第38話
「わ・・・、わん?」
「・・・・・」
「なんちゃって~!じゃあ、私、帰るね。ごちそうさまでした」
ベッドから飛び降りようとする美緒を、蓮がガッシリと掴む。
「うぎゃあー!手品、手品、トリック!種も仕掛けもあるのでしゅ!今から人間に戻ってみせますので、暫し時間をください!」
叫ぶ美緒をベッドに押し倒し、蓮は涙を流す。
「そうか!そうだったのか・・・!」
「何が!?」
「こんなに近くに居たのに、僕は馬鹿だ」
蓮は美緒の額に唇を押し付け、頬擦りをする。
「愛する僕に会いたいが為に、人間に変身していたのだね」
「あう!逆!」
「『正体がバレたからには、もうここには居られません』って言うのだろう?」
「それって『恩返し』的なやつ!?違うでしゅ!布は織りましぇん!」
「離さないよ!」
「いやあー!離してー!」
蓮がベロベロと美緒の顔を舐める。
美緒の背筋に悪寒が走った。
「嫌!嫌!嫌いー!!」
「―――――!!」
蓮がハッと目を見開き、動きを止める。
「嫌い・・・?」
「嫌いでしゅ!」
「・・・・・!」
蓮は美緒から手を離し、ヨロヨロとしながらベッドを降りてへたり込んだ。
「そんな!やめてくれ!嘘だろハニー!」
美緒はホッと安堵して、蓮を睨み付けた。
「許可無くペロペロする人は嫌いでしゅ!話を聞かない人も嫌いでしゅ!」
「・・・・・!」
ガクリと肩を落とし、蓮は頭を下げた。
「ごめん。そうだよね。僕、再びハニーに会えた事が嬉しくて・・・。ハニーの気持ち考えて無かった」
蓮が顔を上げる。
「ペロペロしても、いいかい?」
「駄目でしゅ!」
美緒は枕をくわえ、蓮に投げつけた。
「ハニー・・・」
「ハニーじゃありません。美緒です!それに犬でもありません!」
「え・・・!?」
目を見開く蓮に、美緒は鼻息荒く言う。
「私は狼!狼女でしゅ!!」
「ええ!?・・・って、狼も犬も一緒じゃないか」
「違います!」
「どっちでもいいよ。僕は君が好きなんだ」
「何ですか?その曖昧さは!犬にしか恋愛感情抱けないって言ってたくせに!」
性懲りも無く伸びてきた手を、美緒はガブリと咬んだ。
「うう・・・!痛くないぞ・・・!」
蓮は、咬まれている手はそのままに、もう一方の手で、美緒を抱き締める。
「ウウーッ!」
唸る美緒の身体を撫で回した。
「愛してる!愛してるんだ・・・!」
蓮がまたもや美緒を舐めようとした時―――――。
「あ・・・・・」




