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勇者✕勇者✕勇者  作者: まな
第一章
11/57

1-11 実技試験 vs勇者

◆セリア




 冒険者の街レイラインズ。その冒険者ギルド本部の建物には他にはない特徴があった。


「これはまるで見世物小屋だな。檻ではないだけいくらかマシか」

「まあ、実際見世物ですからね。自身の実力を見せて国にアピールする。そうして雇ってもらうのがギルドの勇者ですから」


 冒険者ギルドドーム競技場。楕円形の建物で、舞台を見下ろせるように周囲を観客席が取り囲み、外側ほど座席が高くなっているレイラインズ最大の劇場だ。今回のような昇級試験や、大きな大会などの試合で利用されている。そして観客席にはまばらにだが新人勇者のスカウトがいる。

 今回使用されるのは中央舞台のみで、集まっているのは私たちを含めて10パーティ。総人数は50人を超えているが何人か知っている顔もあり、例のケシニの勇者たちや列車内で見かけたレオーラの勇者たち、そしてなぜかナルシックまで居た。


「みな集まったようだな。ワシは今回の実技試験総監督、ラトンカだ。今更言うまでもないが、勇者にとって大事なのは何よりも実力。最前線で戦えない者に国は任せられん。……うむ。みないい目つきだ。その目に宿る自信がハリボテでないことを信じているぞ。早速だが試験といこう」


 小柄で髭面のラトンカはドワーフであり見た目から年齢は読み取れない。だが彼の着た冒険者ギルドの制服に付いたバッジは、少なくとも支部長クラスよりもランクが上だ。その隣りにいる痩せた男もまた同ランク。勇者の試験というだけあって試験官もハイクラスだ。


「えー、ラトンカに変わりまして私、助手のウーヴェから説明をさせていただきます。今回の実技は個人による勇者級の冒険者との模擬戦。それが終わり次第パーティによるダンジョン内でのミッションとなります。制限時間は48時間。不正防止のために各パーティに1名ずつこちらで用意した勇者付きが同行します。終了時点で勇者付きを除くパーティメンバー全員がダンジョン外に居なければ減点です。また目標達成は早ければ早いほど有利になります。それとダンジョン内での他パーティへの妨害は禁止です」

「ちょっといいか」

「はい、なんでしょう」


 試験の説明中、ケシニの勇者パーティのパトルタが手を上げた。


「うちのパーティもそうだが、ここにいるパーティのうち何人かは非戦闘員。回復術師や斥候、他にも学者や武器の整備士なんてやつも一般的な勇者パーティのメンバーにいる。そいつらにも模擬戦をさせるのか?」


 確かに私たちはどちらも戦闘職だが、勇者パーティのメンバーに特に上限はない。最低限のランクさえあればパーティメンバーには誰でも採用できるし、ランクの上げ方も戦闘だけではなく研究や発明など様々だ。


「その質問に対する回答は、はい、全員が模擬戦をしていただきます」

「そんな! (わたくし)みたいなか弱い乙女に武器を持って戦えって言うんですの!?」


 集団の中から悲鳴のような声がする。流石にそれは勇者パーティメンバーとして自覚がなさすぎると思うが、しかし非戦闘員の戦闘力を測っても意味は薄いのではないか?


「ああ、言葉が足りませんでしたね。今回の試験は対人での模擬戦とパーティでのミッションが連動しています。順番に模擬戦をしてそれぞれが終わるのを待つのではなく、全員が同時に模擬戦を始めて、決着が着いたパーティから順にダンジョンに向かっていただきます」

「んー? それはつまり、手助けしていいってこと?」

「それが勇者の行動として正しいと思えるなら、とだけ回答させていただきます」


 なるほど。今回の試験の目的がわかった。ダンジョン内での遭遇戦は常にパーティが一緒とは限らない。魔物の群れに襲われた際にはそれぞれが単独で相手をしなければならないこともあるし、トラップによって分断されることも想定される。今回の模擬戦は分断された状態からパーティの立て直しを確認するものなのだろう。


