第43話
廊下に悲鳴が響く―――――。
愛がもたつく美緒を、懸命に引っ張った。
「あ、愛ちゃん!ちょっと休憩しよ」
「ダーリンの危機よ。頑張りなさい!」
「うう・・・!違うのに!」
息を切らし辿り着いた教室では、机や椅子がめちゃくちゃに倒れ、生徒達が悲鳴をあげたり唖然としたりしていた。
その教室の真ん中で、三好が優牙を羽交い締めにし、蓮が床に倒れていた。
「ヒィイ!校内暴力事件勃発・・・!」
美緒の声に気付いた蓮が、顔を上げる。
その頬が腫れていた。
「美緒、お帰り。遅かったね」
蓮は立ち上がると、制服に付いた埃をはたき落とす。
そして、乱れた机を整頓し始めた。
「参ったな。弟君、本気になると強いんだね。でも、何も言わずにいきなり殴ってくるのはどうかなぁ」
蓮は全ての机を元に戻すと、優牙に笑顔を向けた。
「さて、じゃあ、周りの迷惑にならない場所に、移動しようか」
「おい、佐倉・・・」
眉を寄せる三好に、蓮は首を振る。
「すみません、先生。でも僕も人生が掛かっているので、退けません。行こう、弟君」
蓮は美緒に微笑み、横を通り過ぎる。
優牙が三好の拘束を振り払い、その後に続いた。
「さて、どこに行こう。三好先生、いい場所知りませんか?」
「知ってても教えん」
二人の後ろを歩く三好が、眉を寄せる。
「校内じゃ三好先生に迷惑になるから、美緒の家にすれば?」
三好の後ろを美緒の腕を引きながら歩く愛が、提案した。
「うーん、そうだね・・・」
蓮が顎に手を当てた時、沢山の見物人の影から一人の生徒が現れ、集団の前に立ちはだかった。
「何?僕達忙しいんだけど」
眉を寄せる蓮の目の前に、その生徒は何かをちらつかせた。
「鍵・・・?」
生徒はニッコリと笑う。
「こっちだよ」
そして、歩きだした。
「・・・・・」
「・・・・・」
蓮と優牙はチラリと視線を合わせ、その生徒の後に付いて行く。
「え・・・?誰あれ。謎の転校生?」
ポカンとする美緒と、眉を寄せる愛。
三好は額に手を当て、溜息を吐いた。
「何を考えているんだ。あのヒトは・・・」
三人の姿は見えなくなったが、まるで行き先が分かっているように再び歩きだした三好に、愛と美緒も付いて行く。
広い校舎をあっちこっちと歩き、立ち入り禁止と書かれた張り紙のある階段を上り、着いたのは屋上だった。
「うおお!高い」
景色を楽しむ美緒の頬を、愛がつねった。
「ほら、あそこ」
愛の指差す方向に、蓮と優牙の姿があった。
「行くぞ」
三好が美緒の頭をポンと叩き、三人は蓮と優牙の元へと向かった。