第36話
蓮のマンションには、沢山のお菓子とジュースが用意してあった。
「うわーい!食べ放題!」
次々に頬張る美緒を蓮が笑う。
「大上さんは、本当にお菓子が好きだね」
「うん」
「ケーキもあるよ」
「食べるー!」
蓮は冷蔵庫からケーキを出して、皿にのせて美緒に渡した。
いつの間にか、蓮の家には食器が増えた。
しかもそれらのほとんどは、美緒が落としても大丈夫なように、プラスチック製である。
それだけではなく、勉強する為のセンターテーブルや、テレビ、ソファー等も揃えられ、初めて美緒が訪れた時とはまるで別の、生活感溢れる部屋になっていた。
「美味しいねー」
「そうだね」
「一仕事終えた後のケーキは格別だね。やっと勉強から解放されるよ」
「・・・ん?」
蓮が首を傾げる。
「あれだけ出来れば、三年生も一組確実だね」
うんうんと頷く美緒に、蓮は眉を寄せた。
「・・・もしかして、もう勉強しなくてもいいと思ってる?」
「へ!?」
キョトンとする美緒を、蓮が軽く睨んだ。
「大上さんは、意外と理解力はあるけど忘れっぽいんだから、繰り返し勉強しないといけないよ。もうすぐ受験生になるんだから」
「受験生・・・?」
「大学受験!同じ学園と言えど、推薦入試に合格しなければ進学出来ないんだよ。まさか知らなかった訳じゃ無いよね。高校進学の時もそうだっただろう?」
美緒は「えーっと・・・」と思い出そうとしたが、まったく記憶に無い。
「しっかり勉強しないと、希望する学部に入れないよ。大上さんにだって、将来なりたい職業があるんじゃないのかい?」
「ええ?そんな先の事―――――」
「考えて無いって?駄目だよ、そんなんじゃ。だいたい君は・・・」
蓮はテーブルを叩きながら、話し続ける。
「うぅ・・・。説教じじい」
「何だって!?」
「うひゃあ!!」
目を吊り上げて笑う蓮に美緒が恐怖で固まった時、テーブルの上に置いてあった携帯電話が震えた。
「さ、佐倉くん、電話だよ」
蓮は携帯の画面を見ながら舌打ちする。
「ちょっとごめん」
電話に出ながら立ち上がった。
「ああ、元気」
美緒に気を使ったのか、話ながらベランダへと行く。
「うぅ・・・。助かった」
美緒は、テーブルに突っ伏しホッと安堵して、テレビでも見ようかとリモコンを手にする。
チャンネルをあれこれ替えながら、ソファーに寝転がろうとした。
が、そのまま動きを止めた。
―――――来る!
「うぎゃ!マズい!」
美緒は慌ててリモコンを置いて立ち上がり、鞄を掴んだ。
蓮を見ると、こちらに背を向けた形で、まだ電話をしていた。
「い、今のうちに逃げるでしゅ・・・!」
そっとリビングを出て玄関迄行ったが、そこで既に足が変身し始めている事に気付いた。
「靴が履けない・・・!」
もう間に合わない。
焦った美緒は、ちょうど目の前にある玄関入ってすぐの部屋のドアノブを掴む。
「ろ、籠城、籠城!!」
取り敢えずこの部屋に籠もろうと考え、ドアを開けたのだが・・・。
「わ、私が居るーっっ!!?」
驚愕のあまり、美緒は腰を抜かした。