「他に質問は?」

「ダンジョン内でのミッションについて何も説明されてないんだけど? それに勇者付きも見当たらないし」

「ご説明しましょう。今回の模擬戦は各人同時に始まりますが、パーティメンバー同士が近い位置から始まったのではあまり意味がありません。そこでスタート位置を決めるためにこちらのくじを引いてもらいます。そのくじにミッションの内容も記載されています。勇者付きに関してはダンジョンの入口で待機しています。補足ですがその勇者付きからもミッションを受け取ることができます」

「そうなるとつまり、パーティメンバーが多いとミッションが多くなる?」

「おい、ふざけるなよ! 勇者の資格更新にわざわざ来てやった言うだけでも腹立たしいのに、勇者未満の新人共と一緒に試験? それも人数に応じて不利になるだと? なぜ俺がパーティメンバーの面倒まで見なければならん!」


 一際大きな集団の中で声を荒らげているのはナルシックだった。ということはあの周囲にいるのは彼のパーティメンバーか。どうせまた金で雇ったのだろう。


「ミッションが多くなることと、それが試験の結果にどれほど影響を齎すはお答えできませんが、普通の感覚ならダンジョンでの成果は多いほうが良いと考えるでしょうね」

「ああ、そういう……」

「くーっ、あいつらいっぱいくじ引けて羨ましいッス。マルカもガチャいっぱい引きたいッス!」


 ウーヴェは最初に制限時間を48時間と言った。そして人数に応じて増えるミッションと今の回答。この試験は彼の口ぶりからするとすべてのミッションの達成は絶対ではないのだろう。それなら人数が多いほど不利というわけではないし、むしろ少数のほうがクリアできるミッションの選択肢が狭まる。


「他に質問は? なければ周囲にいるギルド職員の持つ箱からくじを引いてください」


 説明は終わり、それぞれのパーティがアリーナの外に向かって移動を始める。


「いよいよですね。行きましょう」

「うむ」

「何回も説明しましたが、今回の試験の相手は人間、模擬戦です。あのクラウドドレイクのときのように全力で戦ってはいけませんからね」

「うむ」

「聖剣はダメです。雷撃も高威力なものはダメです。周囲の他のパーティに被害が出たら失格ですからね。殺さないように、出来るだけ慎重に無力化してください」

「そう何度も口うるさく言うな。手加減はできんが、相手を無抵抗にすればいいのだろう?」


 昨日から何度も忠告をしたので聞き飽きているのだろうが、しかしキュリアスの攻撃力は高すぎるのだ。今回は模擬戦であり、全力を出されると現役勇者の相手はともかく周囲の非戦闘員を巻き込みかねない。


「手加減できないってはっきり言わないでください。ですが、まあそうです。殺さないように、死なないように、無力化、無抵抗にする。それでお願いします」

「わたしはむしろお前のほうが心配だがな。勇者になってから、まともに身体を動かしたのか?」

「基礎訓練ならいつもしています。キュリアスさんも見ていたでしょう?」

「あれでは意味がないのだが、まあいいか」

「くじはこちらです。パーティの人数分引いてください」


 意味がないことはないだろう。日頃のルーティーンとしての身体づくりは冒険者の基本だ。日頃ダラダラと本を読んで過ごしているキュリアスに言われたくはない。

 そんな事を考えながら歩みを進めれば、目の前にはギルドの受付嬢が持つ木箱。その中には筒状に丸められた用紙がいくつもある。その無造作に突っ込まれた紙束には見覚えがあった。


「……未達成クエスト、ですか」

「はい。期限切れ間近かつ達成困難、或いは危険度と報酬の釣り合っていない依頼書の束です。その依頼書の下に書かれている番号がスタート位置になっています。……がんばってください」


