番外編 「美緒と佐倉とそして・・・」
55話の夜の出来事。愛視点。
「皆様、本日はワタクシの為にお集まり下さりありがとうございます!この度―――――」
「『皆様』って程の人数?」
「姉ちゃんいいからメシにするぞ」
私と優牙に言われた美緒は、シュンと肩を落とした。
遮らなければ五分も十分も話し続けただろうから、これでいい。
佐倉が苦笑しながら美緒の頭を撫でた。
急に仲良くなっちゃって。
まあいいわ、その方が。
美緒にはあれぐらいの男がお似合いだから。
「おい、愛。手伝えよ」
「言われなくても手伝うわよ」
優牙が作った料理を私がテーブルに並べる。
相変わらず料理上手な男。
家庭環境から仕方なくとはいえ、これだけのものを作られると女としての自分の立場がないと言うか・・・とにかくあまり面白くない。
私と優牙ははっきり言って仲が良いとは言い難い。
悪いとまではいかないのだけど、そう、『価値観が違う』とでも言うのかしら?
「おい、早くしろよ。腹減ってんだよ」
お腹が空いているのは誰?
このシスコン!
大きなステーキを美緒の前に置く。
「きゃあ〜!おっきい。美味しそう!」
子供のようにはしゃぐ美緒。
はいはい、良かったわね。
「ではでは、かんぱーい!」
美緒が高くグラスを持ち上げ、めんどくさいけどカチンと合わせる。
「なんでか肉が無性に食べたくて・・・。本能の目覚めって言う感じなのかなぁ」
美緒がガツガツと肉を貪る。
食べ方が汚ない・・・、野性的になり過ぎでしょう?
ポケットからハンカチを取り出そうとしたら、それより先に佐倉がハンカチで美緒の顔を拭き始めた。
そうね、もう私がやってやる必要は無かったわね。
ふと視線を横にずらすと、ティッシュを持った優牙と目が合う。
「・・・・・」
「・・・・・」
優牙はティッシュで汚れてもいないテーブルを拭いて丸めてゴミ箱に投げ、でも上手く入らなかったのでイライラとした顔で立ち上がってきちんとゴミ箱の中に入れて戻ってきた。
「優牙、肉!肉もっと!」
「もう食っちまったのか。しょうがねえな」
優牙は唐揚げや豚カツを美緒の前に置いてキッチンに行くと、すき焼き鍋を持って帰って来た。
「野菜も食えよ」
歓声を上げて肉だけをごそっと皿に取る美緒。
全然話を聞いてないじゃない。
「甘やかし過ぎじゃないの?」
優牙は私を見て片眉を上げる。
「仕方ないらしい」
「仕方ない?」
「母さんが言うには、狼女は恋をすると肉が食べたくて我慢出来なくなるらしい。思い切り食べさせて満足させてやれば落ち着くんだってよ」
恋・・・・・。
美緒は変わった。
周りに流されダラダラと生きていた美緒が頑張る姿なんて、以前は想像もつかなかったな。
「早く食わねえと無くなっちまうぞ」
優牙の声が聞こえて、私は目の前にあった料理に箸をつける。
そして数十分後、テーブルの上に野菜だけが残っている状態になった時、美緒が不意に立ち上がった。
「えーとそれではメインイベント、華麗なる『変身』を皆様に披露いたしますです!」
そう言って勢いよく服を脱ぎ始めた美緒に私は慌てた。
「待ちなさい馬鹿!」
既に上半身下着姿の美緒を引き摺って廊下に出る。
「なんですか愛ちゃん!これからがいいところだったのに!」
何が『いいところ』よ!
「恥じらいを持ちなさい!」
「えー?だって今更・・・」
「簡単に脱ぐ女は簡単に飽きられるわよ!」
服を着せながら言うと、美緒は「え!?」と目を見開いた。
「そうなんでしゅか?」
たぶんね、と心の中で付け足し、美緒の耳を引っ張って部屋に戻る。
「痛い痛い痛い!愛ちゃん!」
そのまま佐倉の前に行くと、美緒を突き飛ばした。
「うう、蓮くん。愛ちゃんが乱暴したでしゅ」
佐倉が美緒を膝の上に乗せて頭を撫でる。
「河内さん、優しく・・・ね」
ニッコリと胡散臭い笑顔を見せる佐倉。
でも・・・『白』より『黒』の方が美緒には合っている。
「優牙、デザートあるんでしょ?出しなさい」
「命令するなよ」
優牙が立ち上がりキッチンに行く。
手伝う為に私も行くと、優牙は大きなケーキを冷蔵庫から出した。
街の妖精のケーキ、それも特注っぽい。
本当に、このシスコンは・・・。
美緒が結婚すると言い出した時にはどうなるのかしら?
「優牙も早く彼女を見つけなさい」
思わず言うと、優牙が眉を顰めて私を見る。
「お前もな」
お互いそれが難しい事は良く分かっている。
優牙は将来、純血の狼女と見合い結婚するつもりなのだろう。
そして私は・・・。
「ほら、皿とフォーク持って行け」
渡された食器を持ってテーブルに行く。
ベッタリ引っ付く美緒と佐倉の前に、私は皿を置いた。