第19話
優牙と愛が出て行ったドアを見ながら、三好はクスクスと笑った。
「楽しみだな」
「何がですか?」
プリンを持った美緒が不思議そうに訊いてくる。
「ん?あの二人と一緒に仕事するのが。佐倉もだから、三人だな」
「仕事って先生の?」
「ああ。三人共『教員候補』なんだ。本人達にはまだ伝えてないけどな。理事長は狙った獲物は逃さないから実質的には『教員決定』だがな」
「へー!そうなんだー!」
「そうなんだ。さて、大上、プリンは食べ終わったな。ではお前に大切な話がある。ソファーに座れ」
「・・・・・?」
美緒が不思議そうにしながら、ソファーに座る。
三好は顔から笑みを消して、真剣な表情で美緒に話始めた。
「さて、これからお前には頑張ってもらわなくてはいけない。危険が無いよう先生も気を付けるが、正直学園の外で起こることまでは対処しきれない。分かるか?」
美緒が、うんうんと頷く。
「先日の昇降口での出来事・・・いや、もっと危ない事態になるかもしれない」
美緒が、うんうんと頷きかけて、ピタリと動きを止める。
「・・・先生、昇降口での出来事って?」
「狼の姿で佐倉と鉢合わせただろう?クリームパンを旨そうに食ってたな。その後、襲われてしまったが」
美緒は驚いて目を見開いた。
「せんせー!見てたんですかー!」
「監視カメラでな」
「監視カメラー!?そんなものあるんですか!?」
「あるぞ。設置場所は内緒だがな」
美緒はポカンと口を開けて三好を見た。
「あの時、佐倉を止めに入るか迷ったんだ。異常な犬好きなのは知っていたが、まさか恋愛感情まで抱くとは思ってもいなかったからな。でも様子を見たかったし、服を着たままだったし、まあ大丈夫だろうと判断したんだ。怖い思いさせて悪かったな」
三好は美緒の頭を撫でた。
「うぅ・・・。助けて欲しかったよぅ」
美緒が頬を膨らまして、上目遣いで三好を軽く睨んだ。
「そこで、お前に言っておく事がある」
三好は真剣な表情で、美緒の手をギュッと握り締めた。
「いいか、自分の身は自分で守るんだぞ」
「・・・・・え?」
「男は快楽に流され易い。お前がしっかりしないと、大変な事になるぞ」
「・・・・・はい?」
「まだ高校生だからな。生まれてくる命に責任が持てるようになるまでは、十分気をつけろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
美緒は三好の目を見つめ、ハラハラと涙を流した。
「せんせー。もしかして私ってば、貞操の危機?」
「こら!泣くな!真剣に聞け」
こうして美緒は、三好の保健体育特別授業を受けて、ヨロヨロと教室に戻った。
席に座ってそのまま机に突っ伏す美緒の姿に、蓮が眉を寄せて首を傾げた。
「遅かったね。それに、やけに疲れてるけど、どうしたんだい?」
美緒は少しだけ顔を上げて蓮を見ると、はらはらと涙を流した。
「佐倉くん、幸せ家族計画なのでしゅ・・・」
「・・・は?」
意味は分からないが、泣き続ける美緒の頭を、蓮はそっと撫でたのだった。