第31話
「なんで連れて来るんだよ!朝のおぞましい出来事を忘れたのか?俺の忠告をちゃんと聞け。いつかお前もコロみたいに、全身舐められまくるぞ」
優牙が美緒を説教している隙に、蓮は素早く家に上がりこみ、中を見てまわる。
「・・・居ない」
しかし当然『ハニー』の姿は無く、蓮は肩を落としてソファーに身を投げ出した。
「おいこら変態。何勝手に寛いでやがる?帰れ」
優牙が蓮を踏みつけようとする。
しかし蓮は軽く身を捻り、それをかわした。
「・・・そう言えば、君たちの両親は、警察官なんだよね。もしかして、ハニーは警察犬なのかい?」
「ああ?そんなわけねーだろ。馬鹿は警察犬になんてなれねーよ」
「僕のハニーを侮辱する気か!?」
激昂した蓮が優牙に掴み掛かろうとする。
優牙は舌打ちしながら蓮の手を払いのけ、キッチンへと行き、菜箸で鍋の中身をぐるぐるかき回す。
「ハニーは特殊任務中で、僕に会う事が出来ないのでは?」
「何だそりゃ。刑事ドラマじゃねーんだから・・・」
「警察犬は、うちの両親だよ」
「・・・・・」
「・・・・・は?」
テレビのリモコンを握りしめ、あれこれチャンネルを替えている美緒を、蓮が理解不能といった感じで見る。
観たい番組が無かったのか、リモコンをセンターテーブルに投げて、美緒は蓮の方を向いた。
「いや、だから、特殊任務専門の警察犬、ってゆーか警察オオカ―――――うぎゃあ!」
飛んで来た優牙が、熱々のじゃが芋を、美緒の口の中に放り込む。
美緒はあまりの熱さに、床の上をのた打ち回った。
蓮が不思議そうに首を傾げる。
「両親が警察犬・・・?トレーナーということかい?」
「・・・まあ、そんなようなもんだ」
優牙は美緒の襟首を掴みキッチンに連れて行き、口の中に氷を詰め込む。
「うう、口の中の皮がベロベロ・・・」
涙目の美緒を睨み付けながら、優牙は小声で忠告する。
「喋り過ぎだ。あの変態が、人外に害を及ぼすような奴だったらどうする?俺達の正体バラすのは、まだ早すぎる。分かったか?」
「はいぃ・・・」
「お前、警戒心がどんどん薄れていってるぞ。気を付けろ」
「はいぃ・・・」
優牙は溜息を吐くと、美緒をキッチンから追い出した。
「・・・メシにするぞ」
「はいぃ・・・」
ノロノロと椅子に座る美緒の横に、蓮が座る。
「今日のおかずは何かな?」
「食ってくのかよ!!」
怒鳴りつつ、優牙は茶碗をもう一客、食器棚から出した。