 これは、思ったよりも難易度が高くなりそうだ。







 未達成クエストの依頼書に指定された番号の開始位置に向かうと、そこには見知った顔があった。


「あれ、セリアさんじゃない。今回の試験で勇者になるの?」

「レテリエさんが相手なんですね。よろしくお願いします」

「そんな畏まらなくていいよ。試験だから緊張するだろうけど、あくまで実力を見るだけだから。ソロでの参加?」

「いえ、あの時一緒に居たキュリアスとのデュオです」

「ああ。手づかみの娘ね。記憶喪失らしいけど、大丈夫なの?」

「……そうですね。もう大丈夫です」


 イルリの勇者にしてエミニアの勇者付きレテリエ。遊牧民族イルリの王族である彼女の装備は、勇者付きではあるもののイルリの勇者らしく赤いドレスをベースにした軽鎧だ。腰にしたレイピアは華麗な装飾が施されているが、あれは儀礼剣ではなく魔導具として機能する。そのため彼女は接近戦だけでなく、一般的な魔術師の間合いまで対応できる。

 対して私の装備は着慣れたギルドの戦闘制服を一般向けに改修したもの。防御力を犠牲に運動性能を重視した装備だ。武器は短剣が3本と使い切りの魔導具が幾つか。単剣に関しては数打ちの特価品を研ぎ直しただけなので打ち合いには向かない。

 しかし決して侮っているわけではない。これがギルドの勇者付きの標準装備であり、私が一番慣れている戦闘スタイルなのだ。タネの割れている近接格闘術が現役勇者にどれほど通用するかは不明だが、あとは全力を尽くすだけ。


「そろそろ始まりそうね。あなたの勇者へ想い、確かめさせてもらうわ」

「望むところです」


 一瞬の静寂。アリーナ全体に音響魔術が広がっていくのがわかる。


『みな位置についたな。では、はじめええぇぇい!』


 魔術によって増幅されたラトンカの声とともに、レテリエに向かって距離を詰める。その距離は約10メートル。通常なら間合いまで1秒と少し、相手も動けばそれ以下。その程度の時間を想定して動いた。はずだった。


「え、はやっ……!」


 レテリエの驚きの声が聞こえるが、驚いているのは私も一緒だった。すでにレテリエは私の手の届く距離に居て、しかしレテリエはまだ動き出せておらず、やけに緩やかに感じる。隙だらけだ。どこを攻撃しても一撃で倒せると確信できるほどに無防備だ。逆手に構えた短剣に込めた魔力はいつも以上に輝いて見える。

 一閃。レテイエの武器を持つ右腕を狙った左からの切り上げは、しかし咄嗟に動いた彼女のレイピアによって弾かれる。だがこちらの攻めはそこで終わらず、そのまま突き刺すように振り下ろし、彼女の太ももを突き破った。


「……え?」

「っ! 攻撃したやつが驚いてんじゃないわよ!」


 衝撃。それが私の刺した右脚から放たれた膝蹴りだと気づいたのは、吹き飛ばされたあとのことだ。


「くーっ、油断したわ! ただの短剣だと思っていたけれど、とんでもない武器ね」

「!? まさか、そんな……!」


 吹き飛ばされた衝撃で短剣から手を離していたからこそ、その結果に気がついた。レテリエの右太もも、私が短剣を振り下ろした場所にあったのは短剣ではなく、短剣よりも脆く鋭い極彩色のガラスの破片。キュリアスの使っていた聖剣と同じものが突き刺さっていた。彼女の足元には決して少なくない血溜まりができている。


