第50話
「メシだぞ」
優牙はセンターテーブルで勉強をしている美緒と蓮にキッチンから声をかけた。
「うわぁい!ご飯何かなー?」
「手を洗って来い」
「はーい」
素直に手を洗いに行きすぐに戻って来た美緒は、ダイニングテーブルの椅子に座りながら歓声をあげた。
「コロッケー!いただきまーす!」
「待て」
コロッケに箸をつけようとしていた美緒が、ピタリと止まる。
同じく手を洗ってきた蓮が、椅子に座りながら自慢気に笑う。
「ほら、凄いだろう」
「あーそうだな」
チラリと美緒を見て、優牙はサラダをテーブルに置いて座った。
「もっと感動したらどうだい?」
「感動?」
優牙は鼻を鳴らし、手を伸ばして美緒のコロッケを箸で摘む。
「ああ!駄目!」
美緒が慌ててそのコロッケに齧り付いた。
「美緒ぉ!!」
蓮の怒声がリビングに響き、美緒はビクリと身体を震わせた。
「駄目じゃねーか。まだまだだな」
口角を上げて笑う優牙を蓮は悔しげに睨み付け、続けて美緒に視線を移した。
「ヒィイ!短気はいけまちぇん!長い目、長い目で見て下ちゃい!」
「おいおい、赤ちゃん返りしてねえか?大丈夫かこれは」
優牙はコロッケを美緒の皿に戻し、箸を置いて頬杖をついた。
「結構期待してんだからな。上手くいけば俺の負担が減る。しくじってくれるなよ」
「上手くやるさ。優牙君の為ではないけどね」
蓮と優牙が睨み合う。
「そうだ。優牙君手伝ってくれないか?実際に変身するところを見せて、イメージトレーニングをさせたいんだけど」
「―――――!?」
優牙は目を見開き、ブルブルと首を振った。
「絶対嫌だ!お前の目の前でだけは絶対変身しない!ってゆーか、変身させて俺に何する気だ変態!」
「何って、だからイメージトレーニング」
「嘘つけ!」
勢いよく立ち上がった優牙が、ビシッと蓮を指差した。
「コロの悲劇を俺は忘れない!我が儘で生意気で馬鹿だが、あれでも可愛いところがあったんだ。でもお前に舐められまくって、今じゃあいつの心は宇宙を漂う星となっている!」
「宇宙を漂う星?随分ロマンチックな表現だね」
「うるせー!反省しろ!とにかく俺はお前の目の前では変身しない」
優牙は呼吸を整え、椅子に座り直して食事を始めた。
「うーん残念」
ニヤリと笑いながら、蓮は隣に座る美緒の頭を撫でる。
「仕方ないから別の方法でいこうか、美緒」
「・・・それよりご飯食べていいでしゅか?」
唇を突き出し上目遣いで自分を見る美緒に、蓮が爽やかに笑う。
「待て」
「あうぅ・・・。まだやるのですか」
肩を落として涙目になる美緒に、更に蓮は冷たい言葉を投げ掛けた。
「さっき待てが出来なかったから、食後のデザートは半分しかあげないよ」
「えぇえーっ!!」
「待て」
「・・・・・」
美緒はグッと唇を噛みしめて優牙に目で訴える。
「頑張れー」
「う!優牙までも・・・!貴様は最早敵であ―――――」
ガコッ!
箸置きが額に命中し、美緒の目から涙が一粒流れた。




