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第14話

 ショートホームルームが終わった瞬間、美緒は鞄を持って立ち上がった。

 そのまま出口へダッシュしようとしたが、腕を蓮にしっかりと掴まれてしまう。

「何処行くの?大上さん」

「うぅ・・・、お許しください。家で病気のおとっつぁんが待っているのです」

 蓮は目を細めて美緒を見た。

「・・・嘘でしょ?」

「う・・・、見逃してけろ。腹を空かした幼い弟たちに、おまんま持って帰るって、おら約束しただ」

「何?その怪しい訛り」

「ああ、やめて!お代官様、お許しを!」

「・・・この場合僕は、『よいではないか、よいではないか』と言わなきゃいけないのかな?」

 蓮は呆れ返った眼差しを美緒に向けた。

「大上さん、時代劇観過ぎ」

「うぅ・・・。助けて、暴れたがりの将軍様・・・。いや、もう贅沢言わない。只の旅の隠居でもいいから・・・」

 美緒は虚ろな目で遠くを見つめた。

 三好の研究室を出て直ぐ、廊下で待ち構えていた蓮に引き摺られるようにして、美緒は教室に戻ってきた。

 そこから異常な束縛が美緒を待っていたのだ。

 常に監視されているだけでなく、席からちょっと離れようとするだけでも、椅子に戻される。休憩時間には、復習しろと怒られる。

 それは自由気ままにやってきた美緒にとって、とても辛いことだった。

「馬鹿なこと言ってないで、帰るよ」

 蓮の言葉に美緒はハッと気付いた。そういえば、蓮の家に連行されそうだったのだ。

「嫌ー!!お家に帰るー!!」

 蓮は鞄を持つと、暴れる美緒の襟首を掴んで歩こうとした。

 しかし、美緒は机にしがみついて抵抗する。

「こら、やめなさい!」

「嫌ー!やめてー!!」

 蓮は美緒の身体に腕をまわして、机から引き離そうとした。

 必死で机にしがみついていた美緒だが、男の力に勝てる筈もない。

「―――――あっ!!」

 美緒の手は机から離れ、身体が勢いよく蓮にぶつかった。

 その衝撃で蓮の鞄が床に落ち、中から赤い物体が飛び出して床を滑っていく。

 黒板の前で動きを止めた赤い物体に、教室にいた生徒全員が注目した。

「ああ!いけない!」

 蓮は慌ててそれを拾いに行くと、フウフウ息を吹きかけて、袖で汚れを拭った。

「良かった。傷はついてないみたいだ」

 満面の笑みで戻ってくる蓮に、美緒が頬を引きつらせる。

「・・・何ですか?それは」

 美緒の質問に、蓮は笑顔で赤い物体を見せた。

「可愛いだろ?きっと似合うと思うんだ!」

「・・・誰に?」

「やだなあ、聞かなくても分かるだろう?」

 蓮が持っている赤い首輪を愛し気に撫でる。

「早くこの首輪をはめた姿が見たいよ。ああでも可愛いくなりすぎて、他の男に狙われたらどうしよう」

 美緒の背中にゾクゾクと寒気が走る。

 教室のあちこちから「うわぁ・・・」と、ドン引きする声が聞こえた。

「い、嫌ーっっっ!!!」

 美緒は叫びながら、教室を飛び出した。

「あっ!待て!!大上さん!」

 蓮がその後を慌てて追いかる。

 美緒は階段を一階まで一気に駆け降りると、昇降口に向かおうとした。

「逃がさないよ!」

「ヒィィイイッ!」

 しかし追ってくる蓮に捕まりそうになり、美緒は咄嗟に女子トイレに駆け込んだ。

 そして、女子トイレに入ることを蓮が躊躇している隙に、トイレの窓から外に脱出した。

「うわーん!首輪は嫌ー!!私、鎖で繋がれて、監禁されるんだー!!」

 美緒は家まで、泣き叫びながら走って帰ったのだった。


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