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第61話

 放課後、三好の研究室の冷蔵庫前にしゃがんで、美緒はプリンを食べていた。

「うーん。どうしようかな」

「呼んでもいないのに勝手に来て勝手に人のプリンを食べるな」

 三好が美緒の頭を書類の束で叩く。

「決めたのか?」

「まだでしゅ」

「……何しに来たんだ」

 溜息を吐いて三好は椅子に座って足を組んだ。

「もうすぐ締め切りだぞ」

「そのことなんでしゅけどねえ……」

 美緒がスプーンをくわえたまま振り向く。

「延長をお願いします」

「駄目だ」

「おおぅ、世知辛い。人情って何処に行ったんでしょうね」

 冷蔵庫を開け、更にもう一つプリンを取り出そうとする美緒の手に消しゴムが当たる。

「そうかそうか。俺は人情忘れた冷たい人間だからプリンはやらん」

「あう。ごめんなさい」

 謝りながらプリンとジュースを取り出した美緒に溜息を吐き、三好はペンでソファーを指した。

「行儀が悪いぞ。座って食え」

「はーい」

 言われた通りソファーに座り、美緒はさっそくプリンの蓋を開け食べる。

「うーん、美味」

 やれやれと肩をすくめ、机の上に書類を投げるように置きながら、三好がふと思い出したように訊いた。

「そういえば、佐倉はどうした?」

「ん? あぁ。なんか朝下駄箱に手紙が入っていて、『放課後校舎裏に来てください』って書いてあったんでしゅよ。それでちょっと行ってくるから待っててって」

「ふーん、ラブレターか」

 三好の言葉に美緒の動きがピタリと止まる。

「……ラブレター?」

「ラブレターだろ。他に何がある」

 ギギギ……と音のしそうな程ぎこちなく、美緒が顔を上げた。

「果たし状」

 三好が呆れた表情で首を緩く振り、こめかみに指を当てる。

「う……、だって彼女がいるんでしゅよ。ラブレターって……略奪する気満々でしゅか? 泥棒猫でしゅか? 猫のくせに狼の獲物を横取りでしゅか?」

「『獲物』なぁ」

「うぅー。でも人間の小娘ごときに蓮君が惑わされることないでしゅよね?」

 その時、ノックの音がして素晴らしいタイミングで蓮が現れた。

「美緒、帰ろうか」


「この浮気者ー!」


 飛んできたプリンの容器を蓮が咄嗟に避ける。

「うむ! おぬしなかなかやるな!」

「何なんだい?」

 蓮は床に落ちた容器を拾い、研究室の中に入った。

「泥棒猫が略奪愛で浮気な獲物がランデブー!」

「そんな訳ないだろ? ちゃんと断ったよ」

 三好が感心したように片眉を上げる。

「よく今ので分かるな」

「慣れですよ」

 蓮はニッコリ笑ってゴミ箱に容器を捨てた。

「うぅ。そう言いながらも若い女をつまみ食い?」

「僕はフサフサの耳と尻尾がない生き物には興味無いよ」

「若いメスをつまみ食い?」

「信用出来ないかなぁ。僕には君一匹だけだよ」

 美緒の頭を撫でる蓮に三好が訊く。

「プロポーズしたんだってな」

「そうですが?」

「…………」

 三好はじっと蓮を見つめ、背もたれに身体を預けた。

「後悔しない選択をしろよ、二人共」

「もちろんですよ」

 蓮が口角を上げて美緒を立たせる。

「帰るよ。今日はうちにおいで」

「おおぅ。何だかちょっぴり強引。ヨシヨシ先生さようなら」

 蓮に引き摺られながら手を振る美緒に、三好は苦笑しながら手を振り返した。





 蓮のマンションに来た美緒は、お菓子とジュースを食べながらテレビを観ていた。


「心ここにあらず」


「ふぇ?」

 振り向いた美緒に蓮は笑う。

「肉でも食べる?」

「うーん……今はいいでしゅ」

 美緒は視線をテレビに戻した。

 そんな美緒を蓮が後ろから抱きしめ自分の膝に乗せる。

「悩んでる?」

「……うん。どうして急にプロポーズしたの?」

「好きな人と一緒に暮らせたら幸せだろ?」

「……うーん」

 美緒の身体が縮み、あっという間に狼になった。

 蓮は軽く目を瞠り、それから嬉しそうに腕に力を込める。

「久し振りに見た」

「あれ? そうだっけ?」

 全身に頬擦りされながら、美緒は成る程と頷き蓮の膝に顎を乗せた。

「まあ確かに、これは幸せであるねえ」

 顔を上げた美緒は蓮の唇にチュッとキスをする。

「美緒!」

「うぎゃあ!」

 喜び過ぎた蓮に押さえつけられ舐められながら、美緒は小さな声で呟いた。


「でも、いまいちスッキリしないのは何でかな?」


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