第47話
「そもそも、優牙君はどうやって、変身をコントロール出来るようになったんだい?」
食後のコーヒーを飲みながら、蓮が優牙に訊く。
「ああ、狼人間は通常狼の姿で生まれ、そこから変身を繰り返しながらコントロールする事を覚える。俺の場合は、ハイハイする頃には完璧にコントロールしていたらしいぞ」
「・・・ハイハイ?」
蓮は軽く目を見開き、それから美緒に視線を移した。
「ヒィイ!」
逃げ出そうとする美緒の襟首を掴み、蓮は更に優牙に訊く。
「ハイハイの赤ん坊が出来る事が、どうして美緒には出来ないんだ?」
優牙が眉を寄せ、美緒を見る。
「本人にコントロールしようという意志があまり無いから・・・だろうな。力が無い訳ではないと思う。自己治癒力は異常に高いしな」
「・・・つまり、やる気が無いという事か」
蓮は溜息を吐いて、美緒を引き寄せた。
「さて、どうするか・・・」
「うぅ・・・。キツいとか辛いとか痛いは、やめて下さいでしゅ」
蓮の腕の中で、美緒が涙ぐむ。
「・・・根性を叩きなおすところからか?」
スッと目を細め、蓮は美緒の頭を撫でる。
「そもそも、美緒は甘やかされすぎだよね。こうやって優牙君が何でもやってくれるから、自分でやろうという気にならないのではないかな」
「おい、何だって?」
蓮の言葉に優牙の口元が引きつる。
「お前は分かってない。こいつの真の恐ろしさを。試してみるか?」
優牙は立ち上がり、美緒にコーヒーカップを差し出す。
「おら、片付けてみろ」
「ええ!?私が?」
「嫌そうな顔、するんじゃねーよ!」
優牙にカップを押し付けられ、美緒は渋々それを手に持つ・・・と同時に落とす。
床に落ちて割れた破片を、美緒は困った顔で見つめた。
「拾え」
「はいぃ・・・」
しゃがんで破片を拾い、美緒はそれをキッチンに持って行く・・・途中でこける。
「うぎゃあ!痛い!」
顔面に破片が刺さり、血が流れる。
「美緒!」
蓮が慌てて美緒の腕を掴んで顔をハンカチで押さえ、優牙が舌打ちして近くにあったガムテープを手に取った。
「退け」
優牙は蓮を押し退け、美緒の顔にガムテープをペタペタ貼りつける。
「姉ちゃんの怪我はガムテープで治る。内臓が見えてようが脳ミソが見えてようが、ガムテープを巻いて暫く放置して置けば治る。覚えておけ」
「ガムテープ・・・」
さすがに唖然とする蓮に口角を上げ、優牙は美緒の治療を終えた。
「次は料理でもやらせてみるか?」
「いや・・・」
蓮は首を振り、美緒のガムテープだらけの顔に手を触れる。
「うぅ・・・痛いでしゅ・・・」
溢れる涙を指で拭ってやりながら、蓮は溜息を吐いた。
「急に高度な事をやろうとしても無理だと分かった。まずは簡単なところから始め、徐々に鍛えていこう」
「鍛える・・・。嫌いな言葉でしゅ」
美緒は両手で顔を覆い、嗚咽した。




