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第37話

「わ、私が居るーっ!?」

 美緒は驚きのあまり、ペタンと床に座り込んだ。

 部屋の中に、狼に変身した自分が居る。

「な、何で私が二人!?」

 しかし、もう一人の自分のところ迄ソロソロと這っていき、気付いた。

「あれ・・・?これって・・・」

 動かない。視線が合わない。

 つまり、生きてはいない。

「に、人形!?」

 自分そっくりに作られた、等身大人形。

 しかも、毛にそっと触れると、間違いなく自分と同じ感触。

 美緒はハッと思い出した。

 蓮に盗まれた毛・・・。

「嘘・・・!?」

 人形の毛を掻き分けると、一本一本丁寧に、ボンドで貼り付けられた後があった。

「た、匠の技・・・?何という事でしょう」

 唖然とする美緒だったが、その間にも変身は進む。

「うぅ・・・!と、取り敢えず籠城」

 ドアを閉め、運良く鍵付きだったので、しっかりと鍵を掛ける。

 ホッと息を吐いた時、蓮の声が聞こえた。

「大上さん?どこ?」

 リビング側から、ドアを順に開け閉めする音が近付いてくる。

 そして遂に、美緒が居る部屋のドアを、蓮が開けようとする。

「あれ?鍵・・・?」

 ドキドキしながらドアを見ていると、突然ドンッと大きなノックの音がして、美緒は飛び上がった。

「大上さん、まさか僕のハニー人形に、イタズラしている訳では無いだろうね」

 低い低い、唸るような声音に、美緒は恐怖に震えた。

「大上さん・・・?」

 美緒は思わず後退りする。

「や、ヤバいでしゅ。もの凄くヤバい気配がするでしゅ」

 どうしようかとキョロキョロと見回して、窓に気付く。

「あ・・・!そうだ!あそこから・・・」

 変身して窓から逃走しよう。

 美緒は急いで制服を脱ぎ始めた。

「急げ急げ」

 そして最後の一枚、ブラジャーを脱ぎ捨てた時、事件は起きる。


 ビーーーーーッッ!!!


「えぇえ!?」

 突然鳴り響く音。

 美緒はその発生源である、自分の胸元を見る。

「防犯ブザー!!」

 愛に貰った防犯ブザーを、美緒は言い付け通り、首に掛けていたのだ。

「何でこんな時に・・・!これどうやって止めるの!?」

 止め方が分からずパニック状態の美緒に、更に不幸が続く。


 カチャ―――――。


「え!?」

 鍵が開いた!

 既に下半身は狼になってしまっている。

 咄嗟に目の前にあるベッドの中に潜り込んだ。

「大上さん!」

 頭からすっぽり布団をかぶり震える美緒の耳に、ドアが開く音が聞こえる。

「よかった。ハニー人形は無事か」

 蓮が呟きながら美緒に近付き、背中を布団越しにポンポンと叩いた。

「大上さん、何やってるんだい?近所迷惑だから、このうるさい音も止めてくれないか」

「・・・・・」

「大上さん!」

 蓮が布団を引っ張る。

「ああ!駄目!」

 ギュッと布団を握りしめたが、力でかなう筈も無く、美緒の上半身は剥き出し状態になった。

「・・・・・!」

「あうぅ・・・」

 蓮が目を見開き、美緒が俯く。

「・・・・・」

「・・・・・」

 蓮は美緒の胸元に手を伸ばし、防犯ブザーを止めて、深く溜息を吐いた。

「ごめん・・・」

「え・・・?」

 顔を上げた美緒を、蓮が強く抱き締めた。

「大上さんの事は、大好きだよ。でも、こういうのでは無いんだ」

「・・・はい?」

「僕にはハニーが居る。君の想いには応えられない」

「ええと・・・」

「本当に、ごめん」

「・・・・・」

 激しく誤解されている。

 しかも、抱き締められて身動き出来ない。

「佐倉くん、離し―――――、ああ!」

 上半身が縮む感覚。

「え!?」

 蓮が目を見開く。

「ああああーーーっ!!」

 絶望的な悲鳴が響き、美緒は蓮の目の前で、口が尖り、毛が生え・・・。


 ―――――狼になる。


「・・・・・」

「・・・・・」

 もう、どう足掻いても、隠しようが無い。

 呆然とする蓮を、美緒は首を傾げて上目遣いで見た。


「わ・・・、わん?」


 美緒は蓮の目を見つめ、可愛らしく吠えた。


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