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第49話

 三好は眉を寄せ、頬杖をついた。

「お前達、先生はこれから昼飯を食べるのだが」

「どうぞ」

「『どうぞ』ってなぁ」

 昼休みの研究室は異様な雰囲気に包まれていた。

 テーブルに置かれた優牙手製の弁当をじっと見つめる美緒。

 その口からは今にもヨダレが垂れてきそうだ。

「落ち着かないから出て行ってくれ」

「嫌です」

 即答する蓮。

 三好はこめかみを押さえる。

「先生が教室でやるなというから、仕方なくここに来たんですよ」

「ここでもやるな」

 蓮は首を横に振り、微動だにしない美緒の頭を撫でた。

「先生見て下さい。美緒は頑張っていますよね。頑張っている生徒を応援するのが?」

「教師の役目―――――か?」

「その通り。素晴らしい」

 パンッパンッと手を叩き、蓮は美緒の調教に戻ってしまう。

「まあ確かに頑張ってはいるがなぁ。それはちょっと―――――」

「先生静かにして下さい。美緒が集中出来ません」

「・・・・・・」

 三好は諦めて自分の弁当を机の上に広げた。

「美緒、待てだ」

 卵焼きを掌に載せ、美緒の目の前で左右に揺らしながら蓮が言う。

「うぅ・・・うぅぅ・・・」

 つられて左右に揺れる美緒の様子に、思わず三好は箸を止めて「憐れだ」と呟いた。

「よし!」

 蓮の合図と同時に、美緒は卵焼きに噛り付く。

「どうです先生。たった一日でこれだけ躾が出来たんですよ」

「自慢気に言うな、やりすぎだ。俺でさえ同情するぞ。ほら大上こっち来い。唐揚げをやろう」

 三好が箸で唐揚げを摘んで見せると、美緒が歓声を上げて立ち上がった。

「うわぁい!ヨシヨシ先生大好き」

「甘やかさないで下さい」

 渋い顔の蓮を尻目に、三好は美緒の口の中に唐揚げを放り込む。

「美味しー!ヨシヨシ先生、これ優牙の唐揚げより美味しいよ!」

 無邪気に笑う美緒に、三好は破顔した。

「そうだろう。唐揚げは嫁さんの得意料理だからな」

「嫁さん・・・?」

 美緒がキョトンとする。

「あれ?ヨシヨシ先生って結婚してたんだ。奥さんってどんな人?」

 美緒の質問に少し考え、そうだな・・・と三好は窓の外に視線を移す。

「素晴らしい女性だ。ろくでなしだった俺がまっとうな道に戻れたのは、彼女のおかげだな」

「へぇー。ヨシヨシ先生ろくでなしだったんでしゅか」

 三好は美緒に視線を戻し笑った。

「ろくでなしだったんでしゅよ。頑張れば人はいくらでも変わる事が出来る。嫁はそれを教えてくれた」

「いい話でしゅねぇ」

 美緒は頷きながら、三好の弁当の中の唐揚げを手掴みで食べた。


「いい話ですね。ところで奥様は人間ですか?」


「ふぇ?」

 後ろから聞こえた言葉に、美緒は驚いて振り向いた。

「え?え?」

 厳しい表情の蓮と苦笑する三好を交互に見て、美緒は首を傾げる。

「ヨシヨシ先生の奥さんって―――――」

「昼休み終わるぞ。早く食べて教室に戻れ」

 美緒の言葉を遮って、三好は弁当に箸をつける。

 蓮は軽く肩をすくめて美緒の襟首を掴み、優牙の作った弁当の前に戻った。

「待て」

「え・・・、まだやるの?それよりヨシヨシ先生の奥さんの話を―――――」

「待て」

「うぅ・・・。無視でしゅか」

 美緒は浮かんだ涙を指で拭いながら弁当を見つめた。


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