「聖剣、ヴォルグラス……? なぜ私が……?」

「ふむ。やはりこうなったか」


 声の方に振り返るとそこにはキュリアスがいた。


「だから問うたであろう? 身体を動かしたのかと。だが結果は悪くない。お前にもあの剣が使えるとわかったのだからな。おい、試験官。まだ続けるのか?」


 レテリエは自身の怪我と折れた武器、それから私たちを順に見てから苦しそうに息を吐く。


「……いいえ、合格よ」

「よし、では次に向かおう」

「……ありがとうございました」

「ちょっと、待ちなさい!」


 頭を下げ、舞台から折りようとしたところでレテリエから声をかけられる。


「何でしょうか」

「これ! あなたの武器! 元に戻しなさいよ! 痛すぎるんだけど!?」


 太ももを貫通するように刺さった聖剣の破片を指差し、今にも泣きそうになっていた。







「……なぜ私にも聖剣が使えるようになっていたのでしょうか」

「そもそも使えるようになっていたのだ。お前が使い方を知らなかったに過ぎん」


 ドーム競技場を後にしダンジョンへ向かう道中、私の頭の中は先程の戦闘のことでいっぱいだった。突然超人的な動きをした身体、そしてただの短剣から変化した聖剣。

 結論から言うと聖剣をもとに戻すことは出来なかった。レテリエに刺さった巨大なガラス片は私ではどうすることもできず、キュリアスが無理やり引き抜いて治療するという荒業で解決した。

 彼女はあまりの痛みで絶叫し、私たちは周囲の冒険者達の意識を数瞬奪ってしまった。そのせいで何人かの試験に迷惑をかけてしまったが、不可抗力だろう。

 取り除かれた聖剣はレテリエの身体を離れた瞬間砕け散り、その破片も魔力になって消えていった。


「ガラスは魔力を通さない。これについては錬金術ギルドの方では常識だったようで、ポーションや魔法薬、貴重な素材の殆どがガラス瓶で保存されているのはこのためでした。ですがその性質ゆえガラスの後処理は大変なようで、魔力による消滅はほとんど不可能だとか。それなのになぜ私の聖剣は魔力になって消えてしまったんでしょう」

「勇者のデザイアがそうさせたのではないか? わたしの使うヴォルグラスは体内で生成したものだ。わたし自身が分解吸収することはできても、一度作り出してしまえば基本的にそのままだ。前にお前に見せた破片もそのままだったろう?」


 以前彼女が作り出した破片は未だに部屋の机においてある。その辺に捨てるのは危険だし、宿に処理を頼むのは余計な手間を取らせることになるためだ。


「……そういえば、そうでしたね」

「お前の作り出した聖剣。話を聞けばあのなまくらに魔力を込め振るっていたら変化していたのだろう? わたしはお前ら人間の使うデザイアについてよく知らんが、結果的にデザイアと同じことが起きていたのでないか?」

「デザイアについてよく知らないキュリアスさんが、なぜ他の生物のデザイアを使えるんですか」

「生物のデザイアは種族に付随するものだ。前に聞いた肉体強化系デザイアとやらの派生だと思えばいい。最初からその機能があるから当然使えるが、それを他人に説明するのは不可能に近いし想像もできん。お前はどうやって心臓を動かしているのか説明できるのか?」


 確かにデザイア使いは自身のデザイアを他人に説明するのが苦手だ。ある日突然それができるようになっていたとしか説明できないらしい。逆に詳しく説明できて、解析されたデザイアは魔術として普及しているものもある。そういえば昔使われていた魔法も実はデザイアであり、それを解体、再構築したものが魔術なのだとどこかで読んだ気もする。


「ところで、ダンジョンとやらにはまだ着かないのか?」

「いえ、もうすぐそこです。しかし準備をしませんと」

「?」

「今回のミッション。私とキュリアスさんのクエストはどちらも素材回収となっています。私の方はドラゴンの心臓とその他臓器類。キュリアスさんの方は世界樹の枝か実か苗木。どちらもほとんど達成不可能でしょうが、もし万が一手に入ってしまったときのために保存用の魔導具が必要です。試験全体で48時間という曖昧な制限しかないのは、そのための準備も含めて試験だからということでしょう。それに食料の準備も必要ですね」

