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第63話

「美味いー!」

「美味しいー!」

「美味すぎるー!」

「まるで味の宝石箱やー!」


「うるせー! 静かに食え!」

 優牙の怒鳴り声も騒ぐ四人には効かず、信じられないうるささに優牙は眉を顰める。

「おら! うるせーっつってんだ――」

 その時、蓮が美緒と大悟の皿を取り上げた。

「何すんだよ!」

 怒鳴る大悟にニコニコと笑いながら、蓮はきっぱりと言う。

「没収。騒ぐ子にはあげないよ。だけどいい子で食べるなら食後にデザートをあげる」

「う……」

 悔しげな顔をして、しかし子供達は静かに食べ始めた。

「ところで……、君たちは悠真に通ってるのかな?」

 蓮が訊くと大悟が頷く。

「うん。俺は三年十組」

「十組……ね。その十組には君たちみたいな人外の子が沢山いるのかな?」

「兄ちゃん知らないの? 人外しかいないよ」

「……成る程」

 口角を上げて蓮はハンバーグをつつく。

「学校は楽しい?」

「うん。でもマサキむかつく」

「どうして?」

 大悟は不満げに唇を尖らせウインナーを箸で摘まんだ。

「こないだ酸吐きやがって服溶けた。母ちゃんに怒られたんだ」

「それはハードだね。――君は? 最近あった事とか教えて」

 話を振られた忠太は口の中の卵焼きをごくんと飲み込んで答える。

「生き物係なんだけど、ツチノコの蓋締め忘れて逃げられて、先生に怒られた」

「見付かった?」

「うん」

 最後に蓮は翔哉に話し掛けた。

「君は?」

「クラスのみんなが頭いいから、ちょっと授業に付いていくのが大変。角度求めるの難しい」

「ふーん。君何年生?」

「一年生だよ」

 顎に手を当てて蓮がじっと翔哉を見る。

「一年生で角度……、十組は少し進みが早いんだね。後で教えてあげるよ」

 翔哉がパッと明るい表情になった。

「ほんと? ありがとう」

 微笑んで頷く蓮を見ながら、美緒が感心したように呟く。

「蓮君意外と子供好き」

 その言葉を聞いた隣に座っている優牙が鼻を鳴らした。

「あれは『調査中』って言うんだよ」

「調査……、お父さんとお母さんと一緒だね。蓮君も特殊警察官でしゅか?」

「馬鹿言ってないで早く食え」

 優牙の拳が美緒に落ちる。

「ふぎゃあ! 痛い!」

 涙目の美緒の頭を蓮が苦笑して撫でた。





 食後、約束通り蓮は翔哉の勉強を見てあげていた。

「そう、だからそこは? ……隣合わない角度の和と等しいんだよね」

「あ! そうか」

 カリカリと鉛筆を走らせる翔哉に蓮は微笑む。

 その様子を床の上をゴロゴロ転がりながら美緒は見ていた。

「おい、姉ちゃん」

 大悟がそんな美緒を体当たりで止める。

「おおぅ、大胆な」

「勉強教えてよ」

「え? 私が?」

「兄ちゃん達は忠太と翔哉教えてるから、もう姉ちゃんしか空いてないんだよ」

 美緒は座って大悟が持っているテキストをパラパラと捲った。

「ふむふむ。あ、分かる」

「当たり前だろ? 姉ちゃん高校生なんだから」

「これは引っ掛け問題でしゅね。ここの部分に罠が仕掛けてあります。それに気付くかどうかはあなたしだい。一度引っ掛かれば思考は泥沼にはまり、抜け出すのは容易ではない。キャッチセールスと同じです。可愛い女だと思って付いていけば高額商品を――」


「真面目に教えやがれ!」


 優牙の蹴りが炸裂し、美緒が転がる。

「姉ちゃん転がってばかりだね。ちゃんと教えてよ」

「……はいぃ。申し訳ございませんでした」

 美緒は這って大悟の元へと戻り、そこからは真面目に勉強を教えた。

 そして二時間後――。

 大きく口を開けてあくびする翔哉の頭を蓮は撫でた。

「ちょっと頑張り過ぎたかな? そろそろお風呂に入って寝たほうがいいね」

「うん。ありがとうお兄ちゃん、凄く分かりやすかった」

 大悟も美緒に礼を言う。

「姉ちゃん、意外にも教え方上手いんだな。授業より分かりやすかった。ありがとう」

「わーい! 褒められた」

 ピョンピョン飛び跳ねる美緒の姿に笑いながら蓮は立ち上がった。

「さて、僕は帰るよ」

 翔哉が蓮のズボンを握る。

「帰っちゃうの? 泊まらないの?」

 翔哉はすっかり蓮に懐いたようだ。

 蓮が翔哉の頭をもう一度撫でる。

「またね」

「……うん」

 大悟が翔哉の背中を慰めるように叩いた。


「またな、兄ちゃん」

「また勉強教えてね」

「おやすみ兄ちゃん!」

「いつか再び相まみえようぞ」


 子供達と美緒に手を振って蓮は帰っていった。


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