第59話
「という事なんですヨシヨシ先生」
「・・・・・」
「どうすればいいですか?」
「・・・・・」
放課後研究室に押し掛けてきた美緒は、三好の都合などお構い無しに自分の身に起こっている事を身振り手振りを交えて大袈裟に語ってみせた。
三好の答えをドキドキしながら待つ美緒。
三好はフゥっと息を吐いてそんな美緒の目をしっかりと見つめた。
「取り敢えず言えるのは」
「言えるのは?」
「学生結婚甘くみるな。大変なんだぞ」
美緒が首を傾げる。
「でも蓮君は大丈夫だって・・・」
「経験者が言うんだから間違い無い!」
「へ?経験者?」
驚く美緒に三好が頷いた。
「俺は学生結婚だったからな」
「へえー!先生はなんで結婚したの?」
興味深げに身を乗り出す美緒を押し戻し、三好は苦々しい顔で視線を逸らした。
「・・・ガキが出来たからだ」
「あれ?先生子供いるんですか?」
「・・・まあな」
三好は美緒に視線を戻して自嘲するように笑う。
「子供が生まれたのはお前と同じ歳の時だ」
「高校生!?破廉恥な!」
「破廉恥・・・、まあその頃の俺は荒れていたからな。後先考えずにあれこれやってしまっていた」
美緒が右手で口を押さえて上目遣いで三好を見た。
「あれこれヤッてたなんて、年頃の女の子に向かって生々しい」
「・・・何を想像しているんだ」
真面目に聞けと睨み付け、三好は話を続ける。
「嫁さんの両親は俺達の結婚に反対だったし、俺の両親は音信不通だったから援助もしてもらえなかった。理事長が助けてくれなかったら親子3人生きて行けなかったな。俺は自分の勉強と子供の世話と生活費を稼ぐのとで毎日ヘトヘトだった。」
美緒はうんうんと頷いて眉を寄せる。
「そうでしゅかぁ。それは涙なしには語れない物語でしゅね。じゃあ蓮君も苦労するかも?」
どうしようかな・・・と呟く美緒に、三好は腕組みして訊いた。
「お前の両親はこの事知ってるのか?」
美緒が首を横に振る。
「ん?言ってないよ。だって滅多に帰ってこないし」
最近会ったのはいつだったのか・・・。
両親の存在など忘れる程会っていない。
「出来れば祝福された状態で結婚しろ。そうしないと関係修復に時間がかかるからな」
「おぉう、経験者は語る。うーん、なんだか結婚もめんどくさいでしゅね」
三好は苦笑して美緒の頭を撫でた。
「めんどくさいな。それでも一緒にいたいなら結婚すればいい。・・・でも大上はそれでいいのか?」
「ふえ?」
「先生、お前の最近の頑張りは評価してるぞ。これからさらに伸びるところで成長を放棄してしまっていいのか?」
美緒が唸って腕組みをする。
「将来を有望視している若者をここで逃すのは惜しいと・・・?」
「そこまでは言ってない」
「う!きっぱり。傷付いた」
ソファーに突っ伏して泣き真似する美緒に向かって三好はポケットから飴を出して投げる。
「うわーい!いちごミルク味ー!」
途端に上機嫌になって飴を頬張る美緒。
三好は溜息を吐いて背もたれに身体を預けた。
「だからといって、ただ何となく大学進学ってのも違うと思うぞ」
美緒が首を傾げて右手を差し出す。
その手の上に三好は新しい飴をのせた。
「なんですかそれは。先生は結局どうしろって言うんですか。言ってる事が曖昧で実に分かりにくい。それでよく教師が勤まりますね」
「・・・・・」
三好が引きつった表情で美緒の鼻を摘む。
「ふんぎゃー!やへてくだはい!!」
「それは自分で考えろ!」
最後にギュッと摘まれ解放された美緒は、鼻を押さえて立ち上がった。
「ううー!暴力教師め!訴えてやる!次は法廷でお会いしましょう!」
「どんな脅し文句だ」
部屋から飛び出していく美緒を見送り、三好は疲れきった表情で目頭を押さえた。




