第30話
足をふらつかせ、息も絶え絶えに教室に入ってきた美緒に、愛が眉を寄せる。
「なんだか、今日は一段と激しいわね」
「ううう・・・。泥棒がストーカーから変態に超進化」
「何それ?」
愛は首を傾げながら、制服のポケットから振動している携帯を取り出した。
「優牙からメール。『変態に気を付けろ』・・・って何これ?姉弟揃って意味不明。あんた達ってこういう所、そっくり―――――、おはよう。佐倉」
愛の言葉に、美緒が振り向く。
「ヒィィ!あっち行けでしゅ!」
「そんな酷い・・・。おはよう。河内さん」
蓮は警戒する美緒に苦笑して、愛に挨拶を返した。
「はい、どうぞ」
蓮が美緒の目の前に、ジュースを差し出す。
「走ったから、喉渇いたよね」
爽やかに笑う蓮。
美緒は一瞬手を出そうとするが、ハッと気付き、慌ててそれを引っ込めた。
「駄目でしゅ!『変態は接触感染する』って、優牙が言ってたのです!」
ブンブンと激しく首を振って、美緒は両手を身体の後ろに隠した。
「へえ。『変態』って佐倉の事なの?」
興味津々といった感じで顔を覗き込む愛に、蓮は首を横に振った。
「違うよ。僕は自分に正直に生きているだけだよ」
「正直・・・ね」
顎に人差し指を当てじっと見てくる愛に蓮は笑って、美緒に向き直った。
「それより大上さん、このジュース、飲まないなら僕が飲んじゃうよ」
蓮が、美緒の目の前でジュースを左右に揺らす。
それに合わせて、美緒の顔も左右に揺れる。
「うう・・・」
「いいのかな?」
「ううう・・・」
美緒はひったくるように蓮からジュースを取ると、キャップを開けて勢いよく飲み始めた。
「よしよし。いい子だね。弟君は冗談を言っただけだよ。ほら、触ってるけどなんともないだろう?」
蓮が美緒の頭を撫でながら、優しく言う。
「う・・・、うん」
「君はハニーへと繋がる大切な糸だよ。切れたら困るんだ」
「うん??」
「さあ、席に着こうね」
「うん」
蓮に連れられ席へと向かう美緒に、愛は呆れてしまう。
「お馬鹿・・・」
愛は呟いて、美緒と蓮を暫く見ていたが、やがて溜息を吐いて、テスト勉強をする為にノートを開いた。
そんなふうに、食べ物を与えられたり、怒られたり、誉められたり・・・を繰り返されながら、美緒は放課後蓮の家に行き、帰りは自宅まで送ってもらった。
「だから!何でそいつを連れて来るんだよ!!」
「あうう!痛い!!」
優牙は持っていたお玉を、美緒の顔面に投げつけた。