第52話
「・・・姉ちゃん、それはなんだ?」
「手のりハニー人形」
「・・・・・」
土曜日の夜、蓮が帰った後にぐったりとソファーに横たわっていた美緒が、不意に立ち上がり鞄から取り出したモノに優牙は唖然とした。
「・・・これ本物の毛だよな」
「本物だよ」
「・・・すげーそっくりなんだけど」
「蓮君のお家には、等身大のハニー人形があるよ」
優牙は思い出した。
以前蓮が美緒の毛を盗んで逃走した事を。
「あれで作ったのか?信じられない変態ぶりだな」
美緒が掌にちょこんと載る人形をテーブルの上に置き、じっと見つめる。
「・・・何やってんだ?」
「イメージトレーニング」
「・・・・・」
優牙はそっと美緒から離れた。
「何それ?」
「手のりハニー人形」
「・・・・・」
月曜日の朝、美緒と蓮に挨拶をしようとした愛は、机の上に置かれたモノに唖然とした。
愛は蓮に視線を移す。
「佐倉が作ったの?」
「ああ、そうだよ」
「・・・愛されてるわね美緒」
静かに愛は自分の席に行き、美緒はイメージトレーニングを再開する。
暫くすると三好が教室にやって来て、優牙や愛と同じように美緒に訊いた。
「・・・大上、それはなんだ?」
「手のりハニー人形」
「・・・学校生活に必要ない物を持って来ないように。分かったな、佐倉」
三好が人差し指でこめかみを押さえる。
「はい。すみません」
その場は大人しく人形を片付けた蓮だったが、昼休みに美緒を連れて三好の研究室に行き、またもや人形を取り出した。
「おい・・・」
「教室ではやりません」
「・・・・・」
三好は溜息を吐いて、弁当に入っていた焼き鳥を箸で摘んだ。
「ほら大上、焼き鳥をやろう」
パッと顔を上げる美緒を蓮が制する。
「先生、むやみに餌を与えないで下さい」
「・・・・・」
美緒と蓮をくっ付けた事は間違いではない。
間違いではないが、少しだけ後悔する三好だった。