第42話
愛は三好の研究室のドアをノックし、中に入った。
美緒の襟首を掴んだ優牙が続く。
「来たか」
「『来たか』じゃねーよ。どうしてくれるんだ」
優牙は三好を睨み付け、美緒をソファーに投げた。
「うぎゃあ!」
三好は苦笑して椅子から立ち上がり、涙ぐむ美緒の頭を撫でた。
「佐倉に人外の存在を教える。予定通りだろう?」
「どこがだよ!二人が付き合い始めるなんて、予定に無かっただろーが!」
「恋愛は個人の自由だ」
「・・・・・!」
優牙は腰に手を当てて、美緒を睨み付けた。
「姉ちゃん、あの変態が好きなのか?」
「ヒイィ・・・!」
美緒は恐怖のあまり、三好にしがみついた。
「答えろ!」
美緒がビクリと震えて、しどろもどろになりながら答えた。
「違、佐倉君、パンツ・・・」
「何の話をしている!!」
優牙が腕を振り上げる。
しかし、その腕を愛が掴んだ。
「いいじゃない。この先美緒にまともな恋愛が出来る訳無いんだから、確実に愛してくれる人と結ばれた方が、幸せよ」
「愛・・・!」
「そうだぞ、大上弟。以前はやる気のまったく無かった大上を、こんなに変えたのは佐倉だ」
「三好・・・!」
優牙は愛の手を振り払い、歯ぎしりした。
「・・・姉ちゃんは貴重な狼女なんだぞ」
愛が鼻を鳴らす。
「だから、好きでもない相手と結婚して、子供を産めって?美緒の意志は無視して。馬鹿じゃない?」
「お前みたいな混血に、純血の大切さは分かんねえんだよ!」
声を荒げる優牙に、愛は頷く。
「そうね、分からないわ」
愛は自分の頭にそっと手を触れ、優牙を真っ直ぐ見た。
「でも私は、自分の血も、この身体も、種族を越えて愛し合う両親も、誇りに思っているわ」
「・・・・・!」
睨み合う二人―――――。
「・・・・・」
先に視線を逸らしたのは、優牙だった。
そんな優牙の肩に、三好が手を置く。
「佐倉はいい男だ。あっさり人外の存在を受け入れた懐の深さも、素晴らしいよな。多少変わった性癖があっても、それで大上が幸せになるならいいじゃないか」
ポンポンと、三好が優牙の肩を叩く。
「・・・・・」
優牙は唇を噛みしめて俯いた。
「え・・・?皆、私の意志は?無視?」
美緒の呟きに答える者はいない。
が、優牙は不意にある事に気付き、三好の胸ぐらを掴んだ。
「ちょっと待て。『性癖』って何だ?」
「・・・え?」
三好が慌てて首を振った。
「いや、間違えた。性格だ性格」
「・・・・・」
優牙は目を細め、美緒に視線を移した。
「し、知らないでしゅ!」
美緒は必死に手を振る。
更に愛に視線を移すと、愛は静かに目を逸らした。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
優牙は三好から手を離し顎に手を当て俯く。
「無類の犬好き、コロ舐めまくり、変態、パンツ・・・」
「待て待て、大上弟。ちょっと落ち着いて茶でも飲もうか」
優牙がハッと目を見開き、美緒に駆け寄ってその髪を掴んだ。
「痛い痛い痛い!優牙!」
「そういう事なのか!?なあ、そうなのか!?」
「『そういう事』って、どういう事でしゅか!?」
「・・・・・」
優牙は美緒から手を離し、ヨロヨロと後ろに下がった。
「信じられねー。まさか、本当にそんな人間が存在するなんて・・・!」
両手で頭を掻き毟り、優牙は歯を剥き出しにして、三好を睨んだ。
「知ってて黙っていたな!三好も姉ちゃんも愛も!俺だけ何も知らずに・・・!許さねえ、あの変態!!」
突然、優牙が走りだす。
「こら待て!大上弟!」
三好の制止をを振り切り、優牙は駆ける。
舌打ちをして、三好が優牙を追い掛ける。
「あの馬鹿・・・!美緒!行くわよ!」
「え・・・。どうなってんの・・・?」
愛が美緒の腕を掴み、引き摺るようにして走りだした。




