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第60話

「どうしようかなぁ。うーんうーん」

「邪魔だ。退け」

「いやん、冷たい」


 夕食後の満たされた腹を踏みつけられ、美緒はキッチンでのたうち回った。

「うぎゃあ! 出る! チキンソテーが上のお口と下のお口から出る!」

「うるせー! そして汚ねーこと言うな!」

 優牙の蹴りが美緒の尻に炸裂する。

「ヒイ! 痛い!」

「足下でゴロゴロすんじゃねえよ。猫かお前は」

 優牙は美緒の襟首を掴んでリビングにポイと捨てた。

 勢いよく転がった美緒がソファーにぶつかり止まる。

「うぅー。だって……」

 恨みがましい視線で自分を見る美緒を無視し、優牙は後片付けを再開した。

「冷たいー。姉がこんなに悩んでるのに冷たいー。思いやりの心が足りな――うぎゃあ!」

 飛んできたしゃもじが額に当たる。

「うぅ・・・。しゃもじを武器にするとは料理人の風上にも置けない鬼畜な所業。きっと天罰が下るであろう」

「次は包丁がいいか?」

「ごめんなさい」

 あっさり謝り、美緒はテレビのリモコン目指してズルズルと這いずっていく。

「あー、悩むなぁ」

 そしてテーブルの上に手を伸ばしてリモコンを取ろうとした時、『バン!』と大きな音が聞こえた。

「え? 敵襲?」

 振り向いた美緒は、リビングの入口にいる予想外の人物に驚く。

 優牙と同じ顔の女――。


「お母さん!?」


 美緒と優牙の母、冴江さえである。

 先程の音は冴江がリビングのドアを乱暴に開けた音だった。

「ただいま」

「珍しい! お帰り。お父さんは?」

「今日は母さんだけ帰ってきたの。優牙、ご飯ご飯!」

 冴江は優牙に向かって言いながらダイニングの椅子に座る。

「分かったって、うるさい。帰ってくるなら電話ぐらいしろよ」

 文句を言いつつ、優牙は冷蔵庫の中を覗き、食材を選ぶ。

 冴江が美緒を見て首を傾げた。

「で? 『悩む』って何を?」

「おぉう、聞こえてた? ――プロポーズされたでしゅ」

「ああ、あの人間に」

 美緒は驚き、目と口を大きく開ける。

「知ってるの!?」

「まあ、一応ね。佐倉蓮でしょ?」

 美緒は頷き唸った。

「仕事仕事で家庭を顧みない駄目親と思いきや、まさか娘の彼氏の存在を把握しているとは……」

 ニヤリと笑って冴江が訊く。

「どうするの?」

「どうしよう」

「別にいいんじゃない、結婚しても」

 でも……と眉を寄せる美緒に冴江は肩をすくめる。

「あら、美緒にしては慎重じゃない。意外となんとかなるもんよ、問題無し」

「問題ありすぎだろ! この状況!」

 キッチンからフライパン片手に優牙が怒鳴る。

「子供って放っておいても立派に成長するものなのねぇ」

「俺がどんだけ苦労したと思ってんだ? あ? 母さんの言う事はあてになんねぇよ!」

 言い合いを始める優牙と冴江を尻目に、美緒は俯いて唸り続けた。





「おはよう」

 目の前数センチのところから声を掛けられ、美緒は目覚めた。

「……おはよー、蓮君」

「起きて」

「はいぃ」

「着替えて」

「はいぃ」

「ご飯食べに行くよ」

「はいぃ」

 二人は一階に行く。

 キッチンで朝食を作っている優牙が顔を上げた。

「優牙、おはよー」

「おはよう、顔洗ってこい」

「はいぃ」

 美緒が顔を洗って戻ってくると、食卓には三人分の朝食が並べられていた。


「いただきます」


 三人が手を合わせて食事を始める。

 すると『バン!』と大きな音が聞こえた。

「あ、お母さん。おはよー」

 振り向いた美緒が挨拶をする。

「あら? 驚かないんだ。残念」

 冴江が蓮の前の席に座る。

「おはよう。佐倉蓮君」

 蓮は爽やかな笑顔でそれに応える。

「おはようございます。いえ、驚きました。はじめまして、佐倉蓮です。美緒さんとお付き合いさせていただいております」

 冴江の前に優牙が朝食を置いた。

「結婚するんだって?」

「まあ、美緒さんの返事待ちですが」

「ふーん。考えたんだけど……」

「はい」

 冴江がニッコリと笑う。

「若いお婆ちゃんっていいよね」

「…………」

 蓮はじっと冴江を見て、同じようにニッコリと笑った。

「そうですね」

「気が合いそうねぇ」

「そうですね、お義母さん」

「ホホホホホ」

「アハハハハ」

 笑う二人を交互に見て、美緒が首を傾げて優牙に訊く。

「優牙、なんか変な二人」

 優牙はアジの干物をつつきながら呟いた。

「俺は関わり合いにならねぇ」

「へ?」

 そんな優牙を冴江が抱きしめ、頭を撫で回す。

「またぁ、そんな事言って」

「優牙君、遠慮しないでいいんだよ」

「そうそう。アハハハハ」

 眉を顰めて舌打ちする優牙。

「うーん、和気あいあい?」

 美緒が益々首を傾げた。


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