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二つの夢

作者: 船五郎

統合失調症の青年の見た二つの夢、二つのパラレルワールド、最終的に主人公が選ぶのはどっちか⁉


1

卓也は統合失調症だった。高校時代に発症した。

卓也は授業中、登下校時、勉強中と、耳に入ってくる微かな音が気になった。どんな些細な音でも捕まえた。頭の中で雑音が木霊し、気が散った。落ち着きがなくなり、神経が過敏になった。やがて布団の中に潜り込み、耳を塞ぐようになった。

学校にも行かなくなった為、心配した両親が卓也を精神科の病院に連れて行った。細かい問診を受けた後、下った診断名が統合失調症だった。

高校は暫く休学し、一年留学することになった。

なんとか高校は卒業したが、卒業後は精神科デイケアに通所することになった。

初めてデイケアに来た時、同じような症状の男女がテーブルに座り、俯き、顔を下にむけている。そんな集団の中に溶け込めるのだろうか、と卓也は内心不安になった。

何人かは固まって談話をしているが、数人ほどはソファーで寝そべっている。卓也も同じように通所当初から誰とも話さずただ座っているだけだった。周りの話し声を聞くと幻聴が鳴り響いた。

2

「大橋さん、ちょっと話があるんだけど」

デイケアに行きだして一年ほどたったある日、卓也はソーシャルワーカーの先生に呼び止められた。

面談室に連れていかれた。

ソーシャルワーカーは、40代ぐらいの女性の精神保健福祉士だった。

「ねえ、大橋さん、もしよかったら作業所に行ってみない?体調もだんだん落ち着いてきているし、今のままだったらいけそうな気がするの。作業所に行けば体調リズムも整うし、給料だって貰えて楽しみが増えるわ!」

卓也は下を向いた。

「今すぐには返事出来ません}

「良い話だと思うんだけど…」

「明日には返事します」

「良い返事まってるわ」


自宅に戻った卓也は不安だった。

このままデイケアに通い続けるか、それとも作業所に挑戦するか。

夕食を終え、風呂に入った後、床に就いた。床に就いた後も暫く眠れなかった。迷っているのだ、二つの選択肢の事で。

ようやく眠りかけようとすると、キーンと耳鳴りが鳴った。金縛りになった。すると部屋の入り口のドアが開いた。よく目を凝らすと、5年前に亡くなった祖父が顔を覗かせていた。

「卓也…  卓也…」

祖父の亡霊は言った。

「今からお前に二つの夢を見せてやる。どちらもおまえの進路に関わる事だ!」

急に周りが真っ白になった。

卓也は気が付くと、布団の中にいた。朝だった。卓也は起き上がった。

なんだか倦怠感に包まれていた。

デイケアの送迎バスに乗り込み、デイケアのある病院に向かった。

卓也はデイサービスに着くなり、早速ソーシャルワーカーを呼び止めた。

「あの、話があるんですけど」

「昨日の件ね」

2人は面談室に入り、向き合った。

「あの、作業所に行く件はやっぱりお断りしようとおもいます」

「仕方ないわね、いい話だと思ったんだけどなぁ」

ソーシャルワーカーは卓也に目を合わせた。

「残念ね!」


それからというもの卓也は誰とも話さず、活動にも参加しなくなった。それはおろか、デイケアを度々休むようになった。それが重なり、遂には一日もデイケアに来なくなった。

卓也は一日中布団に潜り込み、耳を塞いでいた。次第に外出もしなくなり、自室で音楽を大音量でかけた。気を紛らわす為、よく間食をし、卓也のお腹は膨張する一方だった。

そういったのは卓也の生活習慣にも及び、風呂にも入らなくなり、髪も洗わなくなった。朝起きても顔を洗わず、歯も磨かず、髭も剃らなくなった。そのため歯は黄色くなり、無精ひげが生え、散髪にも行かないため、髪の毛はボサボサだった。

