第5話
「あー、終わったー!」
美緒は鞄を肩に掛けると、愛の席へ走って行った。
ショートホームルームが終わり、部活に入っていない美緒は、後は帰るだけである。
「愛ちゃーん!ね、遊びに行こー!どこ行く?どこ行く?ケーキバイキング行く?イチゴとチョコとマンゴーと期間限定マロンも食べたいよね。」
「うるさい!」
愛は持っていた教科書で美緒の横面を叩くと、それを鞄にしまい、美緒を無視して帰ろうとした。
「いや、待って愛ちゃん。置いてかないで、捨てないでー」
自分の腕に縋りつく美緒を愛は冷たい瞳で見下ろした。
「美緒・・・もうすぐ学年末テストって分かってる?」
美緒はキョトンとして愛を見た。
「もうすぐって・・・まだ二週間以上あるじゃない」
愛は溜息を吐いて、美緒を引き剥がした。
「あと二週間程度しかないの。遊ぶ余裕なんてあるわけないでしょ?」
「ええ!?」
「ええ!?じゃない。あんたも家に帰って勉強しなさい」
美緒はもう一度愛の腕にしがみつくと、甘えた声を出した。
「だったらさぁ、美緒、愛ちゃんと一緒に勉強したいなー。お・ね・が・い」
「気持ち悪い。離しなさい」
愛は乱暴に美緒を引き剥がして、少し離れた。
「私はパパに勉強教えて貰うんだから、邪魔しないで」
「あー、愛ちゃんのお父さん、頭いいもんねー。見た目アレだけど・・・って痛い痛い!」
愛は素晴らしい速さで美緒に近付き、拳でこめかみをグリグリした。
「何度言えば理解するの?この頭は」
「痛い痛い!ごめんなさい」
「ちゃんと勉強しないと、酷い点数になるからね。そうよね、先生」
「・・・・・ん?」
美緒が愛の視線を辿って後ろを見ると、あきれ顔のクラス担任、三好吉人が立っていた。
「何やってんだ、お前らは」
「先生、この子と一緒にしないで下さい」
愛はこめかみから拳を離すと、足元に置いていた鞄を手に持った。
「ヨシヨシ先生、どしたの?愛ちゃんに何かご用?」
三好は溜息を吐くと、美緒の頭を撫でた。
「先生はお前に用事があるんだよ。ちょっとあっちの部屋でお話しようなー」
美緒は不思議そうに首を傾げた。
「私?」
「ああ。行こうか」
「あ、でも私、愛ちゃんと・・・」
「河内なら、もう帰ったぞ」
「え!?」
驚いて美緒が見ると、そこにもう愛の姿は無かった。
「さ、行こうな」
美緒は三好に引き摺られるようにして連れて行かれた。