表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/130

第71話

「えーと……」


 夜、美緒は蓮のマンションで、生徒について覚えたことをノートに纏めていた。

 あれから週に数回は教育実習という名目で、夜呼び出されている。

美緒達は何とか頑張って、十組の生徒達に慣れてきていた。

「ハルちゃんは二口女だから早弁に注意。小人の木本君は小さいから踏まないように。それからえーと、一反木綿は図工と習字の時間は汚れないように、人魚と半魚人は干からびないよう注意……」

 美緒がペンを置いてテーブルの上に突っ伏す。

「うー! まず生徒の特徴を覚えるのが大変だね」

 愚痴を零す美緒の頭を蓮が撫でた。

「小学校から高校までだからね。それに幼稚園も今度手伝いに来いって言ってたな」

 美緒が「え!?」と顔を上げる。

「幼稚園まで?」

「うん。人手不足だって」

「…………」

 大きな溜息を吐いて美緒は項垂れた。

「そりゃ先生達も病気になるよ。はぁ、疲れた」

 そして床に寝転ぶ。

「先生になるのは大変だね。早まったかな?」

 蓮が美緒の顔を覗き込んだ。

「じゃあ、やめるのかい?」

「う。それはそれで勿体ない気もする」

 美緒が手を伸ばし、蓮が美緒を抱き上げる。

「でも、さすがに僕も疲れたよ」

 美緒が目を見開いた。

「あれ? 弱気発言なんて珍しい。じゃあ元気にしてあげる!」

 そう言った直後、美緒の口が尖り、毛が生え、耳と長い尻尾が現れる。

「美緒!」

「うげ! 苦しいよ」

 狼に変身した美緒に、蓮はキスをする。


「…………」


 美緒はふと、先日のドッヂボールの時のことを思い出し、蓮の身体をベタベタ触った。

「何?」

 首を傾げる蓮に、美緒が訊く。

「ねえ、鍛えてる?」

「まあ、少しは」

「ふーん」

 肉球で胸や腕や足を触る美緒に、蓮が眉を寄せる。

「あまり触らないでほしい」

「何で?」

「……美緒、僕の理性を試しているのかい?」

 そっと押し倒され、美緒の胸は高鳴った。

「え、あ、蓮君……ちょっと……」

 口では拒否しつつも、心の中ではそろそろそういう関係になってもいいと思っていた。

 美緒は人型に戻り、蓮の首に腕を絡める。

「蓮君……」

「…………」

 蓮がスッと美緒の身体から離れた。

「美緒、ケーキでも食べる?」

 立ち上がり、キッチンへと行く蓮。そんな蓮の背中を、美緒は呆然と見つめた。


「……何で?」


 美緒が呟く。

「え? どうしたんだい?」

 笑顔で振り向く蓮。わざととぼけているのは美緒にさえ分かった。

「まだ……駄目なの?」

 もう何年も付き合っているのに、無理なのか。

「美緒……」

「どっちも私なのに……」

 美緒の目からポロポロと涙が零れる。

「美緒……」


「据え膳食わぬは男の恥ー!!」


 馬鹿、最低、ド変態――。

 美緒は叫びながらもう一度狼に変身して、マンションを飛び出した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