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第68話

 二年十組の教室に向かいながら、三好は四人に告げた。

「今日は十組の授業がどんな感じか見学をしてもらう。もし何か起こったとしても、むやみに手を出すなよ」

「何が起こると言うのでしゅか、ヨシヨシ先生」

「まあ、いろいろな。ここだ」

 三好が立ち止まり、教室のドアに手を掛ける。美緒達は少し緊張した面持ちで、ドアが開けられるのを見ていた。すると――。


「ぎゃあぁああー!」


 ドアが開いた瞬間、響く悲鳴。目の前で繰り広げられる光景に、美緒達は目を見開いた。

 鋭いかぎ爪と牙、頭から背中に掛けて生えたトゲ。赤い体毛が生えた体長一メートルくらいの人外が、異常に大きな頭とキリリとした目の男の子の肩に、鋭い舌を刺している。

「い、いろいろ起きた! いきなり起きた!」

 パニック寸前の美緒の頭を軽く叩き、三好が怒鳴る。

「こらさとる! お友達の血を吸うな」

 聡と呼ばれた舌を肩に刺しているほうの人外が振り向いた。目は丸く赤い。

 聡はストローのような舌をお友達の肩から抜くと、頬を膨らませた。

「だって先生、誠二せいじが僕の消しゴム盗ったから……」

「盗ってねーよ! 借りただけだろ、ケチ」

 誠二と呼ばれた人外が、肩を抑えて聡を蹴る。

「嘘! 盗ったね。泥棒だー! おまわりさーん、ここに泥棒がいますよー!」

「うるせえ! 馬鹿!」

「馬鹿って言うほうが馬鹿なんだよ!」

「なんだとこら!」

 三好はパンパンと手を叩いて、揉めている子供達に言った。

「仲直りしろ!」

「…………」

「…………」

「んー? 先生の言うことが分からないか? 仲直りしろ」

 子供達が渋々握手をする。

「勝手に消しゴム借りて悪かったよ」

「あー、俺もやりすぎた」

 他の生徒達から拍手が起こった。

 三好が満足気に頷き、それを見ながら優牙が呟く。

「想像以上にハードそうじゃねえか……」

「うぅ……。血を吸うお子様はちょっと苦手でしゅ」

 いきなりとんでもないものを見てしまった。美緒は隣に立つ蓮の袖を掴んだ。

 三好が黒板の前に立ち、生徒達の顔を見回す。

「はい、席に着け。いいか、みんな。先生とのお約束だ。『お友達を噛まない・食べない・血を吸わない』。さあ言え」


「噛まない・食べない・血を吸わない」


 生徒達が声を揃えて三好の後に続けて言った。

「必要以上に脅かしたり呪ったり幻覚を見せたりするのも駄目だぞ」


「はーい」


 元気良く返事する生徒達をじっと見ながら、蓮が感心したように眉を上げた。

「凄い教えだね。美緒、さっき揉めていた子は何ていう種族かな?」

「へ? さあ?」

 首を傾げた美緒の代わりに愛が答える。

「『チュパカブラ』と『ぬらりひょん』。どっちも有名なんだから、それくらい知ってて当たり前よ」

「へえ、あれがそうなのか」

 蓮が顎に手を当てる。

「でもあの子、生徒として受け入れるのは少々危険じゃないのかな?」

 全身毛むくじゃらの者や人とは形からして違う者、それらを通り越して蓮の視線がチュパカブラで止まった。美緒が唸る。

「うーん、まあそうかも――」


「それは違うぞ」


 いつの間にかまた四人の前に立った三好が、厳しい視線を蓮に向けた。

「必要なのはちゃんとした教育だ。本能を理性で抑える術や、人間との共存の大切さを教えるのも教師の仕事だからな。お前達は後ろで見学していろ」

「……はい」

 蓮が頷き、四人は後ろへと行く。その途中、一つ目小僧の翔哉が嬉しそうに手を振ってきたのに美緒と蓮は小さく手を振り返す。

 三好が出席簿を開いた。

「では出席をとるぞ。綾部、加藤、木村、近藤……」

 生徒達が返事をする。

 このクラスの生徒、二十五人の出席を確認し、三好は爽やかに笑った。

「みんな気付いていると思うが、今日は教育実習生が来ている。休み時間にはたくさん遊んでもらえ」

 生徒達が振り向き、歓声をあげる。

「え? 期待されてる?」

 キラキラと輝く瞳で見つめられ、美緒が首を傾げて蓮を見上げた。

「そのようだね」

 蓮が口角を上げ、優牙が拳を握り締める。

「これは気合入れないと大怪我するな。姉ちゃんは特に気を付けろ。いくら脅威の回復力があっても、脳みそ吸われたらおしまいだぞ」

「うう、怖いこと言わないでよ……」

 美緒が震える。愛が頷いた。

「本当に気を付けてね、美緒。何かあっても絶対に私は巻き込まないで」

「愛ちゃん、冷たい!」


「さあ、みんな、こっち向いて算数の教科書を出せ!」


 三好の言葉に生徒達は一斉に前を向き、教科書を出す。

 授業が始まった。


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