第17話
「うわーん!せんせー、優牙が殴ったー!」
「・・・大上、冷蔵庫の中に入ってるジュースを好きなだけ飲め」
頭を両手で押さえて騒ぐ美緒を冷蔵庫の方へ追いやって、三好は話を続けた。
「大上弟、協力出来ない理由はなんだ?」
「学園の事情は分かるが、俺達が危険を冒してまで協力することは出来ない。特に姉ちゃんは、あれでも貴重な『狼女』だからな。数少ないメスを危険な目にあわす訳にはいかないんだよ」
「・・・成る程」
三好は数回軽く頷いて、腕を組んだ。
「お前のクラス担任の木村先生が、先週から体調不良で休んでるだろう?」
「だから?」
「過労で倒れられたんだ。今この学園の教員は、早朝から夜中まで休む暇なく働いている状態なんだ」
「だから?」
「このままでは、近い将来人外の受け入れをやめることになる」
「・・・・・」
「そうなると困るのは、いずれ生まれるであろうお前達の子供になるな。人外が普通の学校に通うのは大変だぞ」
優牙は三好を忌々し気に睨み付けた。
「なんだそれ。脅してるのか?」
「いや、お願いしてるんだよ。なあ、河内だって困るだろう?」
「・・・・・」
愛は溜息を吐くと、髪を掻き上げて三好を見た。
「・・・パパと相談してから返事でもいいですか?」
「おい・・・」
優牙が眉を寄せる。
「仕方ないでしょ?困るのは確かなんだから」
「でもなあ・・・」
「ああそうだ。大上弟、河内、お前達の保護者には、今回の協力の件、ちゃんと許可をもらってるぞ」
優牙と愛が目を見開いた。
「パパからは何も聞いてないわよ」
三好は口元に笑みを浮かべた。
「俺から話すまで言わないで欲しいとお願いしてたからな」
「そういうことは、もっと早く言えよ!」
優牙は三好が座っている椅子を蹴りあげた。
「すぐ暴力を振るうのは悪い癖だぞ」
「うるせー!・・・でもよくうちの親が許可したな」
「お前達の親にも、学生時代同じように協力してもらったことがあるからな。それに、万が一佐倉が人外を受け入れられない、または、人外の存在を他者に漏らすような事があれば、理事長が責任をもって佐倉と周りの人間の記憶を消去する約束になっている。だから安心していいぞ」
優牙と愛が顔を見合せる。
「・・・記憶を消去?」
「・・・消去って・・・」
「勿論、大上に危険が無いよう注意もするぞ」
「いや、待て待て待て。それより『記憶消去』ってなんだ」
「そういえば、私、理事長って見たことが無い・・・」
眉を寄せる二人に、三好は困ったように頭を掻きながら笑った。
「理事長、最近はあまり表に出てこないからな。物凄い美人だぞ」
「女性なの?」
「いや、男だ。会いたいなら連れて来るぞ。その場合大上弟は、自分の身は自分で守るように。理事長はお前みたいな生意気な少年が大好物だからな」
「・・・大好物?」
優牙が首を傾げた時、冷蔵庫を漁っていた筈の美緒が、勢いよく走ってきて三好の身体に飛び付いた。