第27話
朝、欠伸をしながらリビングのドアを開けた美緒は、いつもならとっくに学校に行っている優牙が、顰め面で昨夜の残りのカレーを食べているので驚いた。
「ええ?優牙、何でいるの?」
優牙はギロリと美緒を睨んで立ち上がり、キッチンに行った。
「居ちゃ悪いか?」
「そうじゃないけど、珍しいから」
椅子に座る美緒の前にカレーを置いて、優牙はドスンと自分も椅子に座った。
「・・・あんまり眠れなかったんだよ」
「何で?」
無邪気に訊いてくる美緒に舌打ちする。
「あいつの事が頭に浮かんで、眠れなかったんだよ」
「あいつ?」
「佐倉蓮だ!」
その言葉に美緒が大きく目と口を開けて驚愕の声を上げた。
「えぇえー!!佐倉君?頭に浮かんで眠れないって、それは恋!?」
「馬鹿が!!」
優牙はスプーンを美緒の額に投げつけた。
「あう!痛い!」
「あいつ、俺より速いなんて・・・!」
美緒は痛む額を押さえ、涙目で優牙を見上げた。
「優牙、悔しかったんだ」
「・・・・・」
優牙は床に落ちたスプーンを拾って、シンクに投げた。
「可哀想に。走りには自信があったのにね。狼なのに人間に負けちゃうなんて、優牙のプライドはズタズタ―――――!」
優牙が美緒の頬を掴んで、思い切り引っ張った。
「いひゃいー!いひゃいー!!」
「・・・次は負けねーよ」
優牙は手を離すと、リビングから出て行こうとした。
「あれ?何処行くの?」
痛む頬を押さえて首を傾げる美緒を、優牙がチラリと見る。
「学校に決まってんだろ?」
「ちょっと待って!」
「はあ?何でだよ?」
美緒は慌ててカレーを口に運ぶ。
「傷心の弟を、一人になんて出来ないよ。お姉ちゃんが一緒に登校してあげまちゅからね」
「・・・・・!」
優牙は美緒に近づくと、怒りでプルプルと震える拳を振り上げた。