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第64話

 優牙がまだまだパワーの有り余る子供達を風呂に入れ、グッタリとしながら先にあがった子供達の待つ和室に戻ると……。


「ぎゃあー」

「あはははは!」


「枕投げするな! 修学旅行か!」

 美緒と子供達が枕を投げて遊んでいた。

「あー。すげえなお姉ちゃん、強えぇよ」

「うん! 弟子にして」

 子供達の頭を優牙が小突く。

「枕投げで師匠も弟子もないだろ――姉ちゃん?」

 優牙は眉を寄せて美緒を見た。

「な、なんか気持ちいい。もっと言って」

 美緒が恍惚とした表情で子供達にせがむ。

「え? すげえ」

「もっと」

「強い」

「もっと」

「尊敬する」


「はゎわわわー!」


「うるせえ! 寝ろ!」

 美緒を怒鳴り付けて優牙は電気消す。

「おやすみー」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 子供達が布団に潜り込み、そして――一瞬で眠った。

「凄い。もう寝ちゃった」

 美緒がポカンと口を開ける。

「姉ちゃんも早く寝ろよ。絶対明日も早朝からエンジン全開だからな」

「ん」

 だがしかし、美緒はじっと子供達を見つめたまま動く気配を見せない。

 優牙が片眉を上げた。

「どうした?」

「んー……」

 美緒の手が翔哉の頭を撫でる。

「ねえ優牙、優牙は将来何になりたいの?」

「あ? なんだいきなり」

「いやあ、何となく」

 優牙は少しだけ笑って顎に手を当てた。

「そうだな、まあパティシエになりたかったけどな」

「過去形?」

「今はこいつらをけしかけてる奴の罠にはまってやってもいいかなと思っている」

 美緒が首を傾げる。

「けしかけてる……?」

「三好が何か言ってなかったか? 俺の将来について」

「あ、教師候補?」

「そうだ」

 翔哉から手を離し、美緒は暗い部屋の中で目を凝らして優牙を見つめた。

「先生になるの?」

「まあそうなるな」

「……蓮君は教育学部じゃないって言ってた」

「ふーん、で? 姉ちゃんはどうするんだ?」

「…………」

 美緒が子供達に視線を戻し呟く。

「子供って可愛いねぇ、単純で」

「……へえ、一番子供っぽくて単純な姉ちゃんがそれを言うか?」

「どうして蓮君は結婚しようなんて言ったのかな?」

 優牙は笑って手を伸ばし、美緒の頭をつついた。

「本人に訊け」

「訊いたよ。好きだからだって。――誰を?」

「おいおい姉ちゃ……」

 笑って済まそうとした優牙が美緒の真顔を見て眉を顰める。

「うーん、どっちも私だしねぇ。だけど……いつまで待てばいいのかな?」

「…………」

「前に蓮君は言ってた。『今はまだすべてに応えられない』って。じゃあ何故無理してでも結婚しようなんて思うの?」

「…………」

 優牙は溜息を吐いて肩を落とし、頭を掻き毟った。

「姉ちゃんにシリアスは似合わねぇな」

「おぉう、人の真剣告白に水を差すかね」

「取り敢えず――、待つのやめれば?」

「ふぇ?」

 首を傾げる美緒に優牙は笑う。

「待ってる必要あるのか?」

「……優牙、なぞなぞじゃないんだから。もっと懇切丁寧に分かりやすく述べなさい」

「後は自分で決めろ」

「…………」

 美緒が溜息を吐いた。

「優牙」

「なんだ」

「ひねくれた子に育った――痛ひゃい痛ひゃい痛ひゃい」

 美緒の頬を優牙が思い切り引っ張る。

「馬鹿が!」

 痛む頬を押さえ、翔哉の隣の布団に入る優牙を美緒は見た。

「優牙」

「まだ何か用か?」

「うん。決めた」

「そうか。じゃあ早く風呂入って寝ろ」

 美緒が笑いながら立ち上がる。

「おぉう、冷たい。どうするか訊かないの?」

「訊かねぇよ。おやすみ」

「おやすみ」

 美緒が和室から出て行き、優牙はあくびをして目を閉じた。


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