾』。


「んじゃ、ほんとにサクッとクリアして見せるか! 『魔弾』生成! 目標は魔力の高い順、自動追跡、貫通、爆破……」

「おっと、ちょっと待て。もし万が一このダンジョンがあまりにもヘボすぎて俺たちのほうが魔力が高いってことになると面倒だ。俺の総魔力量はお前より多いしな。俺らは対象にするな。それからコアが足元にあっても困る。正確な位置が特定できるまで爆破もやめろ」

「確かに、ハハ、前にオートでぶっ放したらおっさんのケツ穴が増えちまったからな」


 能力の実験をしていた時のことを思い出し吹き出すフィロー。集中力が切れ、生成途中であった魔弾も魔力が途絶えて霧散する。


「笑い事じゃねえぞフィロー。デザイアってのは何でもできちまうが、なんでも思い通りにできるわけじゃねえ。きちんと願わねえとなんでも一緒くたに叶っちまうんだ」

「ああ、はいはい。雨男の火炎術師だろ? わかってるって」


 軽く聞き流しフィローは再び魔弾を生成する。自分たちを除いた魔力の最も高い目標を自動で補足、追尾し、命中とともに爆発の代わりに狼煙が上がるようにした。今回の発射機はボウガンなので形状は矢だ。


「改めて、攻略への第一歩、発射しますか! 目標上空、フォイエ!」


 フィローのメイン装備である大型ボウガンから放たれた魔弾の数は12発。そのすべてが十分な高度に達したところで目標を補えるために不規則に回転。標的を発見したその矢は凍りついたように空中で止まり、すぐさま獲物に向かって再加速する。弾丸の向かう先はやはりというか例の神殿のような建造物。


「前から気になってたんスけど、それどこの言葉ッスか?」

「こんなもんノリだよノリ」


 12発の弾丸がコアへと降り注ぐ。




◆セリア




「し、侵入者だって!? ど、どうする? どうすれば…… ええい、お前がいつまで経ってもコアをどうにか出来ないからこんな事になったんだぞ!?」


 激しく取り乱し、怒りのあまりテーブルを倒すナルシック。当然だがダンジョンは誰にでも攻略の権利がある。なので侵入者が現れるのはごく自然なことであり、まさかこの程度の報告でここまで動揺するとは思っていなかった。


「ちょ、ちょっと落ち着いてください。侵入者と言っても相手は人間。冒険者であるかも、ましてや敵意があるとも限らないです」

「そうですよぉ。いつもみたいに威張り散らしてれば、そこらの冒険者なんて相手になりませんよぉ」

「そ、そうか。そうだな。……いやちょっと待て。そいつらがここまで来たらどうなる?」


 ナルシックの動揺を治めるためにそんな事を言うが、そもそもこのダンジョンがある場所は廃鉱山内部。入り口からそう遠くないとは言え、一応は侵入禁止区域だ。一般人が迷い込んだということはないだろう。であれば残りは冒険者か、他国の勇者ということになる。

 冒険者であれば所属次第だが勇者の交渉次第でどうにでもなる。例えばコアの制圧中なので手出し無用と断りを入れるなら、多少の手付け金で解決可能だろう。ナルシックがそうするとは思えないが。

 だが相手が勇者となるとそう簡単に話は終わらない。なにせ相手の目的も同じくダンジョンの制圧。最低でも合同制圧になるだろうし、どちらかがそれに異を唱えるなら恐らく戦闘になる。その場合確実にこちらは敗北し、オルラーデはダンジョンの利権を失う。

 なんと説明したものか。少し考えていると上空で何かが光る。


「? ……! 伏せてください!」

「なにを……!?」


 咄嗟にナルシックを突き飛ばし、防御用の魔術陣を起動。矢のようなものが降り注ぐ。それらの目標はコアだったようで私たちに直接の被害はなかったが、コアに傷が付き魔力が漏れ始める。それと同時に矢からは煙が吹き出す。


