第41話
昼休み―――――。
「あうぅ・・・。久し振りに、視線が痛い」
グッタリと机に突っ伏す美緒の頭を、蓮が教科書でポンポンと叩く。
「お昼食べに行こう。今日は学食でいいよね」
「・・・売店でパンでも買って、人気の無い所で食べたい」
「行くよ。立って」
「・・・私の意見は無視?」
ノロノロと立ち上がる美緒の手を、蓮が握る。
その時、大きな音を立てて、教室のドアが開いた。
「姉ちゃん!!!」
教室にいた全ての者が驚いて、一斉にドアの方を見る。
「ゆ、優牙っ!」
突然現れた弟に美緒は驚き、思わず蓮に縋り付いた。
「・・・姉ちゃん、どういう事だ?」
優牙は美緒の元までまでゆっくり歩いて来ると、襟首を掴もうとした。
パシッ―――――!
しかしその手を、蓮に掴まれる。
「佐倉蓮・・・!」
睨み付けてくる優牙に、蓮が笑う。
蓮は優牙の耳元に唇を寄せ、囁いた。
「弟君も、変身出来るんだよね?可愛いんだろうね。見てみたいなぁ」
「・・・・・!!」
優牙の背中に寒気が走る。
コロの悲劇が頭をよぎり、優牙は蓮を突飛ばした。
「姉ちゃん!この変態と正式に付き合い出したって、すげー噂になってんぞ!それに、・・・バラしたな」
美緒はブンブンと首を振る。
「違うでしゅ!・・・バレたのでしゅ」
「どっちも一緒だ!!」
優牙は美緒の襟首を掴み、振り回した。
「この馬鹿が!俺がたった一日留守にしてる間に、やらかしやがって!」
「ゆ、優牙!苦しい・・・!」
「しかも『付き合い出した』だあ?人間とか?お前、自分の立場分かってんのか!?」
「ヒ、ヒイィィィ!」
優牙は舌打ちして、蓮を睨み付けた。
「姉ちゃんをやる訳にはいかねえ。諦めろ」
蓮は笑って手を伸ばし、美緒の腕を掴む。
「無理。もう美緒はもらった」
「何だとコラ。―――――愛!」
優牙に呼ばれて、教室の隅で成り行きを見ていた愛が、眉を上げる。
「何?」
「『何?』じゃねーだろ!呑気に見てんじゃねーよ」
愛は微笑んで、髪を掻き上げた。
「そうね。注目され過ぎだし、場所を替えましょう。行くわよ」
「・・・命令するな」
愛が歩きだし、その後に美緒を引き摺った優牙が付いて行く。
その後ろを蓮が付いて歩く。
「・・・おい、佐倉蓮」
「なんだい?」
優牙は振り向いて、蓮を睨み付けた。
「何でお前が付いて来る?」
「場所を移動するんだろう?」
「お前は付いて来るな!」
「・・・・・」
蓮はチラリと美緒を見て、フッと息を吐く。
「まあ、いいか。今更逃げられないだろうし。じゃあ教室で待ってるから、なるべく早く帰って来て。ね、美緒」
「・・・・・はいぃ」
興味津々の生徒達に見送られ、三人は出て行く。
一人残った蓮は、周りの視線など全く気にせず、ノートを開いて勉強を始めた。