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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
第一章
15/57

1-15 スカイフィッシュ

◆ケシニの勇者パーティ




「本当なんだろうなパトルタのおっさん! 未発見の新種、スカイフィッシュだってのは!?」

「ハァ、ハァ! お前も見ただろあのドラゴンの姿を! ハァ、間違いねえさ! だからもっと俺に合わせて走れ!」

「パトルタさんがもっと早く走るッス! 勇者付きの人が着いてこられるんだから余裕ッスよ!」


 スカイフィッシュ。彼らがそう名付けたドラゴンは、彼らの試験官である勇者付きも知らない新種であることは間違いなかった。すでにギルドへ応援要請を出してあるが、そのドラゴンがいたのは2層の中でも奥まった山の上。近場に階層を繋ぐ階段はなく、かなり距離があった。


「だがどうするんだ!? 生け捕りにするんだろ? 俺たちは何も持ってきてねえぞ?」


 フィローたちのパーティは今回のミッションをクリアするつもりがなかった。内容が内容だけに諦めていたのだ。なのでパトルタが背負ったカバンの中には食料品と医薬品等、最低限の必需品しかなかった。


「冒険者の学校で勉強しただろ? 罠の効果が期待できない生物は直接網で捕るんだよ。お前の魔弾ならそういうのも作れるだろ」

「座学は苦手でいつも寝てるんだよ。だがそりゃいいアイデアだ。グレネードん中に網を入れりゃいい」

「そうは言ってもあいつめちゃくちゃでかいッスよ?」


 フィッシュと名付けたが魚などではない。このダンジョンにいるのは例外なくドラゴンだ。目標のスカイフィッシュも推定全長推定40メートル超。ただの投網で拘束できるとは考えられない。


「まあそこは死なない程度に痛めつけるしかねえわな」

「ちょ、ちょっと待ってください!? 制圧済みダンジョンで発見された希少な新種なんですよ!? あのドラゴンは独特な進化を遂げたレア中のレア。もう二度とあのような個体は発見されないかも知れません。痛めつけるなんて以ての外です! 無傷で捕獲してください!」


 それを言い出したら基本的に魔物は全て独自の進化を遂げるため、今まで狩られてきた魔物は全てその可能性を摘み取られてきたのだが、この場にいる全員ともそれに気が付かなかった。

 ちなみにこのような新種はダンジョン産の1世代目にしか現れない。成長の果てに次世代を残す機能を得た魔物の子は例外なく1世代目のコピーだ。しかしその2世代目以降の種と別の魔物が交わることでも新たな新種は発生する。だがそれはいずれも能力の性質を引き継いだ個体であり、完全な新能力の獲得はない。


「むちゃくちゃ言うッスね!」

「まあ試すだけ試してみるか。マルカ、例の新兵器を使うぞ!」

「おお、あの玩具を使うんスね?」


 フィローが腰から取り出したのは信号弾の発射機。彼曰くグレネードピストルだ。彼はまだ銃を手に入れてはいないが、銃のようなものはすでに多数装備していた。フィローのデザイア『魔弾』はボウガンの矢だけではなく、発射機から放てるのなら何でも生み出せる。


「魔弾生成! 睡眠ガスと神経ガス、魔力阻害と煙幕、自動追跡に空中散布、後何が必要だ?」

「バカかお前。そんなもん俺たちまで巻き添え食らうだろうが! 今すぐやめろ!」

「そのためのガスマスクだろ! 取り合えず発射!」


 パトルタの制止は無視され、軽い発砲音とともに化学兵器と化した魔弾がスカイフィッシュを追尾する。相手もそれに気づき振り払うために主翼で払うが、予め設定されていたとおりに魔弾はそれを回避し顔の前で炸裂。スカイフィッシュを飲み込むように毒々しい黄色いガスが散布される。


「やったか!?」

「マルカ知ってるッスよ! それダメなやつッス!」


 マルカの予想通り、スカフィッシュはその煙幕を何事もなかったかのように抜け出す。しかし弾には気づいてもこちらには気づいていないようで、周囲の様子を探っていた。


「あー、ありゃただ泳いでるわけじゃねえな。空気を切ってるっつ―か、自分の前にある空間そのものを無視して前進している。ヤツの周囲を巡っている魔力防壁が原因だろうが、あんなもんこの2層のレベルじゃねえぞ?」

