第16話
昼休み―――――。
美緒、愛、優牙の三人は、三好の研究室に集まった。
「・・・で?どういうことか説明してもらおうか」
ソファーに足を組んで偉そうに座る優牙と愛に苦笑して、三好は美緒の頭を撫でた。
「あれから怖いことされてないか?」
美緒は眉を寄せて、首を傾げた。
「佐倉くん、煩いことあまり言わなくなったけど、なんかじっと見てくるんだよ。将来はきっと立派なストーカーだよぅ」
「そうか。教え子がストーカーになるのは嫌だな」
笑う三好に、優牙が苛立つ。
「そんなことより、早く話をしろよ!」
「分かった、分かった」
三好は椅子に座ると、真剣な表情で三人を見た。
そんな三好に、優牙と愛も緊張した面持ちで、組んでいた足を戻し、背筋を伸ばした。
「昨夜の職員会議で、今回の件は『このまま様子を見る』ということが正式決定した」
愛と優牙が顔を見合せる。
「・・・何?」
「・・・意味分かんねぇ」
美緒も首を傾げる。
「佐倉はこの学園の『教員候補』なんだ」
愛と優牙が眉を寄せる。
「だから何?」
「それがどうしたってんだ」
「佐倉くん先生になるの?ストーカー先生だね」
三好は棚から菓子の入った籠を取り出すと、美緒に渡した。
「大上、ちょっとこれ食べて静かにしてろ」
「これ全部食べていいの?」
三好が頷いたのを見て、美緒は嬉しそうに菓子を食べ始めた。
「実はこの学園は今、深刻な教員不足に陥っているんだ。この学園の教員になるには特殊な条件があるからな。まず第一に人外が通っているという秘密を守ること。いざという時の判断能力。どんな人外相手でも壊れない強い精神力。勿論文武両道に秀でていなければならない。・・・まあ、その他にも色々あるが、とにかく、そんな条件に当てはまる人物は少ない」
優牙がソファーに深く座りなおし、足を組む。
「――――で?その条件に当てはまったのが佐倉蓮か」
三好が頷く。
「佐倉は元々別の高校に通っていたんだが、偶々この学園の理事長の目に留まり、少々強引に転校してもらったんだ」
愛が「そういえば・・・」と人差し指を顎に当てる。
「佐倉は一年生の途中で転校してきたのよね。この学園では珍しいって話題になったわね」
「そうだな。それで、佐倉をこの学園の教員にする為には避けて通れないことがある。大上弟、何か分かるよな?」
「この世に人外が存在することを教え、受け入れさせる」
「その通り。本来ならお前達が大学に行ってから、大上弟、お前にやってもらう予定だったんだがな」
優牙は目を見開いた。
「俺に?」
「ああ。昨日も言ったが、佐倉は無類の犬好きなんだ。佐倉に近付き友人になり、徐々に人外の存在を理解させる。その役は狼人間がぴったりだが、残念ながら大上姉は変身のコントロールが出来ない」
「・・・で、俺?」
「だがしかし、狼に変身した大上と佐倉が接触してしまい、しかも佐倉の反応が予想以上の激しさだったことから、今後どうするか教員の間でも意見が割れていたんだ。結局最終的には、理事長がこのまま佐倉と大上姉で様子見と判断したがな。ということで、お前達も協力するように。大上のサポートをしてやってくれ」
「・・・・・・・」
優牙は腕組みをして、三好を睨み付けた。
「学園の事情は分かったが、俺達は協力しない」
「ヨシヨシせんせー。ジュースが欲しいなー」
「お前は黙ってろ!」
優牙の拳が美緒の頭に落ちた。