「っくぁ……突然何をするんだ! ッ!? なんだこの煙は! おい、いったいどうなってるんだ!?」

「敵襲です! 相手は明確に敵意を持っています!」


 いくつか状況は想定していた。しかしこれはそのどれにも当てはまらない。まさかこんなにも早く侵入から攻撃行動をしてくるなんて思ってもいないからだ。

 こんなことを、人的被害を無視しダンジョンコアを直接攻撃してくるのは1人しか思い浮かばない。


「……ダンジョンイーター? ……だとしても早すぎる」

「おい、何も見えないぞ! ライツェ、どこだ? 返事をしろ無能ども! お前らは勇者の盾にしかならないんだ! 今すぐ俺を守れ!」


 これは、制圧は完全に失敗だ。傷ついたコアを修復することは理論上可能だが、ここにはなんの準備もない。それに相手がダンジョンイーターなら狙いは確実にコアの破壊。残された選択肢はコアへの攻撃に巻き込まれないようすぐにここから逃げ出すしかない。


「勇者ナルシック様、相手はダンジョン入り口、正面から来ます。裏から脱出しましょう」

「クソ、クソが! なんだって俺がこんな目に遭わないといけないんだ!」


 暴れるナルシックは聞く耳を持たない。この煙幕のため視界が効かないせいで、余計に混乱しているのだろう。だがあんなやつでも彼は勇者で私は勇者付き。万が一にも彼にダンジョン内で死なれると私の出世の道が遠ざかってしまう。

 どうにか彼を宥めようと考えていると、突然肩を掴まれる。


「先輩、ギルドへの報告書とこのダンジョンの見取り図、完成してますよね?」


 それはいつの間にかバスローブからギルドの制服に着替えた完全武装のライツェだった。その表情は引き締まっていて、いつもの甘えた声ではない。


「え、ええ。もちろん準備はできていますが、それより今は脱出を優先しないと。ろくな防御手段もない彼の誘導を手伝ってください。相手がダンジョンイーターならコアの破壊のために手段を選びません。ダンジョン崩壊より攻撃の余波に巻き込まれる方が危険です」

「流石ですね。こんな状況でもこんな勇者のことを考えているだなんて」


 そう言ってライツェは大きな魔石のついた杖を振りかぶる。


「ライツェ、あなた一体なにを……?」

「さあナルシックさま、勇者の夢は終わりです。次は勇者の現実を見ましょうね。昏倒魔術『スリープ』!」


 大きく振り抜かれた杖はナルシックの後頭部を正確に捉え、人からしてはいけない音を立てながらその場に崩れ落ちる。


「な、なにをしているんですか!?」

「水難事故における人命救助のコツは相手の動きを止めることです。ダンジョン内でも同じこと。下手に騒がれてこちらまで被害を被るのが一番まずい。さて、準備は完了しました。セリア先輩。報告書と見取り図、わたしに預けてください」

「……何が目的ですか?」


 旧に態度が豹変したライツェに戸惑いと警戒を隠せない。同じ勇者付きとは言え、彼女はナルシック側の、オルラーデに付いた人間だ。

 ライツェは殴り倒したナルシックを右肩に担ぎ上げ、左手で書類を要求している。その細身に似つかわしくない腕力と体幹は、魔力制御による肉体強化によるものだ。


「セリア先輩。この状況で、先輩にとって一番良い状況はなんですか?」

「質問に質問で返さないでください。言葉遊びに付き合っている時間はありません」

「真面目ですねぇ。では答えますが、今から打てる最善手は相手よりも早くダンジョン攻略をすること。わたしたちならギルドに報告書を提出するだけでいい」


 たしかにそれはその通りだ。ただの攻略ならギルドへの貢献度はオルラーデとダンジョンイーターでイーブンだが、ダンジョン消滅となると我々の報告書は価値を失う。その場合オルラーデの貢献度は当然0。この3日間がすべて徒労に終わってしまう。しかし先に提出できれば、仮に提出直後にダンジョンが消滅したとしても、その貢献度は失われない。

