番外編 「姉ちゃんと自転車」 前編
PV5万突破しました。ありがとうございます。
24話に出てくる自転車のお話、優牙視点です。
春休みのある朝、俺は目が覚めるとすぐ着替え、朝食を作る為に階段をおりた。
学校がある日は時間が無いので、前日の残りなどを朝食とするが、休みの日は作る事ができる。
洗面所で顔を洗い、今朝は何にしようか・・・と思いながら、リビングのドアを開け、俺は驚愕した。
「・・・あの馬鹿親父!」
リビングのど真ん中に置かれた不吉極まりないもの。
『自転車』だ。
ご丁寧にハンドルにリボンまで結んである。
高校生になった姉ちゃんが、自転車を欲しがって父さんに強請っていたのは知っている。
だが俺の猛反対で、その話は無くなった筈だ。
姉ちゃんに自転車なんて与えても、事故を起こすだけなのに。
だいたい父さんは姉ちゃんに甘すぎる。
そして、とばっちりを受けるのは俺だ。
俺は自転車を外に運ぶ為、持ち上げる。
姉ちゃんに見つかる前に、リサイクルショップに売ってしまおう。
しかしその時、二階から物音が聞こえた。
休日は遅い時間にしか起きない姉ちゃんが、よりによって今日のような日に限り、早く目覚めたようだ。
自転車を売り払う計画は、諦めざるを得ない。
俺は思わず舌打ちした。
姉ちゃんが軽快に階段を降りる・・・と思ったら、ドカドカと派手な音。
絶対階段から落ちた。
しかも、漫画みたいにゴロゴロと転がり落ちた筈だ。
リビングから出てみると、思った通り、姉ちゃんは階段の下で丸くなって唸っていた。
「うう・・・、痛い」
ヨロヨロと立ち上がり、俺に気付く。
「優牙。おはよー」
「おはよう」
「今日の朝御飯は何かなー?」
慣れとは恐ろしい。
階段から落ちたぐらいでは、もうお互い何も感じなくなってしまった。
「・・・まだ何も作ってない」
「ええー!?」
俺は素早く姉ちゃんの頬を摘んで引っ張った。
「いひゃい、いひゃい!」
食う専門のくせに、文句言いやがって!
俺が手を離すと、姉ちゃんは涙目で頬を押さえた。
溜息を吐き、嫌々ながらリビングに入る俺に、姉ちゃんも続く。
「おおぉおおー!?」
ああ、予想通り。
姉ちゃんは歓声をあげながら、自転車に触りまくる。
無邪気にサドルに頬擦りまでしている。
「優牙!優牙!乗ってみたい!!」
「まず着替えて顔を洗え。練習はメシを食ってからだ」
「えー!」
頬を膨らませ、不満気な表情の姉ちゃんを睨む。
すると、渋々服を脱ぎ始めた。
「ここで脱ぐな!」
羞恥心って言葉を知らないのか!
姉ちゃんを廊下に蹴り飛ばし、俺は朝食を作る為に腕まくりをした。