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第3話

「・・・おはよー、愛ちゃん」

 二年一組の教室―――。

 机に座り、一限目の授業の予習をしていた河内愛かわちあいが、顔を上げた。

「おはよー・・・って美緒、また?」

 愛は呆れたように口を開けたまま、美緒の全身を眺めた。

 泥だらけの制服に、ボサボサの茶色い長い髪、擦り剥いた膝は血が滲んでいる。

「いやー・・・だってさー・・・」

「ああ、ちょっとやめて。何があったかなんて聞くだけ無駄。時間がもったいない」

 愛は机に向き直ると、教科書に視線を戻した。

「ちょ、ちょっと待って愛ちゃん!」

 美緒は慌ててしゃがみ込んで愛に縋った。

「お願いだよぉ。ちょっとだけ、お話し聞いて」

「なんで?」

「うっ・・・なんでって、うーん・・・話を聞いてもらうだけで、気持ちが楽になるというか・・・」

「誰の?」

「・・・私の」

「私にメリットは?」

「え・・・いや、無いけど」

「残念ね」

「いやいやいや!」

 美緒は愛の膝を揺さ振った。

「友達じゃない!とーもーだーちー!」

「誰が?」

「あ、愛ちゃん・・・」

 美緒の目に涙が浮かぶ。

 それをチラリと見て、愛はペンを置いた。

「冗談よ。泣かないで。聞くからほら、話しなさい」

 愛は美緒の方に体を向け、長い足を組んで、さらに腕組みをした。

 波打つ長い黒髪に、切れ長の目、紅い唇、抜群のスタイル・・・愛は美緒と同じ歳とは思えない程、大人びた美しさの持ち主だ。

 その愛に縋りつく美緒は、まるで女王様に跪く犬のようであった。

「うぅ・・・今日はね、朝からいい感じだったんだよ。早く起きれたし、階段からも落ちなかったし・・・それが、外に出たとたん、石田さんちのコロが・・・散歩してて・・・」

「石田さんのコロって、あぁ、あのバカ犬?で、まさか襲われたとか?」

「・・・うん」

「まったく、信じられない。あなたそれでも狼?」

「う・・・」

 美緒がうなだれる。

 愛は美緒が狼人間だと知っている。親同士に交流があり、小さな頃からお互いのことをよく知っているのだ。

「そんなことだから、いまだに変身のコントロールが出来ないんじゃない。精神鍛える修業でもしたら?山にでも籠もって」

「え・・・?私、辛いとかキツいとかは苦手・・・」

「・・・・・・・・」

 愛は静かに立ち上がると美緒の左右のこめかみに拳を当てた。

 グリグリグリグリ。

「痛い痛い痛い痛い・・・」

「美緒、そんなのんきなことばかり言って、いつかひどい目に遭うからね」

「あ、それ昨日優牙にも同じこと言われた!」

 グリグリグリグリ!

「あいつと一緒にしないで!虫酸が走る!」

「い、痛い痛い!愛ちゃんごめんなさいー!!」

 美緒が痛さに耐えかねて叫んだ時、二人の横から声がかかった。

「河内さん、もうやめてあげたら?大上さん、凄く痛そうだよ」


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