 だが、ダンジョンの消滅よりも早くギルドに報告をするなんて、


「……そんな事ができるはずが……」

「出来なければこんな提案しませんよ。貢献度、欲しくはありませんか? 屈辱に耐えながら書いた報告書を、紙くず同然に捨てるんですか? わたしのデザイアならそれが可能です。……少しばかり時間はかかりますけどね」

「…………私に囮になれ、と?」

「任期中の実績なし。そんな勇者付き、誰が付けたがるんですか?」


 その言葉がトドメだった。迷っている時間はない。私は肩掛けカバンをライツェに渡す。


「あなたを信用して、これを託します。裏切ったら、化けて出ますよ」

「悪いようにはしません。……では、ご武運を」


 カバンを受け取ったライツェは煙幕に溶けるように消えていく。目の前にいたのにその痕跡を確認できない、恐ろしいほど高度な魔術偽装。なぜそんな魔術の使い手がナルシックに身を捧げていたのか、今更ながら理解が出来ない。


「……よし」


 ライツェの言っていた最善手は相手よりも素早いダンジョン攻略。だがそれはなにも報告書の提出だけが全てではない。相手よりも素早くコアを破壊できれば、それでもいい。

 それにコア破壊によるダンジョン攻略であれば、競合したとしても貢献度は平等に振り分けられる。魔術陣を少し弄れば、傷ついたコアの破壊は十分に可能だ。


 だから、

 別に騙されていたわけではない。私が欲を出しすぎただけだ。

 どうせ時間稼ぎのためにコアの前で留まるなら、なにかできることを少しでもしようと、そう考えてしまっただけだ。


「あれ、誰かいるッスよ? 女ッス!」

「前に出すぎだマルカ。何もないダンジョンだぞ? コアの前にいるなら、そいつがガーディアンってやつだ」

「!? ま、違います! わたしは……!?」


 振り向くと同時に腹部を貫く衝撃と激痛。吹き飛ばされた私は勢いのままにダンジョンコアに釘付けにされ、視線を下げるとショートランス程もある大型の矢が突き刺さっていた。


「……な、かはっ……!」


 何かを喋ろうとして、しかし口から溢れるのは血。


「んー、フィローさん。こいつ人間っぽいッスよ? ほら、血が出てるし赤いッス!」

「マルカ。魔物だって血は出たし赤かっただろ」

「はっ、ゴホッ! ハァ、……ゴホゴホッ……!」


 息をする度に口から血が溢れる。応急手当の魔術を構築しようとするが、あまりの痛みに集中できない。手が震える。寒い。痛みは焼けるように熱いのに、身体は凍えるように寒い。


「……おい、お前ら……っ走るの、速えんだよ……!」


 新たな声に気が付き、ゆっくりと視線を上げるとそこにいたのは3人の冒険者。私の知るダンジョンイーターではなかった。


「ああ、バカお前、フィロー、お前。あの制服はギルドの戦闘職員、勇者付きだぞ。これから勇者になろうってのに、勇者の従者に何してやがんだ」

「なんだって? コアの前にいたからてっきりガーディアンなのかと」

「ほら、やっぱ人間だったじゃないッスか!」


 後から現れた白髪の大男が私の腕を取り、ため息をつく。


「はーっ…… うちの若いのがすまねえな。許してくれとは言わねえよ」


 大男は背嚢から小瓶を取り出す。ポーションかと思われたそれは妙に酒臭く、頭からかけられているこの液体は酒だった。


「…………?」

「おいおい、パトルタのおっさん。そいつは高えんじゃねえのかよ?」

「高い酒だが、冥土の土産には丁度いい」

「……っぇ……?」


 空き瓶を投げ捨て、パトルタと呼ばれた大男は背負ったハルバートを大きく仰け反るように構える。


「許してくれとは言わねえよ。だがここはダンジョン。恨むんじゃあねえぜ?」


 振り下ろされたその刃は、思ったよりもギザギザで、あれで斬られたらきっと痛そ


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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