卓也は食事の時以外起きてこなくなった。


とうとう見かねた両親が卓也を入院させようと話し合い、それで意見がまとまった。

母親の運転する車に乗り込み、卓也はデイサービスのある病院に向かった。

院長と面談し、母親は言った。「もうこの子は私たちの手に負えません、どうかこの病院で面倒を見て頂けないでしょうか?」

この瞬間、突然周りが真っ白になった。気が付くと卓也は夜の布団の中にいた。

祖父の亡霊が言った。「卓也、おまえにもう一つの夢を見せてやる。」再び周りが真っ白になった。

4

卓也は気が付くと、布団の中にいた。朝だった。

なんだか高揚感に包まれていた。

デイケアの送迎者に乗り込み、デイケアのある病院に向かった。

デイサービスに着くと卓也はソーシャルワーカーの先生を呼び止め、面談室に入った。

「作業所に行く件ですが、承諾します!」

「良かったー、それが一番いいと思う。近いうちに作業所を紹介するわね!」

これで話がまとまり、作業所に行く手続きを進めていった。


紹介された作業所は、14,5人の男女がのんびりと手作業している、一見、のどかな感じのする作業所だった。仕事は野菜の袋詰めが殆どだった。慣れるには一週間程かかった。

やがて人間関係や作業にも愛着が沸き、毎日が楽しくなった。なんといっても利用者とのコミュニケーションが楽しかった。利用者と連絡先を交換し、よく何人かで集まってカラオケやボーリングに行くようになった。作業も面白くて、良くさばけ、スタッフの評価も高かった。


作業所に行きだして一年程立ったある日、作業所の所長から話があり、就職をしてみないか?というものだった。「どうかな?大橋さん最近体調良さそうだし、今のままだったら出来るとおもうんだけど…」

卓也はその話に乗った。今の自分なら出来る。確信を持った。

彼はその次の日から作業所の帰り際にハローワークに足を運び、障碍者枠で求人を探した。また彼は体力を付ける為、夕食後に散歩をし、一時間以上歩いた。またスポーツセンターに通い、筋トレをした。


半年ほどたった後、障碍者枠で好条件の求人が見つかった。

スーパーの総菜屋のパート雇用で、勤務時間は4時間ほど、時給は最低賃金で能力により昇給する、というものだった。場所も卓也の家からバスで10分くらいだった。

卓也は面接の練習を始め、その効果が実ってか、実際面接の時、少しも緊張せず、相手の目を見てハキハキ答えられた。その結果採用となり、2週間研修で行くこととなった。

研修期間も終え、万事本採となった彼は、凄まじく仕事をした。

総菜屋の従業員は主婦と思しきおばちゃんばかりだったが、卓也の明るい人柄が気に入られ、人間関係的にも旨くいった。


卓也が総菜屋で働きだして間もなくして、由香、という名の女の子が入ってきた。定時制高校に通っているという。可愛い子だった。

卓也は最初はその子に挨拶するだけだったが、次第に話しかけるようになった。

従業員との会話を横聞きして、その子の誕生日を知った。卓也は誕生日にバレッタを買い、ラッピングしてもらい、箱の中に携帯番号とLINE IDを偲ばせていた。

卓也は仕事の帰り際に由香に話しかけ、店の裏に誘いだし、バレッタを渡した。

「今日、誕生日だろ?これ、僕の気持ち」

「どうして私にくれるの?」

「その、由香ちゃんのこと、好きだから…」

2人は赤くなった。

その日の夜、由香からありがとうのスタンプが送られてきた。

翌日、職場に来てみると、由香はバレッタを髪の毛に付けていた。

その日から二人の距離感は急速に縮まった。

卓也は頻繁に由香をデートに誘うようになった。

喫茶店に行ったりカラオケに行ったり映画を観たりした。

「私ね、学校を卒業したら介護の仕事に就こうとおもってるんだ!」

「由香ちゃんならきっとできるよ!」

そんな会話を交わしていた。


由香が学校を卒業すると、もう職場には来なくなったが、それでも連絡は取り合っていた。

その年のクリスマス・イヴの日、卓也は秘めた思いを伝える為、由香とファミリーレストランで会う約束をした。

由香は少し遅れて来た。「ごめん、遅くなって」

卓也は緊張した。食事を済ませると、秘めた思いを由香にぶちまけることにした。鼓動が熱くなった。

「由香ちゃん、今日よびだしたのはね… … … そ、その、もしよかったらでいいんだけど… ぼ、僕と… … 結婚、して、もらえますか!」それを言った瞬間、周りが真っ白になった。

気が付くと、卓也は布団の中にいた。祖父の顔がそこにあった。

「卓也、これがお前に見せた二つの夢だ。どっちをとるか、お前の明日の返事次第で決まる。それはおまえさんの自由だ。まあもっとも答えは決まっているだろうがな、じゃあワシの役割はここまでだ、じゃあな!」













この作品は私の実体験が大元にになっています。精神科にかかっていることや、また病名も私の体験によるものです。

なんとなく、そういったのに彩を加えてやろうと思ってこの作品を書きました。

感想など聞かせてもらえると幸いです。

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