第18話
「ヨシヨシ先生!理事長は優牙みたいな少年が好きなんですか!?」
美緒は目をキラキラと輝かせて三好を見上げた。
「美しい理事長に襲われる少年!『学園もの』の定番です!優牙は『言うことを聞かないと退学にするぞ』とか脅されるて、色々されてしまうのです。でも途中から、何故か理事長にときめきを感じてしまい・・・!」
「変な想像してんじゃねーよ!!」
優牙が立ち上がり、美緒の頭を拳で思いきり殴った。
「あうぅ、痛い。・・・こうして優牙は『狼』から『ネコ』になったのであった」
「だからやめろ!」
もう一度美緒を殴ろうとした優牙の手首を三好が掴んだ。
「怒りは分かるが、俺の研究室で流血騒ぎはやめてくれ」
優牙は忌々し気に三好を睨んで、ソファーに戻った。
「・・・愛、なに笑ってやがる?」
愛は口元を押さえて笑いをこらえていた。
「わーい!愛ちゃんにウケたー」
喜ぶ美緒の頭を撫でながら、三好は溜息を吐く。
「いかがわしいことばかり覚えてないで、もう少し教科書に載ってる内容を暗記しような」
「はーい!ねえ、ヨシヨシ先生も理事長に襲われたことある?」
期待の籠もった瞳に苦笑して、三好はポンポンと軽く美緒の頭を叩いた。
「あるぞ。教師になりたての頃、よく襲われた。大上が想像しているようなものではないがな。『健康チェックだ!』とか言って、血を吸われるんだ」
「・・・血?」
美緒がポカンと口を開け、優牙と愛が顔を見合せた。
「・・・ねえ、先生。理事長ってもしかして――――」
「正体は、いずれ会う時のお楽しみだ」
三好は愛の言葉を遮って、しがみ付いている美緒を引き剥がした。
「さて、佐倉の件は納得してもらえたか?」
「・・・・・」
「・・・・・」
愛は髪を掻き上げて、溜息を吐いた。
「パパが承諾済みなら、私はいいけど。具体的には何をすればいいの?」
「基本的には大上と佐倉に任せておけばいいが、今朝先生がやったように、問題があると思った時には何らかの対処をしてくれ。後は気付いたことなどあれば小さな事でも報告してほしい」
「分かりました」
愛が頷く。
「大上弟は、それに加えて家庭での様子なども気を付けて見てやってくれ」
「・・・・・」
優牙は、じっと三好を見た。
「・・・本当に姉ちゃんが危険な目にあうことは無いのか?」
「まったく無いとは言いきれないが、まあ今朝佐倉には注意をしたし、大丈夫だろう」
「当初の計画通り、俺がやったほうがいいんじゃねーか?」
三好はチラリと美緒を見て、また優牙に視線を戻した。
「先生はな、大上のことが心配なんだ。このままでは、ろくな大人にならないのではないかとな。今回の件を乗り越えれば、大上は必ず成長する。先生そう思うぞ」
「・・・・・」
優牙は溜息を吐いて、美緒を見た。
「姉ちゃん、どうなんだ?やれるのか?」
「へ?何が?」
「・・・・・」
優牙はガクリと肩を落として頭に手を当てた。
「せんせー!冷蔵庫にあったプリン食べていい?」
「ああ、いいぞ」
喜んで冷蔵庫に向かう美緒を見て、優牙は立ち上がった。
「・・・もう知らん。勝手にしろ。俺に迷惑かけるなよ」
帰ろうとする優牙を見て、愛も立ち上がった。
「私も教室に戻ります。美緒は・・・」
既にプリンを食べ始めている美緒の姿に、愛は溜息を吐く。
「美緒、先に教室に帰るからね」
そして二人は美緒を置いて、それぞれの教室に戻っていった。