第66話 (人生の選択編 終了)
回転寿司店で皿を重ねながら、優牙がブツブツと文句を言う。
「普通、デートに彼女の弟呼ぶか?」
「そう言いながら優牙君は来たし、しっかり食べてるじゃないか」
「奢りだって言うから来ただけだ。姉ちゃん普通の寿司も食え」
変わり種の寿司やデザート類ばかり食べる美緒に優牙は眉を寄せた。
「だって面白いのがいっぱいあるんでしゅよ。回転寿司なんて……っていうか外食なんて久し振りだね」
「あー、そうだな。何で急に寿司食おうと思ったんだ?」
「愛ちゃんパパに会ったから」
優牙の動きがピタリと止まる。
「おじさんに? こんな昼間に外に出たのか? いくら卒業式だからって……無謀すぎるだろう」
渋い顔をする優牙に美緒がうんうんと頷いた。
「本当にねえ。蓮君ビックリした?」
蓮が苦笑する。
「そうだね。手しか見てないけど、河内さんとあまりに似てないから驚いた」
「あー、でも愛ちゃんの頭も髪の毛掻き分けると小さいのがあるんだよ。それに足首から先はよく似て――うぎゃ!」
優牙が手裏剣のように投げた皿が美緒の鼻を直撃した。
「馬鹿。外でペラペラ喋りすぎだ」
鼻を押さえる涙ぐむ美緒の頭をポンポンと慰めるように叩き、蓮が優牙に笑う。
「将来のことを考えると、僕も色々勉強しなくちゃいけないな」
優牙は鼻を鳴らして視線を逸らし、回転する寿司を一皿取った。
「じゃあ、暫く会えなくなるけど、電話するからね」
「……うん」
玄関前、美緒が唇を尖らせて頷く。
蓮は苦笑して美緒の頭を撫でた。
大学が始まるまでの間は実家で過ごすと、蓮は先程急に美緒に告げた。
遊びに行く計画を立てていた美緒は当然怒り、そんな美緒をなんとか宥めて蓮はこれから駅へと向かう。
「お土産たくさん買って戻ってくるからね」
「……うぅ。他の犬と浮気したらだめだよ」
「当たり前だろ」
「メス犬は見るのも禁止だよ」
「僕を信用して。じゃあね」
蓮が美緒の頬を両手で包みこむ。
触れ合う唇――。
「……え?」
呆然とする美緒に蓮は笑って去って行った。
「…………」
美緒が自分の唇にそっと指で触れる。
軽くだけど、確かに感じた温もり。
暫く玄関前に立ち続け、美緒はギクシャクと家の中に戻った。
「野郎は帰ったか?」
リビングのソファーに座っていた優牙が振り向き美緒に訊く。
「……キスされた」
「……あ?」
「キス……変身してないのに」
「…………」
片眉を上げて優牙は笑った。
「そりゃするだろ。恋人同士なら」
「……うん」
美緒がゆっくり優牙に近付き横に座る。
「うへへへへ!」
「気持ち悪い笑い方をするな」
嬉しさを隠しきれない美緒の頬を、優牙はギュッと引っ張った。