表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/130

第57話

 家の前で蓮の背中を呆然と見送っていた美緒は、その姿が見えなくなると、ハッとして叫んだ。


「うおー!団地妻へ一直線!?ご近所トラブルにご注意ー!!」


「うるせえ!!」

 頭に走る衝撃。

 蹲り振り向くと、二階の窓から怒りの形相で自分を見下す優牙がいた。

「うぅ・・・。優牙、ペットボトルをポイ捨てするとは我が弟ながら非常識」

「早く入ってこい」

「はいぃ・・・」

 美緒は中身がまだ一口も飲まれていないペットボトルを拾い、家の中へ入る。

「手洗いうがいをしやがれ」

 二階から降りてきた優牙がペットボトルを受け取りながら指示する。

「はいぃ」

「それが終わったら着替えやがれ」

「はいぃ」

「早くしろ」

「はいぃ」

 制服から私服に着替えた美緒はソファーに座り、その前に腕組みした優牙が立った。

「で?珍しくメシも食わずにヤローが帰ったみたいだが、どうした?」

「プロポーズされたでしゅ」

「・・・・・」

 美緒と優牙が見つめ合う。

「珍しくメシも食わずにヤローが帰ったが、どうした?」

「だからプロポーズされ―――――うぎゃあ!!」

「んな訳あるか!!」

 優牙は美緒の頬を摘んで思い切り引っ張った。

「妄想してんじゃねーぞコラ!まだ高校生だろうが!それとも結婚せざるを得ない事情でもあるのか!?」

「うぎー!うぎー!いひゃいー!」

 暴れる美緒を舌打ちと共に突飛ばし、優牙は行儀悪くセンターテーブルに腰掛ける。

 美緒は溢れる涙を指先で拭い訴えた。

「だって本当なんだよぅ。プロポーズされたんでしゅよ」

「・・・・・」

「高校卒業したら結婚しようって。ちなみに『やむを得ない事情により』ではないでしゅ。今時には珍しい、清い交際なもので」

 優牙は眉を寄せてじっと美緒を見つめ、それからフゥ・・・と溜息を吐いた。

「嘘吐け何が『清い交際』だ。しかしさすが変態、考えが常人と異なる。で?どうするんだ」

 美緒が首を傾げてうーんと唸る。

「三食昼寝におやつ付き。だらけた生活を送れるというのはものすごい魅力でしゅ」

「・・・おいおい、まずは一生を共に出来る相手かどうかだろう」

 呆れる優牙に美緒は爽やかに笑った。

「そこら辺は大丈夫。万一駄目なら離婚という手があるからね」

「・・・結婚する前から離婚の事考えるのかよ。女って怖えぇな」

 嫌悪感をあらわにする優牙を美緒は鼻で笑う。

「優牙ってばもしかして、運命の出会いを求めちゃってる?『一生を共に』って、可愛いでちゅね!―――――ぐえ!」

 蹴られた腹を押さえて美緒がのた打ち回った。

「調子に乗るな」

 吐き捨てるように言い、優牙は胡坐をかいて頬杖をつく。

 ソファーの上で美緒が慣れた様子で土下座した。

「うぅ・・・。すみませんでした」

「で、姉ちゃんはどうしたい」

 こめかみに人差し指を当てて美緒は考える。

「うーん。どうしよう」

 優牙が首を振って髪を掻き上げた。

「まあよく考えろ。人外と人間の結婚は色々大変だからな。特に父さんは確実に暴れると思うぞ」

「う・・・。それはめんどくさい」

 暴れる父親の姿を想像し、美緒のテンションが一気に下がる。

 純血にこだわり、狼男との見合い結婚を当然だと思っている父親を説得するのは容易ではないだろう。

「そうすると駆け落ちになるかなぁ。人間との禁断の愛に燃え逃避行・・・、それも魅力的でしゅ」

「馬鹿。そんな簡単な問題じゃねーだろ」

 優牙が美緒の頭を拳で軽く殴る。

「そうだ、愛に相談してみろ。人外と人間の夫婦についてとその間に生まれる子の苦労なんかも教えてもらえ」

 美緒は目を瞑り、うんうんと頷いた。

「そうだねぇ。じゃあそうしようかな。ところで今日の夕飯は何かな?」

「・・・・・!!」

 真面目な話をしているのに、どうして美緒はこうなのか。

 優牙の怒りの鉄拳が美緒の脳天を直撃した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