表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/130

第29話

 美緒の横を風が駆け抜ける。

 驚く美緒と優牙の目に映ったのは、少し離れた場所でお座りしているコロに、一直線に走っていく蓮の後ろ姿だった。

「はああああー!!」

 蓮は気合いと共にアスファルトを蹴り、コロに向かってスライディングする。

 危険な気配を感じたコロが、逃げようとしたが既に遅く、コロは蓮に強く身体を抱き締められた。

「可愛い、可愛い!コロちゃん、ハァ、コロちゃん!」

 蓮はコロを撫でまわし、顔をベロベロと舐めまくる。

「キャインキャインキャインキャキャキャキャキャーッ!!」

 大きな目を更に見開き、コロが悲痛な叫びをあげる。

「きゃあー!!コロちゃん!コロちゃんー!!」

 石田夫人も絶叫しながら、コロに駆け寄る。

「やめてー!何するのあなた!」

 石田夫人が蓮の制服を掴んで引っ張り、ボタンが弾け飛び道路に散らばった。

「コロちゃん!可愛いコロちゃん!ハァ、ハァ、ハァ!」

 悲鳴をあげるコロと石田夫人。

 それでもコロを舐めまくる蓮。

 目の前に広がる地獄絵図に、優牙と美緒は呆然とした。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・おい」

「・・・え?」

 優牙はゆっくりと腕をあげ、蓮を指差した。

「あれは何だ?」

「え・・・っと、コロを激愛・・・?」

 優牙は美緒の胸ぐらを掴んで、顔を触れる程近づけた。

「何なんだあいつは!すげー舐めてるぞ、気味悪い!」

「いや、私に言われても・・・」

「普通じゃねーよ、あいつ!ヤバいぞあれは!」

「優牙、そんなに引っ張ったら苦しい!」

 優牙は手を離すと、美緒の肩を掴んだ。

「行くぞ。あいつには金輪際関わるな」

 その時、コロが一層高い悲鳴をあげた。

 ハッとして振り向いた優牙と美緒が見たのは、遠い目をしたコロと、泣き崩れる石田夫人と、輝く笑顔の蓮だった。

 蓮はコロを抱き上げ、石田夫人に渡す。

「はい。ありがとうございました。可愛いですね、コロちゃん!あれ?どうしたんですか?そんなに泣いて」

 蓮がポケットからハンカチを取り出して差し出したが、石田夫人はコロを抱き締め、泣きながら走り去った。

 蓮は首を傾げてそれを見送り、ふと思い出したように美緒と優牙に視線を向けた。

「あれ?弟君もどうしたんだい?そんな怖い顔して」

 蓮が二人に近付こうとする。

「寄るな!あっち行け!」

 美緒を庇うようにして、強く嫌悪感を示す優牙に、蓮はハッと気付いて、慌てて両手を振った。

「ああ!違うんだ!僕が愛してるのはハニーだけだよ!あれはちょっとした挨拶と言うか、コロちゃんとコミュニケーションを取っただけで、決して浮気とかじゃないんだ!大体コロちゃんは男の子だよ。僕にはそういった趣味は無いから!」

 優牙が顔を顰めて後ろに一歩退く。

「姉ちゃん、あいつは何を言っているんだ?」

「いや、だから私に訊かれても・・・」

 優牙は美緒の肩を抱く手に力を込め、蓮から顔を背けて歩きだす。

「行くぞ。奴とは目を合わせるな」

 優牙の早足に引き摺られ、美緒は小走りになる。

「ちょっと待って大上さん。急に走ってどうしたんだい?」

 乱れた服を整え、道路に落ちたボタンを拾いながら、蓮が二人を追いかける。

「寄るな変態!!」

 優牙が歯を剥き出しにして威嚇する。

「おおう、佐倉君、『泥棒・ストーカー・変態』なんて、見事な三重苦」

「こら、話しかけるな。変態が伝染るぞ」

 後ろを振り向いた美緒の頭を掴んで無理矢理前に向かせ、優牙は更に足を速めた。

「変態って、伝染るの?」

 美緒は走りながら、不思議そうに優牙を見上げる。

「姉ちゃんは馬鹿だから、伝染る」

「えー。それはやだなー」

「おい、走るぞ」

「ええーっ!?」

 美緒の抗議の声は無視され、学園まで三人は全速力で駆けたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