番外編 「姉ちゃんと自転車」 後編
「ああー!私の自転車がー!!」
たった一晩で、完全復活しやがった・・・!
壊れた自転車を擦りながら、涙を流している姉ちゃん。
治癒力はラスボス級だな。
『選ばれし勇者』じゃないと、もう倒せないに違いない。
「うう・・・。お父さん、もう一台買ってくれるかな」
「ふざけるな!」
まったく懲りてない様子の姉ちゃんの頭を、鷲掴みにする。
「痛い痛い痛いー!!」
ああ、腹が立つ!
そうして姉ちゃんの頭をブンブン振り回していると、家の前で車が急停止した。
・・・なんだ?
車から出てきた男性・・・昨日姉ちゃん轢いた奴じゃねーか。
男性は姉ちゃんを見て、驚愕している。
そりゃそーだ。
あれだけの怪我して、翌日には元気なんて、人間じゃあり得ねーもんな。
「げ、元気そうで・・・良かった・・・です」
この男性、姉ちゃんの事が気になって、捜し回っていたらしい。
病院に問い合わせても、手掛かりが得られず、現場周辺で『血まみれの女の子を担いだ男の子』で聞き込んで、うちに辿り着いたとホッとした様子で語っていた。
「良くないでしゅ!私の自転車弁償して下さい!」
「お前は!自業自得だろう!」
姉ちゃんの頬を摘んで思い切り引っ張る。
「痛い痛い痛いー!」
人様に迷惑掛けやがって!
「わ、分かりました」
・・・え?
俺が振り向いた時には、男性は既に車に乗り込み、行ってしまっていた。
おいおい、要らねーぞ、自転車。
しかし、暫くすると、トランクに無理矢理自転車を載せた車が帰ってきた。
ありがた迷惑だ!
「わーい!自転車!自転車!!」
喜ぶ姉ちゃんの姿に安堵して、男性は何度も頭を下げて帰って行った。
「優牙!優牙!乗ってみたい!!」
「・・・お前はホント馬鹿だな」
俺は自転車を持ち上げると、玄関のドアを開けた。
「え!?優牙、何するの?」
「没収」
「ええー!?」
喚く姉ちゃんを無視し、俺は自転車を屋根裏部屋に運んだ。
リサイクルショップに売るのは、買ってくれた男性に悪いような気がするし、かといって庭に置いておけば、駄目だと言っても姉ちゃんは絶対に乗る。
これ以上よい解決法が、俺には思いつかなかった。
結局、その後数年間自転車は放置され、『勇者』の手に渡った。
勇者・・・?いや、間違えた。
あいつは『変態』だ!!