第44話
「屋上での決闘・・・!まるで一昔前の青春映画みたい!」
歓声をあげる美緒の頬を、愛がつねる。
「馬鹿」
「痛い痛い愛ちゃん!」
美緒は頬を擦りながら、「そういえば・・・」と、周りをキョロキョロと見た。
「謎の転校生は?」
先程の生徒が居なくなっている。
三好は溜息を吐いて、美緒の頭を撫でた。
「何処か別の場所で見ているのだろう。まったく、制服まで着て。本当に『謎の転校生』になる気じゃないだろうな」
うんざりといった様子の三好に、愛が訊く。
「ねえ、あの方はどなた?」
「・・・分かっているだろう」
愛は目を細める。
「へえ、やっぱりそうなの」
三好は愛の頭も撫でる。
「え?何?誰?」
一人だけ分かっていない美緒を愛は笑い、蓮と優牙の方を指差した。
「ほら、始まるわよ」
準備体操を終えた蓮と優牙が対峙する。
「覚悟はいいか!?変態!うちの大事な姉ちゃん傷物にしやがって!許さねえからな!」
「傷物・・・?なんの事かな?」
「分かってんだぞ!お前が変身した姉ちゃんに、あれこれしたって!」
優牙が蓮に殴りかかる。
蓮がそれを紙一重で避けて、反撃する。
「・・・え?『あれこれ』って・・・何?え?何か、もの凄い勘違い?」
唖然とする美緒に、愛が言う。
「ペロペロされたんでしょ。似たようなものじゃない」
「これから『あれこれ』するんだろ。似たようなものだな」
「ええ!?ヨシヨシ先生まで・・・。もしかして私、変身したらヤバい!?」
美緒が溢れる涙を拭う。
その間にも、蓮と優牙の対決は続いた。
「美緒は僕のものだ!ちゃんと餌もやるし、散歩にも連れて行く!お菓子だってあげる!」
「ふざけんな!姉ちゃんはペットじゃねえんだよ!!鎖で繋いで飼うつもりか!?」
「それの何がいけないんだ!可愛い首輪だって用意してあるんだ!」
蓮の拳を避けた優牙が、蹴りを繰り出す。
それを蓮は後ろに跳んで避けた。
「うわ、凄いわね。堂々のペット宣言。可愛がってはもらえそうだけど」
「うぅ・・・。嫌。鎖で繋がれるのは嫌・・・!」
「よしよし。先生が後で怒ってやるから泣くな」
美緒達はそうして二人の激しい攻防を見ていたが、暫くして、三好が腕時計に視線をやり、眉を寄せた。
「午後の授業が始まる時間だぞ」
「ええ!?お昼ご飯食べてない!お腹空いた!!」
縋りつき訴える美緒の頭を、困った表情で三好は撫でる。
「そう言われてもなぁ」
「愛ちゃん!売店行こ!早く!」
「ええ!?対決は始まったばかりよ」
「河内、この二人の事だから、決着がつくまでは長くかかるだろう。先生、お前達まで授業をサボるのは許さんぞ」
「愛ちゃん!早く」
美緒が愛の腕を引っ張る。
愛は未練がましく蓮と優牙を見ていたが、フッと溜息を吐いた。
「・・・仕方ないわね」
殴り合う蓮と優牙を置いて、三人は屋上から立ち去ったのだった。