第62話
蓮と共に自宅に帰った美緒は、リビングに入った途端、目を見開いて叫んだ。
「おぉお!? 何この子達! 眉毛無い!」
「驚きポイントはそこか?」
優牙が呆れたように言い、ソファーに座っている子供の頭を撫でる。
今日はいつもと違い、何故か優牙の他に三人の小学校低学年らしき子供がリビングで寛いでいた。
「一つ目小僧か。本当にいたんだな」
蓮は呟いて、リビングにいる三人の子供を順に見た。
普通は二つある目が一つ――。
しかし大きな一つ目以外は人間の子供と変わりはない。
初めて見る一つ目小僧に驚いている様子の蓮に、ソファーの前に立っていた一番身体の大きい子供が鼻を鳴らして言う。
「狼人間がいるんだから一つ目小僧ぐらいいて当たり前だろ。兄ちゃん馬鹿?」
そんな子供の頭を優牙が叩いた。
「やめろクソガキ。喧嘩売っていい相手と悪い相手がいる事を覚えろ」
優牙はニコニコと笑う蓮を指差し眉を寄せる。
「いいか、ああいう心と表情が違う奴が一番危ないんだぞ」
「おやおや、酷いなぁ」
心外だと片眉を上げる蓮を押し退けるようにして、美緒が興味津々という様子で子供の一人に近付いた。
「おおぅ、つぶらな瞳。なんでうちにいるの? 養子縁組? 弟が増える?」
「優牙兄ちゃん、この姉ちゃん馬鹿?」
「そうだ。こいつは間違いなく馬鹿だ」
優牙が美緒の襟首を掴んで子供から引き離す。
「こいつらの両親が親戚の結婚式から帰る明日まで、預かる約束したんだよ」
美緒は首を傾げて優牙を見上げた。
「一つ目の親戚? 三つ目とか? 額に第三の目があって、それが開くと秘められた力が覚醒するとか?」
「漫画の読みすぎだ」
「じゃあ百目」
「急に多くなりすぎだ。まあいい。大きい奴から順に大悟、忠太、翔哉だ。俺は大中小って呼んでいる」
「ほうほう、実に覚えやすい」
頷く美緒の肩をポンと叩き、優牙はキッチンへと向かう。
「メシ用意するからその間こいつらの面倒見とけ」
「……え? 私が? 蓮く――」
「美緒、頑張れ」
助けを求めようとしたが、蓮も優牙の後に続きキッチンへと行ってしまった。
「あう。押し付けられた?」
子供と遊んだ経験がなく戸惑う美緒の手を忠太が握る。
「お姉ちゃん、かくれんぼしよう」
「は?」
「じゃあ鬼やってね。百数えたら捜してよ」
言い終わると同時にワーッと声を上げて、子供達はあっという間に居なくなった。
「おぉお!?」
美緒がキョロキョロと周りを見回す。
「かくれんぼ? 今どきの子供のくせに! でぃーえすやれでぃーえす!」
「早く捜してこい!」
キッチンから飛んできたお玉が頭に直撃し、美緒は渋々子供達を捜しに行った。
「うぅ……。行方不明の子供達を捜す為、いつ戻れるか分からぬ旅へ。しかし必ずや再びこの地に私は降り立つ」
しかし十分二十分と時間が過ぎても、一人も見付けることが出来ない。
「み、見付からない……! 決して広いといえないこの家で、何故」
「早くしろよー。もうすぐメシが出来るぞ」
「神隠しじゃー! 小僧共は龍神様の贄となったのじゃー!」
飛んできた片手鍋が美緒の頭を直撃する。
「ううぅ。龍神様の祟りじゃあ……」
床に倒れた美緒を、キッチンから来た蓮が苦笑しながら抱き起こした。
「ほら頑張って。簡単なはずだよ、美緒なら」
「へ?」
キョトンとする美緒の鼻を蓮が触る。
首を傾げて暫く考え、美緒はパッと明るい表情になって声を上げた。
「そうか!」
美緒の身体がみるみる狼に変わっていく。
そして鼻を上に向けて息を吸い込み、二階へと駆けて行った。
「……甘いな」
呟く優牙に口角を上げて蓮はキッチンへと戻る。
「見付けたー!」
タンスの中と天井裏、そして最後はキッチンの米櫃の中で子供を見付けた。
「変身なんてズリィーよ!」
頬を膨らます子供達に人型に戻った美緒は勝ち誇って言う。
「大人はズルい生き物なのです!」
ちょうどその時、優牙の「メシだぞ」という声が聞こえ、美緒と子供達が振り向いた。
「あ! お子様ランチ!」
子供達が歓声を上げる。
優牙がリビングのテーブルに運んできたのは、レストランにあるようなお子様ランチだった。
タコさんウインナーにハンバーグ、エビフライに卵焼き、フライドポテト、丸く盛られたチキンライスの上には旗も立っている。
「あれ? 優牙、私のお子様ランチは?」
「お子様ランチは十二歳以下にしか提供されねーんだよ」
「うおう! ズルい!」
子供のように地団駄を踏む美緒に蓮が笑いながら声を掛けた。
「ほら、美緒」
「ん?」
振り向いた美緒は、目の前に差し出された料理に驚く。
「美緒の分は僕が作ったから」
子供達と同じお子様ランチを蓮がテーブルに置いた。
「うひょー! 私のお子様ランチ! 蓮君……好き!」
美緒が蓮に飛び付き、勢い余って二人はソファーに倒れこむ。
ギュッと抱き合う美緒と蓮に子供達がどよめいた。
「ラブシーンだ!」
「うわぁ」
「チュウして! チュウ!」
優牙が慌てて美緒と蓮を引き離す。
「やめろ! 恥ずかしい」
蓮を蹴り飛ばし美緒の頭を叩いて、優牙は子供達に座るように指示して自分も座った。
「ほらメシだ」
「はいぃ」
美緒が座りその隣に苦笑しながら蓮が座る。
「いただきます!」
みんなで手と声を合わせて言い、夕食が始まった。