第15話
下駄箱を開けて、既に二足入っている上にぎゅうぎゅうと今脱いだ靴を詰め込んで、美緒は力なく教室へと向かった。
「うぅ・・・。行きたくない」
昨日は何とか蓮から逃げることが出来たが、今日は更に監視が厳しくなるのは間違いないだろう。
優牙や愛の助けは、期待出来そうにない。
本当は美緒は今日、学校をずる休みしようとしたのだ。
だがしかし、よりによって仕事が休みだった母親に仮病があっさりばれて、家の外に放り出されてしまったのだ。
「教室入った途端、縄で縛られたりして・・・」
のろのろと階段を上り、嫌々ながらも教室のドアを開け、そっと中を覗く。
「・・・あれ?」
ところが、蓮の姿は見当たらない。
美緒はほっとして、席に座って勉強している愛に走り寄る。
「愛ちゃん、おはよー!」
美緒の声に顔を上げた愛は、足を組んで髪を掻き上げた。
「おはよう美緒。ダーリンがお待ちかねよ」
「・・・え?」
美緒がぽかんと口を開けた時、目の前に一本の縄が現れた。
「おはよう大上さん。昨日はどうして一人だけ帰っちゃったのかな?」
後ろから聞こえる声に、美緒は慌てて逃げようとする。
「ヒイィィイッ!!」
しかし、身体に縄を巻かれて床に引き倒されてしまう。
「ま、まさかの予感的中!」
蓮は手際よく縄を結びながら美緒を睨んだ。
「これでもう逃げられないよ」
「嫌ー!!愛ちゃん助けてー!!」
縋るような目で美緒は愛を見たが、愛は眉を寄せて手を振った。
「話しかけないで。同類だと思われたくないから」
「そんなー!佐倉くんやめてよぉーっっ!!」
「あの子に会わせてくれないから、こんなことになるんだ。嫌なら今すぐあの子を連れてこい」
「嫌ー!それも嫌ー!」
「それなら仕方ない。さあ、席に戻るよ。立って」
「痛い痛い痛い!!」
ぐいぐいと縄を引っ張る蓮だったが、
「―――――!!」
その頭に突然何かが投げつけられた。
驚いた蓮と美緒が後ろを振り向く。
「ヨ、ヨシヨシせんせー!!」
三好は二人に近付くと、蓮の頭に投げつけた出席簿を拾った。
「やりすぎだぞ、佐倉。」
縄を解くと、三好は美緒の頭を撫でる。
「よしよし、怖かったな。よく頑張った。偉いぞ」
「うわーん!せんせー!!」
縋りつく美緒の背中を宥めるようにポンポンと叩いて、三好は縄を纏めた。
「佐倉、これは没収だ。それと大上は昼休み先生と大事な話があるからな。お前は付いて来ないように。さあ、皆、席に着け!」
三好の言葉に、注目していた生徒達が席に戻っていく。
そんな中、不満気な顔で渋々戻ろうとした蓮の肩を三好が掴んだ。
「いいか、佐倉。厳しくすればよいという訳ではないぞ。大事なのは『飴と鞭』だ」
訝しげに見る蓮の肩を叩いて、三好は前へと歩いて行く。
「出席とるぞー!」
蓮は三好をじっと見て、それから横に座る美緒を見た。
「ヒイイッ!」
怯える美緒の姿を暫く見つめて、やがて頷いた。
「・・・成る程」
「何がですかー!?」
「うるさいぞ!大上」
美緒は机に突っ伏して、溢れる涙を拭い、自分の身に降り掛かった不幸を嘆いた。