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第82話

「彼氏と翼狼と偽装結婚――」


 呟いた美緒に、優牙が眉を寄せた。

「なんだよ煩い。自分の部屋に……いや、もういい。好きなだけ居ろ」

 しつこく部屋に来ては居座る美緒についに心が折れた優牙は、溜息を吐いて上着を脱ぎ、ベッドに寝転ぶ。

 騙し討ちのような見合いから自宅に帰った美緒は、自室に戻ることなく、そのまま優牙の部屋へと入っていた。

「うぅ、どうしよう。見合い相手の狼なのにサイさんが、偽装結婚を持ちかけてきた」

 見合いで佐井猛から提案された内容を、美緒は優牙に説明する。優牙が鼻を鳴らした。

「好きにしろよ」

「好きにって……」

 美緒が這うようにベッドに上がる。

「おいこら、さすがに一緒に寝る気はねえぞ」

「うん」

 返事をしつつも横に寝転んだ美緒に、優牙は舌打ちをした。

「優牙ならどうする?」

「それを聞いて姉ちゃんはどうする?」

「……今後の参考にする」

「馬鹿が」

 優牙がベッドの端に寄る。美緒は溜息を吐いて額に手を当てた。

「偽装結婚ってどうなんだろう?」

 肘枕をして、優牙が片眉を上げる。

「もし変態が姉ちゃんの為に偽装結婚したらどう思う?」

「…………」

 少し考えて、美緒は顔を顰めて首を振った。

「……嫌。でも他に一緒に居る方法が無かったら?」

 狼人間と人間に限らず、異種族間の婚姻はあまり歓迎されない。引き離されるくらいならいっそ――。

「それなら周囲を騙してもいいってか?」

「…………」

「まあ、それが悪いとも言えねーけどな」

「……どっちなの?」

「分かんねーよ、俺に訊くな」

 優牙が目を閉じる。つられるように美緒も目を閉じ、そしてふと思う。

「ねえ、佐井さんの恋人って納得してるのかな?」

「さあな。まだいろいろ知らない可能性だってあるだろ?」

「……そっか」

 静かになった室内に、時計の針の音が淡々と響く。決断までに残された時間がどんどん減っていくような錯覚がして、美緒は両手で耳を塞いだ。

 優牙が大きな溜息を吐き、ズボンのポケットに手を入れる。

「ほれ」

 額にこつんと当たる感触に、美緒は目を開けた。優牙が美緒の目の前で、小さく折り畳まれた紙を振る。

「何?」

「佐井猛の恋人の氏名、住所、その他」

 サラッと言われて、美緒は驚いた。

「どうしてそんなの持ってるの?」

「調べたから。といっても、母さんに妨害されたから簡単な情報しかないけどな。気になるなら見に行ってみろよ」

「…………」

 美緒が紙を受け取って広げる。

「大通りまで出てタクシーでも拾え。でも気をつけろよ。あまり近付いて騒ぎを起こすな」

「…………」

 無言で立ち上がった美緒は、優牙の部屋から出て階段を駆け下りた。


「あら、美緒。どこか行くの?」


 足音に気付いてリビングから顔を出した冴江に、美緒は早口に言う。

「ちょっと出かけてくる」

 そして外へと出て大通りまで行き、優牙の言う通りにタクシーを拾って行き先を告げた。

 タクシーは滑らかに走り出し、美緒は車窓からの風景をじっと眺める。

 猛の恋人を見たからといって、何かが変わるわけでもないのかもしれないが、それでも美緒は猛の恋人に会ってみたい、見てみたいと強く思った。それは単純に、自分達以外の狼人間と人間という恋人同士を見てみたいという思いだったのかもしれない。


 数十分後、美緒は目的の場所に降り立った。


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