番外編 神秘の宇宙
PV10万突破しました。ありがとうございます。
第29話の夜のお話です。
真夜中―――――。
眠っている私の耳に、コンコンと小さな音が聞こえた。
目を開けて窓際に行き、カーテンを少し開けると、そこに狼が立っていた。
「優牙様・・・」
「コロ、出て来れるか?」
私は頷き、玄関脇にある私専用の出入口から庭に出た。
「コロ・・・」
優牙様はいたわるように、私の頭に前足で触れる。
「今日は、その・・・、大変だったな」
朝の出来事を言っているのだろう。
私は首を振り、微笑んだ。
「いいえ・・・」
「身体は洗ってもらったか?」
「はい。美也子様が洗ってくださいました」
すると優牙様は、何故か大きく目を見開いて、私を見つめた。
「どうされました?」
「コ、コロ。お前、今なんて・・・」
どうされたのだろう。
私は首を傾げ、もう一度同じ事を言った
「美也子様が―――――」
「美也子様!?」
優牙様は大きな声で私の飼い主の名を言ったまま動かなくなった。
「優牙様?優牙様!」
優牙様はハッと気付いて、私の身体を揺さ振った。
「どうしたコロ!」
「何がですか?」
「美也子『様』だなんて!おまけにその言葉遣いは・・・!お前、どうしちまったんだ!」
あぁ・・・。
私は首を振り、空を見上げた。
輝く無数の星に、笑みを浮かべる。
「宇宙を・・・、見たのです」
見知らぬ男に襲われたあの後、目を覚ました私は驚いた。
真っ暗な場所に、私の身体は浮いていた。
周りには、キラキラと輝く光り。
そして遠くに見える、一際美しい青い星―――――。
私は理解した。
ここは宇宙なのだと。
「以前の私は、なんと小さな犬だったのでしょう。なんでも思い通りなると粋がっていたあの頃、今考えると、恥ずかしい限りです」
「コロ!」
「この大宇宙で、私の存在など塵に等しい」
「おいコロ!」
「生きている事、それだけで奇跡。すべてに感謝です」
「コロ!意味が分かんねーぞ!しっかりしろ!」
それはあなたが、まだ見ていないから。
「いつか、優牙様も見る事が出来るといいですね。あの神秘的な宇宙の姿を」
「コロ・・・!」
優牙様は、私の頬に自分の頬を押し付けて、身体を震わせた。
「俺がいつか、必ず仇を取ってやるからな」
なんの話なのだろう?
「仇・・・?やめて下さい。乱暴な事は」
「コロ・・・」
優牙様は悲しい顔をして、私の頬を舐めて帰って行った。
私は専用の出入口から家の中に戻り、一つ欠伸をして、目を閉じた。
瞼の裏に、あの時見たのと同じ、神秘的な宇宙の姿が見えた・・・。