「おいおいそれじゃあ俺の天才的なアイデア、状態異常作戦は通用しないってことか!?」

「たぶんな。直接打ち込めばまた別だろうが、そもそも魔物には毒類は効きにくい。あいつらには内蔵や身体を形成する筋肉なんて上品な機能はついてないからな」

「ならそれを先に言えよ! 全くの無駄撃ちだったじゃねえか!」

「常識だぞ!? それに俺はやめろって言っただろバカ!」

「ああっ!? 新種のドラゴンが空に!」


 パトルタとフィローが言い合いをしていると勇者付きが悲鳴を上げ天井を指差す。ここはダンジョンの中だ。天は高いが物理的に天井が存在し、本来いかなる生物も階層を繋ぐ階段など専用の通路を介さなければ、階層を跨ぐことはできない。

 だがスカイフィッシュはその天井に頭から突っ込み、何事もないように泳ぎ去る。


「……行っちゃったッスねえ」

「そうか! 空間を無視できるなら壁も天井も関係ない! あいつは本当に目の前の障害を無視できるんだ。って、やべえぞ!? 俺たちの獲物が行っちまった!」

「いえ、それどころじゃありません! 前代未聞です! 本当にダンジョンの、異空間同士の階層を抜けられるなら、あれは一体どこから来たんですか!?」


 ダンジョンの階層は物理的に繋がっていない。その階層を繋いでいる階段などの道を抜けると、本来ならありえない場所に出る。例えばこのダンジョンの1層と2層を繋ぐ階段は岩の影や大木のうろ穴にある。しかし1層からその階段を降りた先、2層の岩や木を裏から見ても明らかにそんな階段が入るほどの空間はなく、そもそも天には届いていない。

 過去には1層を掘り進めることで2層への貫通を目指した工事もあるのだが、どれだけ進んでも途中で弾かれてしまいそれ以上進むことができなかった。そのため本来繋がっていない階層同士を抜けられるということは、あのドラゴンは異世界を渡れることになるのだ。


「! 1層にいる応援部隊から通信がありました。私たちの追っていた個体と非常に似たドラゴンが地下から現れたそうです!」

「おいおい、マジかよ! とにかく俺たちも上に行くぞ!」

「了解ッス!」

「……また走るのか…… 老体にはきついぜ」




◆レオーラの勇者パーティ




 そいつは本来存在しないはずの地中から現れた。


「魔力反応! 大きい! 12時の方角、地下!?」

「モグラのドラゴンか? 骨格の魔石になるなら何でも良いが……」

「な、何よこいつ!?」


 ナディのデザイア『フォローミスト』の広域探知は霧の届く範囲内、本来なら地上しかカバーできない。そのためそれは全くの偶然だった。スカイフィッシュの纏う空間を割く魔力防壁が常に流動しているために霧が巻き込まれ、それによってたまたま出現よりも前に感知できたのだ。もっとも、その性質ゆえ探知できた瞬間には目の前に現れていたわけだが。

 スカイフィッシュと名付けられた新種のドラゴンは地面と空中の区別なく、その身体を優雅に靡かせ空に出る。


「デケェ……! こんなもんが地下にいたらもっと早く気がつくぞ!? しかも飛行能力まで持ってやがるのか!」

「ショート、どうするの? 私たちのパーティじゃ、飛んでるドラゴンは手にあまるけど」

「あれ程の大物なら骨格を持っている可能性はありそうだね。無理をする必要はないけど、飛んでいないならみんなもなんとかなるだろう?」

「当然だろショートさん。俺たちはアースドラゴンなら何体も狩ってきてんだぜ?」

「ならやろうか。デザイア『英雄再臨』!」


 レオーラの勇者、平坂ショート。彼もまた異世界人だ。防具こそ立派だが彼は武器を持っていない。その理由はデザイアにあった。

 『英雄再臨』。その能力は彼の思い描く理想の英雄像の具現化。彼は五感を閉じ、過去の元居た世界、日本で見た英雄をできるだけ色濃く思い浮かべる。目の前にいるのは天を目指して泳ぐ、どこかリュウグウノツカイに似たドラゴン。それを倒せるのは、どんな作品のどんな英雄か。

