第34話
学年末テスト初日。
「いいかい?教えた事を思い出して、落ち着いてやれば、必ずいい点が取れるからね」
「うん」
「君はやれば出来る子だ。学年十位以内に入ったら、お菓子を好きなだけ買ってあげるよ」
「うんうん」
蓮が美緒の頭を撫でて離れ、三好がテストを配る。
「はい、テスト始め」
三好の合図で生徒が一斉に問題を解き始めた。
教室にはカリカリとペンを走らせる音だけが響く。
「おおぉおおー!!」
「――――――!!」
「――――――!!」
皆が集中しているなか、突然美緒が大声をあげて立ち上がる。
生徒達は身体をビクリと震わせ、驚いて美緒を見た。
「うるさいぞ!大上!」
三好が飛んで来て、美緒のおでこを軽く叩いたが、当の美緒は大きく口を開けて、テスト用紙を見つめていて反応を返さない。
「おい、大上・・・」
「分かる!分かるのです!すごい!今までテストなんて、勘で答えを書いたことしか無いのに」
「分かったから座れ」
「素晴らしい!努力は実るものなのです。問い三の答えは―――――むぐっ」
三好は美緒の口を手で塞ぐと、教室の外へと引き摺り出した。
「ううう・・・」
苦しそうにする美緒に、三好は厳しい表情で告げた。
「いいか、大上。努力してるのは、お前だけではない。他人の迷惑になるような行為はやめろ。テスト中、もしまた奇声を発したり、立ち上がったりしたら、すべての教科0点にするぞ」
美緒が驚愕して三好を見る。
三好は美緒の口から手を離し、頭を撫でた。
「うぅ・・・。0点は嫌」
「頑張ったんだよな。偉いぞ。先生、こんなにやる気がある大上見るの初めてだ。十位以内に入って、佐倉にお菓子買ってもらえ」
菓子という言葉に、パッと顔を輝かせる美緒を、三好が笑う。
「うん!買ってもらう」
「じゃあ静かにテスト受けろ」
「うん!」
「佐倉が好きか?」
「うん!」
「よし、行け」
「うん!」
教室に戻っていく美緒を見ながら、三好は苦笑した。
椅子に座りテストに集中する美緒を、蓮が心配そうにチラリと見る。
そんな二人を愛が見ている。
「うーん。青春だね」
不意に後ろから聞こえた声に、三好が片眉を上げた。
「来ていたのですか。珍しい」
三好の後ろに立つ背の高い青年、一見生徒のようだが、実はこの学園の理事長である。
理事長は赤い唇を少し上げ、目を細めて蓮を見た。
「ああ、やはりあの子は教師に向いているな」
「そのようですね。あの大上を、やる気にさせるくらいですから」
「楽しみだな」
踵をかえす理事長に、三好が振り向いて訊く。
「もう帰るのですか?」
「いや、生徒達を見て回るよ。若い子が頑張る姿は、何百年見ていても、飽きないな」
ヒラヒラと手を振り去っていく理事長を見送り、三好も教室の中へと戻った。