第40話
朝、目が覚めると、目の前に顔があった。
「うぎゃあ!」
思わず叫んだ美緒に、顔を覗き込んでいた蓮が眉を寄せる。
「うるさいよ、美緒」
「うう・・・!呼び捨て!」
美緒は目を擦りながら、身体を起こした。
「何勝手に、乙女の部屋に入ってるんですか」
「弟君、帰ってないよ」
「ああ・・・」
昨日、あれから美緒は蓮と大上家に帰って来たのだが、そこに優牙の姿は無く、代わりにダイニングテーブルの上に二人分の食事の用意と『出掛ける』と一言書かれた置き手紙を見つけたのだった。
「たま〜にあるんだよ。出掛けたまま帰って来ないこと」
「ふーん。ほら、遅刻するよ。早く着替えて」
蓮は美緒を立たせ、パジャマを脱がす。
制服を着せられながら、美緒は溜息を吐いた。
「優牙にバレたら、怒られるんだろうな」
ビクビクしながら帰った昨日、優牙が居なくて正直ホッとしたのだ。
貴重な狼女である自分が人間の彼女になったなど、家族、特に父親に知られたら大問題だ。
下手すれば、狼男と強制結婚させられる可能性もある。
「話せば分かってくれるよ。愛し合う一人と一匹を引き離す事など、誰にも出来ないさ」
「・・・愛していましぇん」
うなだれる美緒の手を握り、蓮は部屋を出て一階へと降りて行く。
「顔洗って、歯磨きして」
「はいぃ・・・」
準備を整え、美緒はテーブルの上のパンを手に持つ。
それを齧りながら家を出た。
学校に着き、蓮に手を引かれて教室に入ると、二人に気付いた愛が片眉を上げた。
「おはよう。手を繋いで登校なんて、仲がいいのね」
「うぅ、愛ちゃん助けて・・・」
「僕達、交際する事にしたんだ」
「・・・・・」
愛はチラリと美緒を見て、口角を上げる。
「そう、おめでとう」
「ありがとう」
「大変よ。色々と・・・ね」
蓮が目を細める。
「色々と・・・、ねえ。まさか君もお仲間かい?」
髪を掻き上げ、愛は笑う。
「フフ・・・。さあ?狼では無いわ」
「ふーん。じゃあ興味無いな」
蓮は肩を竦め、美緒を引き摺って席に向かった。
「愛ちゃん・・・!」
縋るような目の美緒を、愛は優しく見つめた。
「お似合いよ」
「・・・・・!」
衝撃の一言を浴びせられ、美緒の身体から力が抜ける。
「美緒、ほら座って。教科書ノート出して」
「・・・・・」
美緒は椅子に座り、机に突っ伏す。
「美緒!」
「捨てられた。愛ちゃんに捨てられた・・・!」
そんな二人を見ながら、生徒達がコソコソと話す。
そして、『実は身体だけの関係だった二人が、正式に付き合いだした』という噂が、学園中を駆け巡った。