 首を一刀両断した侍? それはダメだ。必要なのは骨格の魔石。魔石は魔物を倒せば残るが、逆に魔石を壊せば魔物は死ぬ。もし骨格が魔石として残るなら、そこを傷つけてはいけない。

 ヘビの怪物を素手で倒した怪力無双? いや、あれはそもそも巨人だ。この能力では身体強化はできてもそこまでの巨大化はできない。

 逆に考えるんだ。倒さなくてもいい。地上に落とすだけでいい。ならば、


「我が弓は流星すら落として見せる! メテオ・アロー!」


 意識が世界に引き戻される。その両手に持った弓矢はすでに槍のような矢を番えており、あとは引き絞られたそれを解き放つのみ。一息ついてから標準を合わせ、優雅に舞う翼を捉える。

 放たれた矢は音速を優に超え、瞬く間にスカイフィッシュの主翼を貫き爆散する。


「ヒュアッ!?」


 それはスカイフィッシュにとって久しぶりの衝撃だった。あらゆる見えない障害を無視し続けてきたドラゴンは、いつの間にか見えている障害も無視できていた。だから忘れていたのだ。自身が捕食者になる前にいた、自身を脅かす存在のことを。

 翼を失ったことでバランスを崩し、久しぶりの痛みによる混乱で正常な判断を失ったスカイフィッシュは地に落ちる。


「ふう、なんとかなったな」

「さすがねショート!」

「ああ、やるもんだな!」

「……魔力反応は殆ど失われていない。油断は禁物」


 ナディの言うとおりスカイフィッシュは地に落ちたがそれだけで、戦闘は始まったばかりだ。


「うん、わかっているよ。メインアタッカーはガリアス。ターシャは牽制、ナディはそのフォローを。ボクは遠距離から攻撃をして、やつが飛び上がる度に叩き落とす。みんな、気を引き締めていこう」

「おう! 勇者パーティ【黄金の夜明け】の実力、見せてやるぜ!」


 墜落したスカイフィッシュは未だ混乱状態にあったが、その翼はすでに再生していた。しかし身体を覆う魔力防壁までは修復されていない。そしてその翼と周囲には通常ではありえない空色の血液が付着している。斥候のターシャはこれを見逃さなかった。


「! ショート、このドラゴン体液がある! かなりの大物よ!」

「なら、当たりかもね!」

「よっしゃ、行くぜええ!」


 大剣使いガリアスの大振りな縦斬りはその踏み込みだけで大地を砕く。その破壊力の前には生半可な防御は無意味であり、たとえドラゴンの強靭な鱗であろうと両断する。ガリアスの狙いはショートが破壊したのとは逆の翼、左翼だ。こちらも破壊すれば飛行状態への移行を更に阻止できると考ての全力の一撃。

 その狙いは間違いではなかった。ガリアスの振り降ろした大剣は過たずその主翼を斬り裂く。


「なに!?」

「ヒュオウ!」


 間違っていたのは相手の防御能力の想定だった。あまりにも手応えがない。ドラゴン相手だからと力んでいたのが災いし、布の束でも斬るかのように翼をすり抜けた大剣はダンジョンの硬い大地に突き刺さる。


「ぐあっ!?」

「大丈夫!?」


 想定外の事態にガリアスは一瞬だが混乱し、その隙を突いたスカイフィッシュの体当たりに弾き飛ばされてしまう。

 だがその弾き飛ばしもまたガリアスの思考を乱す。固くないし重くない。弾かれはしたがそれは魔力防壁によるものであり、スカイフィッシュの身体はまるで布風船のように軽かった。