「なるほどな。だが食料は問題あるまい?」

「……なぜですか?」


 嫌な予感がしてキュリアスの方を見ると、いつかの風呂のときのように指先に林檎を作り出していた。


「これを喰らえばいい。果実だけではないぞ? 魚やら鳥やら色々と口にしたからな。素材としてなら同じものを再現できる。まさか調理くらいできるのだろう?」

「…………それは、なんかちょっと、見た目がアレなので、却下です」




◆おまけ キュリアスの試験




 彼にとって不運だったのは、相手がキュリアスだったということだ。




「255……255…… ここか」


 セリアに渡された紙の裏に書かれた数字。キュリアスがそれと同じものが刻まれた場所向かうと、すでに屈強な大男がいた。くすんだ金の髪はボサボサで伸び放題、口ひげも同様でライオンの鬣のようにも見える。防具は魔物の皮をつなぎ合わせた鎧だが、歪んだパッチワークのようにつぎはぎで整っているとは言い難い。両手の手甲からもいくつか魔物の爪が伸び、それが彼の武器なのだろう。


「どちらかというと山賊だな」

「口の利き方に気をつけるんだな。俺は盗賊勇者ダンタカ。くだらん山賊などと一緒にするな」

「ああ、うむ。そうか」


 ダンタカは試験開始前からすでに構えを取り戦闘態勢に入っている。対するキュリアスはつまらなそうに一瞥するだけだ。

 ぼんやりと合図を待つ中、キュリアスはふと質問を投げかける。


「お前は勇者として何を成したのだ?」

「ぬうぅぅうう! 人の気にしていることを! 精神攻撃とは卑怯な!」

「……そうか」


 その答えを聞いたキュリアスはダンタカに完全に興味を失い、セリアを探すことにした。キュリアスはダンジョンの場所を知らないので、セリアが居なければ次に進めないと気がついたからだ。そもそも2人同時に向かえという試験なのだが。


「余所見とは余裕だな。いや、お前の身なりでわかるぞ。お前は非戦闘員。なにか特殊なデザイアを持っただけの貴族の女だ。開始と同時に勇者へと助けを求めるつもりだろうが、そうはさせん! 俺のデザイアの前から逃げることなど不可能なのだ……!」

「…………」

「ええい! 余所見をするなと言っているだろう!」


 試験会場の中央舞台は広く平面だが、セリアの位置はすぐに見つけることができた。相手はいつぞやの女騎士。たしかレテリエと言ったか。


『みな位置についたな。では、はじめええぇぇい!』


 舞台の外から魔力で増幅された大声が聞こえ、それと同時に堰を切ったように全員が動き出す。そのせいでキュリアスの視界からセリアが消えるが、あの動き、やはり制御しきれていないようだ。


「まったく。訓練と実戦は違う。勇者がどちらで本領を発揮できるか、少し考えればわかるだろうに」

「ぬおおおぉぉおおおお!! 喰らえ渾身の一撃! ダンタカトルネードアターック!」


 野太い声とともにダンタカがキュリアスへ向かって突撃。水平方向に高速で錐揉み回転する彼にとっての大技だが、キュリアスは気に留めずセリアの方へ歩き出す。


「無視を! するなあ!」

「ん? ああ、無力化すればいいのだったな」


 キュリアスはセリアの言葉を思い出し、ダンタカに向かって人差し指を向け、その瞬間デザイアによる浮力を失ったダンタカが床に崩れ落ちた。


「な!? あ? なひ、が…… ああぁぁあ? あっ、だ、があああああああああ!?」

「ふむ。少し多すぎたか? まあ……死にはせんだろう」


 きっと、たぶん。

 墜落したダンタカは全身に激しい痛みと痒み、呼吸困難と悪寒、動悸、目眩に襲われていた。その突然の出来事に周囲で戦闘をしていた冒険者や試験官も思わず意識を奪われる。一体何が起きたのかと。

 キュリアスはあらゆる生物のデザイアを持つ究極生命体。彼女の扱える生物群の中には当然有毒動植物もいるし、発射機能のデザイアを持った生物もいる。

 彼女は大雑把にこのくらいならきっと死なないだろうと幾つかの毒を混ぜて、指先から小さな、髪の毛先程の極めて小さな針を発射した。その結果がこれだ。




 彼にとって幸運だったのは、キュリアスの精製した毒はその相互作用によって辛うじて死なない程度の威力になったことだ。



ここまでお読みいただきありがとうございます。


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