「なんなんだこいつは!? 手応えはねえし攻撃力もねえぞ!」

「なら回避能力に優れているとかかな?」

「ヒュアアア!」


 ショートは先程デザイアによって発現させた矢を放つ。今回も右翼を狙った一撃はその翼を爆発させ、スカイフィッシュは大きく吹き飛ばされる。

 その姿を見てナディは首を傾げる。


「おかしい。翼を3度も失っているのに、全然魔力反応に変化がない」


 彼女がデザイアで周囲に展開している魔力の霧は様々な索敵能力があり、特に対魔物において効果を発揮する魔力反応の測定は無意識でも正確に判断できるほど鍛えている。相手の魔力反応の変化によって次の行動を予測したり、或いはどの程度のダメージを与えたかがわかるのだ。

 しかし現在相手にしているスカイフィッシュの魔力は遭遇時から微量の減少はしているものの、通常の魔物なら自己回復できる程度しか減少していないのだ。


「!? 魔力収束! みんな回避して!」

「ヒュガアアアァァ!!」

「うわ、キモイ!」


 吹き飛ばされたことによって距離を開けたスカイフィッシュはその口を開く。その口は想像よりも遥かに大きく、長かった。上顎は天井どころか自身の背中を見るほどに仰け反り、3段階に収納されていた下顎は実際には腕であり、2つに分かれて空を抱くように広がる。その巨大な口内にはダンジョンコアを思わせるほどの巨大な魔石が輝いていた。


「クソ、ヤベエ上に外れかよ!」

「ヒアァァァァアアア!!」


 気の抜けるような高音の咆哮。当初それはドラゴン種固有のブレスかと思われた。確かにその大口からは魔力の漂う強風が届いた。だがこの程度の生微温い風では小型の魔物すら倒せはしない。


「なんだってんだ……?」

「魔力ブレス? でも全然威力がないわ?」

「まさかそんなはずは…… ダメ! 今すぐ何かに掴まって!」

「え? ……きゃっ! あああああぁぁぁぁあああああ!」


 ナディだけはその異変に気がついた。しかし次の瞬間。その魔力が突然実体化、周囲に絡みつき、竜巻のように絡め取られながらスカイフィッシュに飲み込まれる。ターシャはナディの警告を受け咄嗟に木に捕まったが、その低木もろとも巻き込まれてしまう。


「ヒュゴオオオオオオオオ!!」

「う、うおおおおお! 捕まれ!」

「ミストバインド!」

「くっ……! メテオアロー!」


 ガリアスが手を伸ばし、ナディがデザイアを紡ぐもターシャには届かない。ショートは少しでも被害を止めるべくスカイフィッシュのコアに向かって矢を放つが、吸引の発生地点はコアよりも手前にあり、そちらに巻き込まれてコアには届かない。


「ターシャアアァァァァ!!」


 豪風は止み、スカイフィッシュの口は閉じられる。周囲の魔力を取り込んだスカイフィッシュの身体は完全に復活し、周囲の魔力防壁ももとに戻っていた。


「シュアアアア」

「逃がすか!」


 満足したかのようにショートたちを一瞥し、再び空を泳ぎ出すスカイフィッシュ。当然そんなことを許すはずもないショートは再度メテオアローを放ち、だがその一撃は空中で別のなにかに弾かれる。


「なに!?」

「あいつの新しい能力か!?」


 ショートとガリアスは驚愕の声を上げるが、その理由は違っている。ガリアスにはその矢がなぜ弾かれたのかわからなかったが、ショートにははっきりと見えていた。

 撃墜されたのだ。音速を超えるデザイアの矢が、別の誰かが放った矢によって。


「! 1時の方向、4人!」

「何者だ!」


 ナディが気づき、ガリアスが誰何する。

 スカイフィッシュによって飲み込まれなかった林の奥から現れたのはケシニの勇者パーティ、フィローたちだった。その手に握られた大型のボウガンを見てショートは激高する。


「なぜボクの矢を撃ち落とした!」

「なに!? てっきりやつの能力かと。テメエら、どういうつもりだ!」

「あれは元々俺たちの獲物だからな。生きたまま捕獲しろって言われてんだよ」


 ニヤリと笑うフィローは左手でサムズアップし自分を指す。


「俺の名はフィロー。ケシニの勇者にしてこの世界の主人公だ。情けねえお前のせいで巻き込まれたメンバーも、俺が救ってやるよ」




◆セリア




「痛い……いやだ……もう立ちたくない……」

「泣き言をいうな。言ってもいいが行動をしながら言え。勇者は諦めない。立て。さもなくばお前の両足に杭を打ち立て、二度と横になれないようにしてやろうか?」

「ひっ……!」

「あのー、そろそろその拷問、止めてもらってもいいですかぁ?」


 ナルシックとキュリアスの一方的な決闘は、オルラーデの勇者付きライツェによって中断された。

 私も多少の怒りはあったがすっかり冷め、そんなことより私も勇者として不甲斐ないとこうなるのでは、という恐怖心が湧いてきている。


「お前か。1つ聞くがなぜこんな恥さらしが勇者を名乗って街を練り歩き、お前はそれに従っている?」

「まー政治的な取引とかがあったんじゃないですかねえ……わたしのほうは仕事ですねぇ。こう言ってはなんですけど、金払いはよくて適当に相手をしてるだけで良かったんで、楽でしたよぉ」


 ライツェは苦笑するが、私はむしろ領主ともどもケチくさい連中だという印象しかなかった。何かにつけてギルドへの納金を削ろうとしていたはずだ。しかしあの態度を見ていればわかる。ナルシックは勇者付きを本当に従者以下のペットか何かとしか見ておらず、自分に懐いていたライツェを甘やかしているだけなのだろう。


「そうか。ふむ。これ以上は時間の無駄か。こいつらは捨て置くが、問題ないな?」

「キュリアスさん。いくらなんでもダンジョンのど真ん中に動けない冒険者を置いていくのは、勇者的にちょっとまずいかと……」


 ワトラビーは一応忠告するがライツェは問題ないと笑う。


「大丈夫ですよぉ。勇者ナルシックはともかく他のメンバーは寝ているだけ。このくらいならすぐに動けるようになる。そうですよねぇ?」

「さてな。わたしはあらゆる毒物を使うが、自分が何を使っているかは知らん。だがリリスの眷属であるお前がそういうのならそうなのだろう」

「? リリスって誰ですかぁ?」


 ライツェは首を傾げ、私とワトラビーは互いに顔を見合わせる。リリスという名に聞き覚えはない。

 記憶に該当の名はないかと考え始めたころ、ライツェとワトラビーの魔導具が緊急の通信を告げる。通常の通信は所有者のみが魔導具を通して聞くことができるのだが、緊急時には周囲の全員が確認できるよう音声が響き渡るのだ。


「緊急ミッションです。『龍宮』内全パーティに通達。最優先ミッション。2層で発見され、現在1層へ移動中の新種のドラゴン、スカイフィッシュの捕獲。これはギルド本部からの正式なミッションです。繰り返します。最優先ミッション、新種のドラゴン、スカイフィッシュの捕獲。この新種は特殊な魔力防壁を持ち、ダンジョンの天井を突破しました。必ず1層で捕獲してください。繰り返します……」

「緊急ミッションですか。それも最優先とは、厄介ですね」

「天井を抜けて階層を突破!? あり得ません! ダンジョンの床と天井は物理的に繋がっていないんですよ!?」


 ワトラビーの言うことは尤もだ。ダンジョンは1層の階段が2層の木の虚に繋がっているような摩訶不思議な空間、それぞれが独立した異世界だ。それを抜けられるということは、理論上そのドラゴンは異世界と行き来できることになる。


「あり得ないことが起きたから緊急なのだろう。こいつらはお前に任せる。セリア、行くぞ」

「はい。しかしどう対応しましょう。空間を抜けられる魔力防壁など聞いたこともなく、物理的な拘束は不可能なのでは?」


 歩き出したキュリアスを追い、そう声をかけると彼女は不思議そうな顔をしてこちらを振り返る。


「お前は勇者だぞ?」

「え? ええ、まあ。はい」

「勇者に不可能はない。どうとでもなる」


 その眼はそう信じて澱まない、真っ直ぐなものだった。あり得ないものをどうにかできる。それが勇者なのだと。

 その玉虫色に揺らめく無機質な眼を見て確信した。そんな事は無理だと口答えをすれば、ナルシックのように蹴り飛ばされるのだと。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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